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あと一押しが欲しい。
しおりを挟む私がダーク様を幸せにするべく囲い込み政策を採り出してほぼ一ヶ月。
今日も執筆の合間にルーシーとティータイムという名の作戦会議である。
「ダーク様は、手を繋ぐのも自然にして頂けるようになったし、膝枕も改めてお願い出来たし、お弁当も時々差し入れ出来るようになったし、撫で撫でもして下さったし、新作のアップルパイも美味しいと食べて下さったわ。そして、緊張で石化する事も大分減ったように思うの。
これは私が考えるに格段の進歩ではないかと思うのよ」
「野性の猫を飼い慣らすような進捗率でございますね」
「ダーク様はただでさえ女性に対しての不信感が根強いんだもの、慎重に行かないと。でもねえ………」
「どうされましたか」
「いえ、慎重に、とは言ってもよ?そのー、そろそろ一歩進展があってもいいんじゃないかしら」
「私から見れば充分恋人同士でございますが」
「でも、好きだとかお付き合いしましょうと言われた覚えはないのよ。私が勝手に勘違いしてたら空回りもいいとこじゃない。内心嫌がってたとしても優しいダーク様だもの、誘いを断ると言う選択肢はないと思うのよ」
「………なんと。うちのリーシャお嬢様をメッシー扱いとは。社会的に抹殺を」
「ストップバイオレンス。縁起でもない事言わないで頂戴。私が勝手に迫ってるだけなのよ。振り向いてくれるまで地道に進めると言ったでしょ」
「左様でございました。ついカッとしてしまいまして。少しわたくしも大人にならなくては。
大人、で思い出しましたが、先日発売されました『マクシミリアン教授のプライベートレッスン』ですが、どうやら【薄い本オブザイヤー】へのノミネートが決まったようで」
「ルーシー、貴女どうしてダーク様の話をいつもぶったぎるのかしら。
でもちょっと気になる話ね、薄い本オブザイヤーって聞いたことないけど。
続けてちょうだい」
「今年から新設された賞でございます。
天涯孤独な独身貴族、40代後半のマクシミリアン教授が、自宅の書庫整理のアルバイトに雇った20歳のチョイ悪青年クラウスに恋をしてしまう、というイザベラ=ハンコック初の年の差愛という事で事前に話題になった作品です。
でも流石に親と同じような年齢差では悲恋になるのでは、とハラハラしていた読者は、『年を取るとな、量より質が大事なんだ』という教授の大人発言から、まさかの本文の6割をレッスンに熱を入れすぎだろうと突っ込みたくなる濃厚なベッドシーンの描写に充てるという前歴のない構成と、ラストシーンでのクラウスの、『仕方ねえな、………おいオッサン、俺が死に水取ってやっから、一緒の墓に入れろよ』の逆プロポーズに思わず号泣した、老け専枯れ専看取り専の金字塔となる名作だ、胸の鼓動が収まらない、オッサンは興味がなかったのに新たな扉を開かされてしまった、俺のマクシミリアン教授はどこにいると出版元にファンレターが殺到するほどの高い評価を頂けたのがノミネートの理由だそうでございます」
「ちょっと作者も引くほどの熱量で驚いたわ。でも絶対支持層はいると思ってたのよね。どこの世界にもコアな人はいるもの。
………だけど、ノミネートされるほど薄い本の作家ってそんなに沢山いたかしら?」
「お嬢様を含めて5名おられますが、御一人はお子様が生まれたので育児に専念されるそうで断筆、また御一人は旦那様にバレて引退させられ現在実質3名ですね。どうしてもお嬢様レベルのクオリティが出せる方はなかなか」
「確率3分の1じゃないの。ありがたみが一気に失せたわ。もうアミダとかで良いじゃない。1年ごとの持ち回り制でもいいし」
「商店街の相談役選びみたいな事を仰らないで下さいませ。お嬢様なら毎年名作を生みだされるので、薄い本オブザイヤーはイザベラ=ハンコックの為にある、と言わしめる事間違いなしです」
「そんなタイトルホルダーを、私が喜ぶとでも思っているのかしらルーシー」
「受賞すれば売り上げが伸びます」
「そうね。まあ、どうしてもと言うなら頂くのは吝かではないわね。タイトルについては目をつぶるわ」
「お嬢様の多才ぶりは隠しきれないので、もうバンバン名作を生んで下さいませバンバン」
「分かったわよ。でも、そんなに腐女子作家が少なかったとはね。どおりで書いては次の〆切、書いては次の〆切とやけに忙しいと思ったわ」
「売れっ子になってから原稿料も上がりましたので、どーんと新しいドレスでも買い求められては?」
「今あるもので十分よ。それならこないだ折れた釣竿の代わりが欲しいわ。もっと丈夫なの。かなり年季も入ってたし」
「ぶれないですねお嬢様。まあそこがいいとこですけども。
ところで二日後の騎士団の訓練見学会ですが、今回は第一から第四まで各部隊の隊長が手合わせするようですよ。ダーク様が一番お強いとは思いますが、ここはリーシャお嬢様が応援して華を添えると言うのは如何でございますか?
他の女性への牽制にもなりますし。まあ不要な心配とは思いますが」
「だからどうしてそんな大事な情報を一番後回しにするのよ」
「近頃ダーク様のお話ばかりで、少々構って頂けないジェラシーがついメラメラと」
「………ごめんなさいねルーシー。でも親友にしかコイバナなんか出来ないし。
他には友達もいない寂しいボッチなのよ私」
「まあジェラシーはさておき、当日の戦略でございますけれど」
「まあなにかしら」
そしてまた今夜もひそひそ話は深夜まで続くのだった。
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