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おめでた。

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 海釣りは楽しかった。
 
 刺身も塩焼きも美味しかった。

 馬車の行き帰りは結構揺れるし酔いそうになったけど、まあ、ちょっと疲れた顔してるとダークがすぐ膝の上に乗っけてくれるのは今回ばかりは恥ずかしいより助かった。

 前世の感覚だと、板張りのベンチ+揺れの激しい鈍行列車に長時間って感じで、本当にクッションが敷いてあってもお尻と腰がね、痛いのですよとても。ジンジンする。

 いつもは短時間乗るだけだからあまり意識した事なかったけど、馬車はもう少し乗り心地を追求すべきだわ。サスペンションとかゴムタイヤの車輪とか早く普及してくれないだろか。


 でも、旅行っていいものだわー。


 ダークに食事は作れたし、誉めてもらって沢山食べてくれたし。
 私と同じ和風系のあっさり料理が好きだと言われたので、お弁当のメニューを考えるのが楽になるし。

 まあ新婚らしいいちゃいちゃもさせて頂いたし。




 でも、旅行って、帰るところがあるから楽しい気がするなあ。



 私達が無事にシャインベック家に戻ると、全員が出迎えてくれて、本当に胸が熱くなった。

 まだ若くて至らないばかりの嫁だけど、みんなが家族として受け入れてくれている気がして嬉しい。

 うちの伯爵家よりも人手が多いが、それでもルーシー以外は6人しかいない。


 厨房を預かっているジュリアは53歳。ダークの乳母だった人だ。小柄なのにとてもパワフルな人で、旦那さんとは死別していて娘と息子がいるが、既に結婚して孫が一人いると聞いた。

「世話をする人間がいないから気軽な身分でございますし、何か働いてないと落ち着かないもので」

 と厨房で料理してない時はメイドとして掃除をしてたり庭の手入れの手伝いをしてたりもする。

 執事のアーネストさんはとても58歳には思えないほどダンディなイケオジである。40代前半位にしか見えない。

 若い頃に騎士団でお義父様の下で働いていたのを、お義父様が引退の時に引っ張られたそうで、頭はいいし剣の腕も立つし、運動も欠かさないため筋肉質ないい体格をしている。
 彼は伯爵家の五男で、

「家は兄が継ぎましたので私は単なるごくつぶしでございました。
 まあ兄弟仲も良く争いとかはありませんでしたし、こちらにお世話になってから好き勝手に暮らせておりますので運が良かったんでございますね」

 と笑う独身のナイスミドルである。モテないし一人が気楽なんだとか。勿体ない話である。

 メイドのミルバは21歳。ボブヘアが可愛い立派な胸を持ったタレ目のふわふわした感じの女の子だ。
 ダークの事は、優しくて使用人にも気遣いを忘れない出来た主人だと思っているようだが、コソッと

「安心して下さい。失礼ですが旦那様の顔は全く好みではありません」

 と耳打ちされた。まあ好みならとっくに押し倒してそうな積極的なタイプなので、そこは余り心配はしてなかった。恋人もいると聞いて若干ホッとした事は否めないけど。ルーシーとは既に仲良くなったそうだが、ルーシー曰く、

「彼女は腐ってない方の婦女子でございました」

 とやや残念そうだった。私の周囲では珍しい。腐女子の園に咲く一輪の花である。

 庭師のマカラン(43)とメイド長のサリー(37)は夫婦とのこと。

 マカランさんは強面で無愛想に見えるが親切で、花を愛する人である。
 サリーさんは、メガネをかけた少しキツメの美人さんだ。ブラウンのロングヘアをお団子にまとめ、いかにも仕事が出来る有能な秘書みたいな感じ。
 話すと物腰が柔らかくてとてもいいアルトな声をしている。

 最後のアレックさんは27で執事見習い中。五年十年ほど後には引退して元気な内に旅でもしたいと言うアーネストさんの後継者だ。
 ダークの率いる第三部隊にいたのだが、武術の才に限界を感じたとかで、心酔しているダークの元で働きたいと押し掛けてきたそうだ。子爵の四男坊だとかで、ゲイであり同い年のジョニーという恋人がいる。
 ちなみに彼はごく普通の顔立ちなので、そこそこモテるタイプだろうか。分からないけど。


