土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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その後の平凡な1日。

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「………なあヒューイ」

「何ですか?指揮官どの」

「その敬ってる風な喋りをしたいなら、まずソファーに寝転がるな。後、そのクッキーも俺のだ」

「40にもなって大人げないなー。1つや2つ減るもんじゃなし、良いじゃねえか」

「まだ39だ!それに確実に減るだろうが」

「しがみつくねぇ30代」


 リーシャと結婚してから7年。


 25歳になったリーシャは、四人の子供を持つ母親とは思えないほど可憐で美しく、日々ため息が出るほどだ。こんな俺に毎日「愛してる」とか「大好き」と言ってくれる本当にクッソ可愛い愛する妻である。


 長男カイルは6歳になり、髪は俺と同じダークシルバーだが、顔は幸いな事にリーシャ似の美形で、

「ぼくもとーさまのようにつよいおとこになりたい」

 と剣の稽古をするようになった。

 5歳になった次男のブレナンは目は俺譲りのブラウンだが、こいつもリーシャ似の将来有望なイケメンで、絵を描く事が好きだと言うから画家の道に進ませるのもいいかも知れない。

 そして末っ子の双子である。

 3歳になった彼女達アナスタシアとクロエ、は、黒々とした艶やかな髪に切れ長の目、こぢんまりした可愛らしい鼻、それはもうリーシャと瓜二つと言っていいような可愛らしさで、メイド兼覆面作家兼護衛兼………あー忘れたがそのルーシーが、

「この世界で女神のように美しいリーシャ様が増量………なんというお得感…(当社比)」

 などと身を震わせて喜んだ。
 彼女はリーシャとリーシャの才能をこよなく愛しているので、今が人生至福の時と満面の笑みで子供たちの世話をしてくれる。
 ルーシーは結婚して奥様やお子様達の世話が疎かになるのが嫌だから、生涯独身宣言をしたとリーシャが俺に教えてくれた。

「私もダークと子供たちがいて幸せだから、ルーシーにもいい出会いがあれば幸せになってもらいたいのよね………。
 あらダーク、少し伸びたお髭がセクシー。今日もうっかり押し倒したくなるほど愛してるわ」

「………おう。いつでも遠慮なく襲ってくれ」

 まあそこから夜的なイチャイチャが発生してしまったが、リーシャが可愛過ぎるので仕方がないのである。


 仕事もまぁ少し出世して、五年前から第一から第四部隊の統括指示を任せられるようになった。
 ヒューイも副官として来たため、第三部隊の時と変わらない感じである。

 ヒューイは食堂のミランダと結婚して、娘が産まれた。アナスタシアとクロエと同年である。


 妻と娘の写真を執務室の机に乗せてスリスリしながら、絶対嫁にはやらねー、素直すぎてチャラい男に騙されそうだ、などと愚痴っているが、父親自身が男も女も手当たり次第に食い散らかすチャラい男だったというのは棚のものすごく上の方に上げられている。

 まあ今は浮気もしないいい夫であり父親なのだが。



「ところで、なんで機嫌悪いんだダーク?コーヒーが少し苦い」

 相変わらずコーヒーを俺の執務室で俺に淹れさせてるせいか(自分でいれるより全然美味いんだそうだ)、ヒューイは味に敏感である。

「………昼間、な。リーシャが弁当とクッキー届けに来ただろう?」

「ああ。遅刻かと思う位ギリギリだったなお前も」


 少々夜が盛り上がってしまったせいで珍しく寝坊してしまったのだが、まあそれはさておき。


「リーシャが来た時の部下の殆どがイヤらしい目で見やがった。若い奴は顔を真っ赤にして熱い眼差しで眺めてやがった」

「リーシャちゃん、いや夫人か、ますます美人になったんだからしゃあねぇだろ。男ってのは素直な生き物なんだよ」

「それでも嫌なものは嫌だし不愉快だ。俺の妻だぞ。
 表を一人で歩かせたら絶対に拐われる。ルーシーが護ってくれるとしても不安で仕方ない。イケメン男につきまとわれたりラブレターとか渡されたらと思うと胸が苦しい」


「要は、最近は表に出さないようにしていた奥さんが、大勢のヤローの前に無防備に晒されたもんだから、今さらながらに己の幸運を実感し、心変わりされたらと言う恐怖と嫉妬心が半端ない、と。
 お前も7年も一緒にいて、未だに奥さんが信用出来ないの?」

 呆れた顔でヒューイは俺を眺めた。

「………多分、お前のような男前には分からんだろうな」

 いつでも心の底で見えない諦念が渦巻いているような不細工の気持ちは。

「いやー、でも最近はダークがそんな不細工にも見えないんだよな俺。多分、愛情に満たされてるせいなんだろうなと俺は思ってる。落ち着きが出てイケメンじゃねえけどいい感じ。今のお前なら抱いてもいい位だ。いや、今は愛する妻がいるからダメだけど昔の俺ならって話な」

「おい。不気味な事を言うな。………いや待てそんなに不細工じゃない?嘘つけ」

「いやマジで。最近自分でもそんなに女性から避けられたり眉をひそめたりされないと思わないか?」

「………考えたこともなかったが………そう言えば受付の女性も、街で買い物しててもあからさまに引かれる事はなくなったような………」

 大概街に出るときはリーシャが一緒なので、不埒なヤローの視線をブロックするのに必死で自分の事を考える暇はないのだが、言われてみると不愉快な気持ちにさせられることは最近ないような気がした。

