土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

文字の大きさ
上 下
40 / 256

【再び世界の中心で奥様への愛を叫ぶ】

しおりを挟む
【メイド・ルーシーの回想】


 私のお仕えしている大事なリーシャお嬢様が、とうとうご成婚である。
 なかなか感慨深いものがある。

 5歳の時から遊び相手兼メイド補佐として母の勤めていたルーベンブルグ家に入った私は、意外と冷めた子供だった。

 母が褒め称える『お嬢様』というのも、大袈裟な、と話し半分で聞くマセガキだったのだが、いざ実際にお会いしたら、私の理想を現実にしたような、絵本のお姫様そのものの2つ下のリーシャお嬢様に一目惚れした。大袈裟でもなんでもなく、今まで見たこともないほど美しいお嬢様だった。

 艶やかな黒髪、涼しげな切れ長の眼差し、黒曜石のような輝く黒い瞳、小ぶりな可愛らしい鼻に真っ白い陶器のような肌。

 私が一生お護りしお仕えする方はこの人しかいない!と心に誓ってから早十五年。

 お嬢様のために護身術も習い、予測防御とスピード特化で『赤い流れ星』の異名まで取った私でも、予測出来なかった事が3つある。


 お嬢様が腐女子であった事と、私もかなりの腐女子であった事、リーシャお嬢様がダーク・シャインベック様に恋をした事である。


 まあ、正直なところ最初は何も、よりによってあんな酷い顔の方を選ばなくてもいいではないかと思いはした。

 王族ですら囲い込もうとした気配すらあるあの傾国の美貌をお持ちのリーシャお嬢様を、王国の騎士団で第三部隊隊長を務めているとは言え、あんな彫りも深くて二重の鼻の高い、薄いライトブラウンの瞳のかなり歳上のオッサンに無駄遣いしなくても良いではないか。


 しかし、調べてみるとお人柄は街の評判もかなり高いし、爵位と顔にさえ目をつぶれば超優良物件であった。


 むしろ歳もかなり上の方が、あの腐女子な上に時々思考回路が読めなくなるトリッキーなリーシャお嬢様を、大人の包容力で包んでくれるのではないか。


 そして一番大事なのは、リーシャお嬢様が、ダーク様を中身も外見も奇跡のイケメンだと思い、自分が幸せにしてみせる、と引きこもり生活を脱却し外に目を向けるきっかけをくれた事である。

 昔からお嬢様の好みは少々おかし………個性的だったので、顔の方はもうしょうがない。

 そう納得してからは、積極的に応援する側へ回った。


 実際お話をするようになってからは、確かにお人柄の練れた善良で真面目な殿方だと分かるようになった。


 同タイミングで、国でも有数のイケメンであるルイ・ボーゲン公爵子息がリーシャお嬢様にアタックをかけてきた。

 確かに御二人が並んだ姿は一枚の絵画のようではあったが、人間的には心底クズだった。婚約をごり押しされずに済んで本当に良かったと思う。

 やはり、お嬢様は作家業で人柄を見抜く術が長けているのだろう。流石である。




 だが、ようやく婚約から結婚の日取り確定へと具体的に話が進んだにも関わらず、リーシャお嬢様はダーク様へ差し入れをするかデートするか以外は、ただひたすら原稿を書いてるだけで、色気皆無である。

 基本的にご自宅の環境からも質素に慣れており、無駄な出費と言うものを極力嫌うお嬢様には、悩殺系の夜着や勝負下着というエロ方面への考えが及ばない。贅沢品だと思っているからだ。

 このままでは、ご愛用のヨレヨレパンツやシオシオ寝間着で初夜を迎えかねない。


 私はフラン様に相談し、強引に組み込んだ買い物当日、無理やり若者に人気のランジェリーショップへお嬢様を連れていき、半ば強制的にエロい下着を山のように購入して頂いた。

