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リーシャのターン。☆

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 私とダーク様の結婚式は、「噂の傾国の美貌を拝みたい」「美女と野獣の組合せを何としても生で見たい」「新郎もげろ」等々、お前ら祝う気ないだろと言う当事者には不本意かつ理不尽な理由で、遠すぎて本当に血縁か分からないくらい遠縁の親戚までもが出席したいと言い出し収拾がつかなくなりそうだったため、うちのパパンとママンが、ダーク様のお義父様と相談の上で、

『娘(嫁)がずっと体が弱かったので、いきなり人が沢山集まると、環境に馴染めずまた具合が悪くなる可能性があるので、ごく近い身内だけでひっそりと挙げる事になった』

 と全部ぶん投げた。

 病弱設定万歳。

 いや、私としては大変有り難いですけども。

 期待されても、未だに慣れないんですよ傾国の美貌(笑)とか言われても。
 ヒッキー生活18年なので人が多いのも辛いし。
 だから土偶なんですってば。


 それに、ダーク様を見世物扱いにして貶めようとする不愉快な輩にぶちきれてしまいそうだったのもある。

 ただ、仕事関係の方とか招かないのは不味くはないだろうかとダーク様に相談したが、

「報告はちゃんとするし、俺はリーシャの花嫁姿を親族以外の男に見せるのは絶対にイヤだったから全く問題ない」

 と蕩けそうなライトブラウンの目で笑みを浮かべ、頬をスリスリされた。


 ………うん。

 いや、本当に嬉しいんですけど、奇跡の美貌に間近で見つめられたり頬ずりされると、居たたまれなさがですね。


 この世界は、私が前世では近づくのさえご遠慮したい美男子がゴロゴロしていて、嗜好の違いであっさり顔至上主義のため、神が限界まで美の追求をしたかのような、中身も外見も奇跡のような美しさのダーク様は、ぶっちぎり首位独走系の不細工という、なんとも前世の価値観では許しがたい不名誉な扱いを受けている。

 幸いにも、『私がダーク様を幸せにしたい』という願いは天に通じて両想いになれたのだけは神に感謝したいが、もう少しこの世界の不細工扱いの方々がまともに接してもらえるような世の中であればもっと嬉しいのにと思う。


 これから頑張ってダーク様をドロッドロに甘やかして今までの辛かった出来事を少しでも忘れて貰うわ! と私は決意し、指輪の交換で感極まって涙が出そうになったが、その前にダーク様が号泣した。

 更にはお義父様まで号泣した。

 パパンもママンも兄マークスも弟ブライアンもハンカチで溢れる涙を拭いまくり、それを見てルーシーとフラン、我が家のルパートさん達使用人までもらい泣きした為、何故だか自分の涙が引っ込んでしまった。
 人に先に泣かれると冷静になると言う話は本当だった。
 お陰で綺麗にしてもらえたメイクがボロボロに落ちずに済んだのだけど。


 まあ、そんな感じで無事に式も済み、食事をし、家族は自宅へ、フランも侯爵様の屋敷に帰って行き、お義父様は馬車で5時間はかかるセカンドハウスの方へ戻っていかれ(ダーク様の話だと最近仲良くしてる未亡人の女性が居るらしい。お義母様が亡くなられてかなり経つので、このままいい関係になれると良いと思ってるそうだ)、私はダーク様の屋敷の中を案内してもらい、使用人の方々ともきちんと顔合わせをした。

 長いこと仕えている年配の方が多かったが、皆ダーク様を慕っており、結婚も心から喜んでいる様子が窺えて、私も嬉しかった。




 そして、である。



 私は自分で入れると拒否したがガン無視されたルーシーに風呂場へ連れ込まれ、頭から爪先までピカピカに磨かれた。

「やだわ、なんだか『いつでも準備万端です!』みたいじゃないのルーシーったら」

 何枚ものタオルで念入りに髪を拭かれながらも文句を言うと、

「お嬢様は自覚がおありかと思いますが、ご自身の美容的な事になると途端にどうでもよくなる方でございます。『髪?暫く放置しとけば乾くでしょ自然乾燥自然乾燥』『化粧水?あー忘れてたわね』『保湿クリーム?あれ冬場だけで良くない?』エトセトラエトセトラ。
 いくらご自身の美貌に興味がないとは言え、新婚生活初日にダーク様にそんな大雑把なお嬢様をお見せする訳には行きません」