「だろ?いい味が出てきたってことさお前も。いいねぇ、愛されちゃって。体から幸せオーラが出てるからねー」

 俺は一枚だけクッキーをヒューイに取り出してやった。

「………誉めてやったのになんてけち臭い」

「要らんなら返せ」

「もう無理でふー」

 慌ててクッキーを口に放り込んだヒューイは速攻で食べ終えると、あー、やっぱり甘さ控えめで美味いなー、リーシャさん料理上手くていいなー、見た目も綺麗で中身も良妻賢母とかお前は前世で徳を積みすぎだ、少しは前世に感謝しろと言い捨て、仕事に戻っていった。

 確かに幸せ過剰な気はする。
 下らない事で悩んでる暇があったら、早く仕事を終わらせてリーシャと子供達が待つ我が家に帰ろう。

 俺は決裁書類を眺め、サインを書き出した。



◇   ◇   ◇


「とーさまー、おかえりー」
「とーさまー、おつかれさまー」

 リーシャのミニチュアのようなアナスタシアとクロエが、俺が帰って来るとトテトテ走って笑顔で抱き着いてきた。
 至福の時である。
 上の子二人は庭でまだわーわー遊んでいる声がする。
 二人を抱き上げると頬にキスをして、

「いい子にしてたか?」

「いいこしてたよー」
「でもねーかーさまごきげんわるいのー」
「なんかねールーシーがよちよちしてたのー」
「なんでかなー」

「母様が?どうしたんだろうな。ちょっと見てこよう」

 リーシャ、もしや具合でも悪くなったんだろうか?あんなムサイ仕事場で男のやらしい目に晒されたんだ、そら気分が悪くなってもおかしくない。

 俺は双子を下ろし、メイドに任せるとリーシャを探しにいった。



「………のよ」

「ですから、旦那様が………」

 リーシャが『仕事場』として執筆活動をしている図書室から声が聞こえた。ルーシーの声もする。

 俺の話のようなので、気になってしまい、思わず気づかれぬようにそっと近づいて耳を澄ませる。
 

「………受付に女性がいるなんて知らなかったわ。その上、美人な子が二人も。危ないわ、危なすぎる。ダークが狙われたらどうしよう。だってダークはあんなに色気駄々漏れなのよ?神々しいほどセクシーダイナマイトなのよ?いえむしろ神より身近なだけにたちが悪いわ。どんな女性でも誘われたら断れないでしょう。
 やっぱり子供もいるくたびれたエロい小説書いてるような妻より、若くて綺麗な女性に目移りするのは仕方ないのかしら」

「リーシャ様がくたびれた妻ならあんなに殿方の目を奪わないでしょう。正直以前より美しさも色気も増し増しでございます」

「またまた。お世辞はいいのよ。ダークにだけ愛されてれば幸せなのよ私。他の男はどうでもいいわ。
 どれだけ愛してるか毎日伝えても不安なのに、日々男っ振りが上がるのよ?周りの女が放っておいてくれる訳ないと思わない?
 でもこんな醜い嫉妬心なんか知られたら嫌われてしまうわ。あーもう下手に手を出されないように、毎日でもお弁当持っていって私の夫だとマーキングしないとダメかしら。どう思うルーシー。ウザいわよねどう考えても」

「いや旦那様はむしろお喜びになると思いますし要らぬ心配だと思いますけども。
 それより執筆が只でさえ遅れぎみですからヨーデリアンと私のためにも何卒21巻の原稿をお願いします」

「今の私はダークが第一、子供たちが第二。三、四がなくて五に執筆なのよ」

「優先度低っ。せめて三にして下さいませ読者が泣きます。私はもっと泣きます。
 ですから、旦那様はリーシャ様をとても愛されてますって何度言えば分かるんですか。使用人全てから注がれる生暖かい視線をよくそこまでスルー出来ますね」

「あああ、それよりもまずはダークがもう戻る頃なのよ。何とかこのジェラシーをどこかに逃がさないとイヤな顔で出迎えたくないのよぉぉ」




 リーシャが、嫉妬してる。俺に。




 俺は、そっとその場を離れ、書斎に音を立てないように入り扉を閉めると、顔を覆ってうずくまった。



 あーうちの奥さんが可愛すぎてツラい。


 何だ?俺を殺す気なのか。
 いやもう何度も殺されかけてるが。
 

 リーシャほどの女性に嫉妬されるなんて、男としては本望と言ってもいい。砕けそうな自尊心が修復されていくのを感じる。リーシャには悪いが嬉しい。ただひたすら嬉しい。


 しかし、受付の女性は美人だっただろうか。リーシャ以外の女性に全く興味がないせいで気にしたこともなかった。
 

 顔の火照りが収まると書斎を出て、さも今帰ってきた風を装いながら、廊下を小走りでやってきたリーシャに呼び掛けた。

「お帰りなさいませ旦那様」

 にこにこしているリーシャを眺め、ぎゅっと抱き締め頬にキスをした。

「ただいま、俺の愛する奥さん」


 あたふたして顔を赤らめるリーシャに、俺は教えなくてはならない。


 リーシャが嫉妬するようなことは何も起こりはしないのだと、これからも愛してるのはリーシャだけだと。

 ただうちの奥さんは、自分は凡人で、俺の事を未だに自分なんかよりよっぽど綺麗で奇跡のように中身まで素晴らしいと勘違いしたままなので、俺の方がもっと愛してて、奇跡のように美しく中身も極上と思っていて、どうあっても一生離せないと思ってるという事を理解してもらうのには、下手すると何十年もかかりそうな気がする。


 大丈夫だ、俺は気が長い。

 子供たちが独り立ちしてからも延々と口説き続けよう。

 
 ひとまず今夜から、だな。





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