 しかし、彼がゲイだと知った時のルーシーの異常な昂り様といったらもう、思い出すだけで私の顔がひきつるほどだ。



 それは旅行から戻ってのんびりとお茶を楽しみながら、ダークから聞いていた使用人のプチ情報をルーシーと話していた時の事だった。



「リーシャ様、彼はどちらなのでしょうか?あの体格なら攻………いえ思い込みはいけませんですわね。何とか親しくなって相手の方も確認致しませんと」

「確認してどうするのよルーシー」

「ただ知りたい、それだけでございます。そう、人間探求心を無くしてはいけないのだ、とわたくし考えております」

「ゴシップ好きな社交界のお嬢様達と何が違うのか分からないわ」

「一番の違いは『自分だけで楽しみたいだけなので不特定多数へのリークがない』という機密性でございますから、相手に害はないといったところでしょうか。わたくしこう見えてもプライバシーは大切に扱うことをモットーにしております」

「ダーク様への私の情報のリーク度はプライバシーのプの字も見当たらないのだけれど、言い訳はあるのかしら」

「『リーシャ様はご自身の小説の音読に弱いので、身悶えする姿を見たければその辺りから攻めてみては』などというトップシークレットは一切お伝えしておりませんし、第一、これはリーシャ様の為なのでございますよ」

「………何故かしら?」

「わたくしが情報を小出しにしつつ信頼を得て、然り気無く旦那様の情報を仕入れる事で、リーシャ様のお好きな『ダーク様情報』を提供できるのです。 
 かなりのコーヒー党であるとか、実はトマトとセロリが嫌いだとか、トランクスよりブリーフ派であるとか、靴下を脱ぐときは右足からとか、リーシャ様が喜ぶネタかと思いましたが………残念ですがリーシャ様が嫌だと仰るならもうこんな無駄な事はーー」

「いえっ待って、待って頂戴ルーシー!何もダメとは言ってないのよ、ほどほどにと言いたかっただけなのよ」

「………それでは継続リサーチでよろしいですか?」

「お願いするわ。あと出来たら好きな女性の服装なんかも分かると嬉しいのだけど」

「かしこまりました」

 ルーシーは何だかんだいいつつも私の為に動いてくれるので、頼りになる。

「いつもありがとうルーシー。あなたのお陰で愛するダーク様の事が沢山知れて助かってるの」

「ですが何故直接おたずねにならないのですか?」

「………恥ずかしいからに決まってるじゃないの。
 細かい趣味嗜好まで知っておけば、もっと好きになってくれるかもなんて言えるわけがないでしょう。ただでさえヒッキーでコミュニケーション能力が基準値を大きく下回ってるんだもの。せめて情報は沢山持っておかないとダメなのよ」

「………そういうところが旦那様のヤル気スイッチ連打に繋がってるんですが、相変わらず自己評価が低すぎて残念なお嬢様………」

 ルーシーが小声でブツブツ言っていたが、

「え?旦那様が何?」

 と私が聞き返すと、ハッとした顔をして、

「いえ何でもございません。
 大丈夫です。旦那様とリーシャ様を、誰もが羨むオシドリ夫婦となるべく全力サポートさせて頂きます」

「ありがとう!やっぱり持つべきものは親友ねルーシー。ずっと側にいてね」

「当然でございます」



 そんなこんなでルーシーとの友情を深めた私は、ランジェリーの件を責めるつもりだったのをすっかり忘れていた。

 数日経って思い出したが、まあダークが可愛いと言ってくれたので、結果オーライだわと何も言わないことにした。
 ダークがエロすぎるとか言ってたら泣いて怒ってたかも知れないけど。




 そしてダークが仕事に復帰し3ヶ月。

 夏になり、屋敷での過ごし方などが分かり出した頃に、私が妊娠した事が判明した。





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