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リーシャに足りないのはやはりムチである。☆

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 何だかごっそりと体力と精神力が削られた1日であった。



 ゲイルロードの町の中心部からは少し外れた、ダークの知人の持ち物だと言う、こぢんまりとした素敵なログハウス風の別荘へお昼前に無事到着した私達は、一先ず旅の疲れを落とそうかと言う事になり、風呂の支度をしつつ、トランクの洋服をシワにならないようハンガーにかけておかねば、と寝室に運んだそれを開いた。


 いきなり目に入ってきたのは、エロいピンクだの黒だの紫だのといったカラフルな目に優しくない色の群れ。



「ひいいいぃぃぃっ!ルーシーーー!」



 私は絶叫した。
 その後ダークが来たら大変だわと慌てて口を押さえた。


 なんでだ。旅行支度は自分で全部やるとルーシーに宣言し、鍵もちゃんとかけたではないか。

 なぜそれに例のフラン達に勧められて購入したどエロいランジェリー類がてんこ盛りに入っているのか。

 私は入れた記憶は断じてない。

 犯人は………ルーシーしか有り得ない。
 疑いたくはないが、他に仕込もうとする人物の心当たりがない。


 ふと、以前にお茶をしながらルーシーが言っていた事を思い出した。


「リーシャお嬢様が外出して拐われる危険と言うのは、よそのお嬢様のうん十倍でございますので、拐われて何処かへ厳重に閉じ込められた場合であっても、いつでもわたくしがお助け出来るよう、解錠術も学んでおります」

 ルーシーってば本当に大袈裟よねえ、もう少し自分の為に時間を使いなさいよー、とかその時は窘めたのだが、まさかトランクの解錠にも有効活用されるとは。

 ルーシーは2つ年上の大好きな姉とも親友とも思い長い時間を過ごしているのだが、彼女は私を大事に思うあまり、なぜかやたらと私を過大評価し過ぎるきらいがある。

「お嬢様が拐われる」
「お嬢様が襲われる」
「ストーカーがまとわりつく」
「お嬢様が勝手に遠くの国の王族と結婚させられる」

 という被害妄想にまで発展し、護身術や先程の解錠術から、何に使うかよく分からない薬物取扱い免許や経理士免許、ワイン醸造資格免許など、私が聞いてるものだけでも幾つもの資格を取得している。

 いや、資格だけではない。


 私の覆面作家としての編集者との打ち合わせに執筆スケジュールの管理、街でのリサーチ等々、メイドの仕事以外にも軽々とこなしているのである。

 私などよりよほどハイスペックな女子なのだ。

 私が何度も「身体を壊すから作家の打ち合わせやスケジュール管理などは最低限でいいから」

 といっても、

「全く問題ございませんのでお気になさらず」

 と取り合ってくれない。

 じゃあもう大分お金も貯まったことだし、執筆は止めて何か小さなお菓子の店でもコソッと開きましょうよと言うと泣いた。

 それはもう涙で溺れ死ぬんじゃないかと思う位だばだばと泣いた。

「お嬢様の作品を読まずして、ルーシーめはこの先の人生を送れる気が致しません。それだけは!何卒それだけはぁぁ」

 と普段の落ち着き払った姿からは想像もつかないほどの取り乱し様だったので、慌ててその件は再考ということで実質的には取り止めとなった。


 腐女子としての自分が、未来のある有能な女性を腐の底無し沼に突き落としてしまったと思うと、心が痛まない訳ではないが、ぶっちゃけ隠していた小説を見つけて勝手に読んでしまったのはルーシーである。

 元から腐女子の種はあったのだ。
 自ら栄養を取り込んで発芽して、見事花開いてしまったものに対して、私に何が出来るだろう。
 枯れないようそっと栄養を与え続けるぐらいしかないのだ。