 なんか遠い目をして魂が抜けかけていたようだが、いつかきっと私達の思いに感謝をする日が来て下さる筈である。



 結婚式のリーシャお嬢……奥様はそれはそれはお綺麗で、月の女神か太陽の愛し子かといった、溢れる美のオーラをこれでもかと撒き散らし、ダーク様………いや旦那様や大旦那様が号泣されていたのも致し方なしと思われるほどで、ルーベンブルグ家のご家族もフラン様も私もハンカチがびしょ濡れになるほど涙が零れた。

 私は、リーシャ奥様に付いて引き続きシャインベック家で働ける事になっていたが、なかなか会えなくなるご家族としてはかなりお辛かっただろうと思う。

「リーシャ、ツラくなったらいつでも帰っておいで」

 などと結婚式当日とは思えない不穏な発言を放ったルーベンブルグ家の旦那様が奥様に怒られていたが、それだけリーシャ奥様をご家族が愛しておられると言う事である。

 私もこれからは今まで以上にお力になる所存である。

 人妻で人気作家で、この先お子様まで生まれたら、リーシャ奥様は体がいくつあっても足りない。

 私は独り身を貫き、ずっとリーシャ奥様のお側にいると決めている。
 ぶっちゃけ、結婚などしてリーシャ奥様のお世話をする時間が削られるのはイヤなのである。

 必ずしも女性は結婚しないといけない訳でもないのだし、働いており生活力もある。自分の人生好きなように生きられるのである。



ーーーーーーーーー


 自分で出来るからと言うのを聞き流し、風呂で隅々まで洗い上げ、保湿クリームをしっかり塗る。髪もしっかり乾かした。

 案の定、いつものへたったパンツを風呂場へ無意識に持ち込んでいたリーシャ様からパンツを奪い取り、ハサミでざっくざくに切り刻んだ。

 まだ使えるのに、などとふざけた事を言ってるリーシャ様をタオル一枚で寝室に放り込み、黒のベビードールを突っ込んで閉じ込めた。

 マッパかベビードールかお好きに、と着用せざるを得ないようなニ択を突きつけリーシャ様には強制的にお色気モードへ入って頂く事にした。


 円満な夫婦関係は円満な夫婦生活からとも言う。

 いくら美貌の無駄遣いをしたがるリーシャ様とは言え、旦那様が襲いたくなるような下着は大事である。

 長いことお世話になる予定のお屋敷で円満な関係を陰から支援するのはメイドの務めでもある。

 うまいこと旦那様が戻られたので、中で奥様がお待ちです、とわざと聞こえるようにお伝えした。
 
 グッドラック、リーシャ様。


 ◇   ◇   ◇


 翌朝、というか既に昼近かったが、お姫様抱っこで食事に現れたリーシャ様を見ると、昨夜は円満な関係を営めたのではないかと安心した。

 旦那様がそれは幸せそうに膝の上に座らせてご飯を食べさせるのに対して、穴があったら入りたいといった真っ赤な顔のリーシャ様の対比はなかなか見所があった。


 二日後には、新婚旅行で海沿いの町で釣り三昧だそうだ。旅先でも新妻の色気を忘れさせてはならない。

 どうせ今回の事でリーシャ様は下着まで全部自分で用意すると言うだろうから逆らわず、出発直前に全部の下着を例の新品のセクシーランジェリーに取り替えておこう。

 だてに長くお仕えしてる訳ではないのだ。行動パターンなど読みきっている。


 食後、旦那様が私をお呼びになり、

「ルーシー、これからもリーシャの面倒は、くれぐれも、くれぐれもよろしく頼む」

 と力強く握手をされた。
 お互いにリーシャ様を想う者同士、通じるものがあった。



 後で秘密のノートには、
「旦那様はベビードールがお好みの模様」
 と控えておいた。
 ご旅行から帰られた際には、更に好みを把握せねばならない。


 私の幸せは、やはりリーシャ様と共にある。





しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...