「………いくらなんでも初日に私がそんな雑な事をするとでも思ってるのかしらルーシー?
 愛するダーク様に妻としてキチンとした姿でご挨拶するつもりだったわよ?」

「じゃあ、そのお手元にお持ちの着替え用のくたびれたパンティは何でございますか?」

「………あっ、いえこれはっ」

 涙を飲んでまだ使えるロングワンピースは捨ててきたのに、身体に馴染んだパンティは無意識に持ってきていたらしい。

 ルーシーは私からパンティを取り上げると、ポケットからハサミを出してザクザク切れ目を入れた。

「ああっ、まだ使えるのにっ」

「現時点で廃棄物となりました。さようなら。来世での出会いを祈りましょう。
 まあ。着るものがないと困りますね。ではこちらを」

 ルーシーが取り出したのは、フランに拉致られ連れていかれたランジェリーショップで購入させられた黒の総レースのベビードールであった。

 スッケスケである。

 もう一度言う。本当にスッケスケなのである。

 レースだから当然といえば当然なのだが、胸も体のラインも丸見えだし、パンティも隠す意思が全く感じられない闇アイテムだ。

 何度も私にはこれは無理だと涙ながらに訴えたのに、「大概の男性は絶対に喜びますから」「ダーク様が惚れ直すわ!」などと購入アイテムの1つとして店主に渡され、ピンクと白の同じようなスッケスケのベビードールと共に購入する羽目になったのだ。

 他にもどエロい下着が山のように袋に詰め込まれた時には、既に魂が抜け出ており、他人事のように袋を受け取り、屋敷へ戻ってルーシーに渡した後、遠い記憶の彼方に捨てていた。

「………何度でも繰り返すけれど、貧乳の女子力マイナスの私にこんな最終兵器は無理だとあれほど言ったじゃないの」

「何度でも申し上げますが、貧乳も女子力マイナスも全てカバー出来る魔法のアイテムだとあれほど言ったではありませんか。
 今ダーク様は入浴されております。
 着替えるなら今しかないのです。
記念すべきダーク様との初めての夜をワゴンで一山いくらのゴムが伸びかけたパンティで迎えるおつもりですか?」

「………だからと言っていきなりこれはないのじゃなくて?ステップと言うものがあると私は思うのよ」

「処女のクセに『後ろの穴は俺に挿れられる為だけにあるんだろう?』とか王であるベルガーに言わせていきなりヒースクリフにアンアン言わせてる方がステップなど何を仰いますやら。
 片腹痛いとはこの事でございます。
 ヒースクリフで思い出しましたが………あ、いえそんな時間はございませんでした。
 リーシャお嬢………いえリーシャ奥様、ダーク様の結婚休暇の二週間は執筆の事は一切合切忘れて、素敵な蜜月をお過ごし下さいませ」

 最後の抵抗として巻いていたバスタオルをルーシーに剥ぎ取られると、私は真っ裸で寝室に突き飛ばされ、黒レースのベビードールをベッドに放られて扉を閉められた。

「ルーシー!ルーシー!」

 扉はルーシーが押さえてるのかびくともしない。

「マッパでもベビードールでもお好きな方をお選び下さいませ。むしろマッパの方が旦那様の理性が切れやすくて宜しいかも知れません。
 ………ああ、そろそろ旦那様が出られますねぇ」

「ちょ、ちょ、ちょ、」

 マッパよりはマシかと急いでベビードールを身に付けた。姿見で見て涙目になる。
 マリリン・モンローのようにセックスシンボルみたいなレディが身に付けて映えるものだ。私にこんなのを着てどうしろと言うのだ。

「あ、旦那様。奥様は既に奥でお待ちでございます」

「あ、ああ。ありがとうルーシー」

 扉の外からルーシーとダーク様の声が聞こえた。

 咄嗟にベッドから上掛けをむしりとり体に巻き付けた。

 ノックの音がして、

「………リーシャ?その、入ってもいいか」

 とダーク様の声がした。

 言う言葉など一つしかないではないか。

「ど、どうぞお入り下さいませ」





「………リーシャ、どうした?寒いのか?風邪でも引いたのか?」

 ダーク様は寝室に入ると、ベッドに座る私の上掛け巻き巻きな姿を見て驚いていた。

 寒いのは勝負夜着を着てしまった自分の心ですとは言えない。

「………ほんの少しだけです。お気になさらず」

 とだけ笑顔で返した。

「そうか………」

 そっとリーシャが腰かけているベッドの隣にダーク様が座る。

 相変わらずの人外な美貌、力強い筋肉が窺える薄いナイトガウンの胸元をそれとなく見つめ、自分の貧相な体を思い心のなかでため息をつく。

 前世であれば自分などは見向きもされないようなイケメンである。

 その上お人柄も素晴らしいのである。

 相手の事を考え、行動できる人。努力を怠らない人。
 優しくて、表情は変化に乏しくクールに見えるが、実は喜怒哀楽が行動で分かりやすい。最近は少し笑みも見せてくれるようになったが、それがまた魂を揺さぶるような破壊力である。