 ダークも私の薄い本については知っている。ルーシーがばらした時には流石に結婚危機一髪かと思ったが、あの人は本当に優しいので、いい恋愛の話だねと誉めてくれた。

 結婚の後、初夜の前に気になって、

「あの、ダーク様は恋愛対象は男性ではないのに、私の本を読んでて面白いんですか?」
 
 と聞いたところ、

「主人公か恋人をリーシャにして、相手を自分だと思って読むと、とても勉強になるし、愛が溢れて切なくなる」

 と照れ臭そうに笑っていた。

 まあ笑うと言ってもダークの場合は口元と目元が少々弧を描く、と言う感じだが、それでも大変尊い。

 私の太陽であり、私の月である。
 こんな腐女子を有り難くも嫁にしてくれたのだから、もっともっとダークが微笑んでくれるように心から努力しなければと思う。



 まあ今はそれはさておき、下着だ。

 私は服だけはシワにならないようクローゼットにハンガーを使って全部出した。

「うー………」

 風呂には入りたい。
 そして下着は当然着替えたい。
 しかしこのヒモパンだの、布地の最少記録更新中とでもいいたげなブラジャーしかも総レースなのに乳首周辺だけシースルーみたいな布地になっている恐ろしいものは着たくない。
 他のものも大なり小なりエロい。
 小なりと言ってもいいのかと思うほどエロい。
 とてつもなくハードルが高い。


 だけど、他に身に付けるものがない。


 ………そうだ。どうせ洋服の下なのだ。ダークに見えやしないのだ。

 少しでも生地が多くて隠れるものを探す。
 水色のレースのついたブラジャーと、セットのパンティを掴む。

 これなら何とか行ける、ような。

 パンティの後ろはフリルがついていて、可愛らしい、と思えない事もない。
 ブラジャーもパンティもヒモで結ぶようになっていたが、少なくともスケスケではない。いける。あれだ、高校時代に冒険して買った水着とかだと思えばいい。
 というかこれしかないのよ諦めなさいリーシャ。


 泣きそうになりながら着替えを持ち浴室へ向かった。


 二人とも別々に風呂に入り、上がったところで一休みし、部屋を見学する。

 4部屋しかない家のなかは、個人的には安心できる広さで心が落ち着く。

 馬車は家のものだが御者は臨時雇いであるため、町の宿屋で泊まってもらい、また帰るときに来てもらう事になっている。

 シャインベック家の御者は専任がおらず、普段は執事が兼任しているが、流石に家を一週間も放置して新婚旅行へ付いてくる訳にもいかなかったからである。


 家のなかも定期的に掃除などは行っているそうで、特に掃除が必要なところもないが、冷蔵庫はやはり空っぽだった。

「こちらにいる間は、私がダークの為に食事を作りたいので、町に食材の買い出しへ行きませんか?あ、勿論魚以外ですよ?」

「え!?リーシャが作ってくれるのか?………だが、新婚旅行なのに、そんな手間をかけさせる訳には………町に出ればレストランもあるのに」

 ダークがびっくりしたような顔で聞き返す。

「………私が作ったお弁当、美味しくなかったですか?」

「いや、とても美味かったし、毎日でも食いたい位だったが」

「なら、折角二人っきりですし、温かい料理を召し上がっていただきたいです!
 お弁当はどうしても冷めてしまいますから」

 私の料理は実家でもかなり評判は良かったが、出来立てと冷めたものではやはり味わいが違うのだ。

「それに………」

「それに?」

「レストランなんかに行くと、ほら、女性とか沢山いるじゃありませんか」

「………うん?で?」

 不思議そうに首を傾げるダークに、もうっ乙女心の分からない人ね、などと思ってはいけない。女性と初めて付き合ったのが私なのだ。経験値がない。
 

「………ダークといたら、綺麗な女の人が沢山寄って来ちゃうじゃないですか。格好いいし体も鍛えてるからセクシーですし。
 その、妻としてはゆったり構えていればいいんだと思うんですが、こう、何と言うか、近づかないで欲しいと思ったりですね、動揺して何食べてるかよくわからなくなりそうで………」