 好きです。愛してます。
 結婚して下さい。

 あ、結婚はしてた。


 まあつまりは、自分には勿体ないほどのハイスペックなのである。


 この国では薄味な顔がイケメン認定のせいで不細工扱いをされ、酷い言動も数限りなく受けているに違いないのに、誰を恨むでもなく心が歪みもせずに真っ直ぐ成長している。

 この人を幸せに出来るのは私しかいない、などと調子に乗って頑張ってしまったが、本当に私しか幸せに出来なかったのだろうか。

 フランだって私と同様、不細工がイケメンと思える人だし、性格もいい。優しいし日本美人的な素晴らしい友人である。侯爵令嬢で身分も高い。

 私やフランのような考えの人が、実は結構居たりして、マイノリティだからと口に出さないだけで、本当はダーク様を好きだと言う女性が存在したら。

 その人の方がダーク様をもっと幸せに出来るかも知れなかったのに、それを邪魔したのではないか、などと考えると頭がぐるぐるしてくる。

 何しろBL小説書く以外は料理や掃除位しか取り柄がない女である。
 私だけが彼を幸せに出来る、などと傲慢な考えをして良かったのだろうか。


「おいリーシャ、何を考えてるんだ?」

 肩を抱いて暖めるようにしながらダーク様が私の顔を覗き込んだ。

「………いえ。ダーク様は、本当に私と結婚してしまって良かったのかとちょっと思ってしまいまして」

「………リーシャは俺と結婚したのを、後悔してるのか?」

「いえまさか!
 ただ、私が一方的にグイグイと押してしまったので、ダーク様に気持ちを押し付けたかも、とですね………」

 グイッ、と体の向きを変えられ、ダーク様の唇が私の唇に重なった。

 いつもは軽く触れるようなものだったが、今夜は舌を入れ、私の口を押し開けて入ってきた。歯の裏を優しく舐められ、私の舌を吸い上げて自分のそれと絡めるような濃厚なキスに、体の力が抜けそうになる。

「………んっ、んむっ」

 息が出来なくなりかけ涙が出そうになったタイミングで唇が離れた。

「そんなバカな事を言ってるのはこの口かリーシャ?」

 ダーク様が私の唇をチロリと舐める。

「俺は、リーシャお前がいい、お前しか欲しくないと言ったよな?もう忘れたのか?」

 ぎゅうっ、と私を抱き締めて耳元で囁くダーク様の声が、胸を締め付ける。

「私は、正直にいって皆さんから褒めて頂くほど自分を綺麗だとも可愛いとも思った事は一度もないですし、文章書く以外は料理位しか出来ません。
 ダーク様の側にいても、私だけが幸せで、本当にダーク様を幸せに出来るのかと思うと、どうしたらいいのか迷うばかりでーーー」

「愛するリーシャが側にいてくれれば、それだけで俺は既に幸せだ。
 お前は本当に美しいと俺は思う。外見もそうだが、何より心が綺麗だ。こんな不細工な俺と結婚してくれただけで、一生分の運を使い果たしてるし、それでも足りないと思う」

「もうっ!ダーク様の方がカッコいいんですってば。顔も見たことない位綺麗ですし、お心はもっともっと綺麗です!」

「………ククッ。そんな事を言うのはお前だけだリーシャ。
 でもな、例えお前の目が少しおかしいとしても、リーシャがそう思ってくれるだけで嬉しい。他の誰でもない、お前がそう言ってくれるだけで、とても心が温かい気持ちになる」

 含み笑いも色気駄々もれで気が遠くなりますダーク様。

「ずうっとそうやって俺がカッコいいと勘違いしていてほしい。………俺をずっと好きでいて欲しい。愛してるリーシャ。
 俺は、一生そんなお前の側に居たいんだ」

 ダーク様は私の額にそっとキスをする。

「ダーク様………これ以上好きになりようがない位ですのに、なんて殺し文句をおっしゃるんですか。そんなこと言うと、本当に一生離れませんからね」

「………おう。望むところだ。俺の奥さん」

 奥さん、という言葉で私はふと前世であればやりたかった事を思い出した。

 慌てて上掛けを剥いでベッドの上に正座する。


「ダーク様、ふつつかものですが、これから末永くよろしくお願いいたします」

 三つ指で頭を下げた。


(………あれ?)


 ダーク様が無言である。

 やはりこの挨拶はこの国では馴染まない感じかしらね、と思い顔を上げると、



 ダーク様が目を見開いて口元を押さえていた。

 何故か指の間から血が見えた。
 シーツにポタポタと血が垂れる。

「ダーク様っ血が!何処かにぶつけましたかっ?今人を呼びますからっ」

 慌てて立ち上がり扉に向かおうとする私の腕を掴み、ダーク様は首を振った。

「………すまん、そ、それが余りにも刺激が強かったので頭に血がのぼって鼻血が出ただけだ」


 ………それ、とは?


 私はふと思い出した。

 何故上掛けを羽織っていたのかを。



 目線を下に落とす。

 黒レースのスッケスケのベビードール。


「ひゃぁぁぁっ!すみませんすみません!ルーシーが絶対にこれを着ろと言うのでそのっ、あのっ、でもやっぱり痛い子みたいですよねこれ。ちょっと着替えてきますから少しだけ待っっ」

 限界まで顔が真っ赤になってるだろう私は、身の置き所がなくなり逃げ出そうとしたが、ダーク様が口元を押さえてない方の手で私の腕を掴んだ。

 
「ダメだ着替えなくていい!そのままがいい」

 
 ダーク様の射るような眼差しの中に昂った欲望を感じた私は、この辱しめは続行なのかと涙目になった。





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