 俯いてしまう。想像しただけで胸がキリキリした。

「………………」

 無言なのでふと顔を上げると、久しぶりにダークが天井を見上げたまま口元を押さえて石化していた。頬も耳も赤い。

 ちょっと待って。
 今の話のどこに真っ赤になる要素があったのかしら。
 話じゃないとすると………

 はっ、と服を見た。
 白いブラウスにグレーの大人しいフレヤーのスカート。ボタンはきちんと止まってる。
 ビックリした、下着が見えてしまったのかと思った。

「ダーク………?」

 もしや、笑いを堪えて赤くなってると言うことかしら。確かに焼きもちとか子供っぽいと思われても仕方がない。

「いや、………すまない。ちょっと背筋を駆け抜けるものがあってな」

「まぁ、………え、やだもしかして虫ですか?………取れました?
 私、毛虫とか足が6本以上の虫は大の苦手で………」

 少しビクッとしてしまったが、

「いや、虫ではなくてだな………分かったリーシャ。じゃあ家で二人っきりで食事をしよう。買い物に行って、急いで帰ろう。すぐ帰ろう」

 よく分からないが、とにかく早く町に行きたいようだ。ダークもお腹が空いてるのだろうか。私もペコペコなのだ。

 まだまだ夫の思考回路を把握するには私も経験値が足りない。修行が必要だ。


 歩いて十分程の町の市場や商店で、せかせかと野菜や肉、ワインなどを買い、重いだろうに全てダークが持ってくれた。
 うちの夫は紳士だ。



 ………と思っていたのだが、帰ってきて冷蔵庫に食材をしまいこむと、なんでか速攻で抱き上げられ寝室に連れ込まれた。紳士どこ。

「ちょっ、まっ、待ってくだ」

「待てない。リーシャが足りない」

 本当に待って。あの下着を見られる訳には!

「ダメです、下着がっっ」

「………下着?………ああ、とても可愛らしいな。リーシャに本当によく似合っている」

 いつの間にかブラウスのボタンが外れていて、ブラジャーの上からダークが胸をやわやわと揉んでいた。なんて早業。
 しかし、可愛らしい?
 え、可愛らしいのかなこれ?エロいとかではなく?前世の知識は通用しないのかしら?

「いえ、………あの、破廉恥ではないですか?こういう下着とか」

「いや?びっくりする位可愛らしい。可愛くて可愛くて押し倒したくなるほど可愛らしい………下着だと思う。俺のために着てくれていると思うともっと可愛く感じる。
 もし、こういうのが他にもあるなら、せっかくだから、ここにいる間に全部着て見せて欲しい」

 首筋に口づけをしながら、ブラウスを優しく脱がしていくダークに、

(男性の感じ方は女性と違うのかしら。これ、ダークが可愛いと言ってるならきっと可愛い系なのね。ヒッキーだったからよく分からないけど、エロいと思われないなら、まあ良かったわ)

「でも、あんっ、見たいと言われても………下着を着てお見せするのはお恥ずかしいと言うか………難しいかと………っひゃんっ」

 いつの間にかスカートまで脱がされてる。

 ベッドに押し倒され、唇に軽くチュッとキスをされた。

「妻の着るものがどんなものか夫として把握しておかなければいけないと思うんだ。
 例えば可愛らしいランジェリーを見つけて、リーシャにプレゼントしたいとするだろう?
 被ったらイヤだろう?勿体ないと思わないか?」

「んっ………そ、そうですね。同じものとかだと残念で、っっあのっダークまだ日も高いですしご飯も作ってないのに、っはっっんんんっ」

 話しながら愛撫を加えていくダークの初夜からの上達の早さに私は驚く。何ですかこの応用力は。

「………先にリーシャを食べてからにしたい。………ダメか?」


 だーかーらー、イケメンの上目遣いとか卑怯なんですってばー。
 胸に顔をすりすりするのも止めて下さーい。ドーピングレベルの反則ですー。

 さらに私はお腹ペコペコですー。ご飯食べたいですー。

 ほらっここは強く突っぱねるのよリーシャ。
 どうせ夜にはまた押し倒される可能性が高いのだから、ここで断ってもいいのよ!



「うー、………召し上がれ」



 やはり私はダークには最弱である。






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