上 下
20 / 256

あと一押しが欲しい。

しおりを挟む

 私がダーク様を幸せにするべく囲い込み政策を採り出してほぼ一ヶ月。

 今日も執筆の合間にルーシーとティータイムという名の作戦会議である。


「ダーク様は、手を繋ぐのも自然にして頂けるようになったし、膝枕も改めてお願い出来たし、お弁当も時々差し入れ出来るようになったし、撫で撫でもして下さったし、新作のアップルパイも美味しいと食べて下さったわ。そして、緊張で石化する事も大分減ったように思うの。
 これは私が考えるに格段の進歩ではないかと思うのよ」

「野性の猫を飼い慣らすような進捗率でございますね」

「ダーク様はただでさえ女性に対しての不信感が根強いんだもの、慎重に行かないと。でもねえ………」

「どうされましたか」

「いえ、慎重に、とは言ってもよ?そのー、そろそろ一歩進展があってもいいんじゃないかしら」

「私から見れば充分恋人同士でございますが」

「でも、好きだとかお付き合いしましょうと言われた覚えはないのよ。私が勝手に勘違いしてたら空回りもいいとこじゃない。内心嫌がってたとしても優しいダーク様だもの、誘いを断ると言う選択肢はないと思うのよ」

「………なんと。うちのリーシャお嬢様をメッシー扱いとは。社会的に抹殺を」

「ストップバイオレンス。縁起でもない事言わないで頂戴。私が勝手に迫ってるだけなのよ。振り向いてくれるまで地道に進めると言ったでしょ」

「左様でございました。ついカッとしてしまいまして。少しわたくしも大人にならなくては。
 大人、で思い出しましたが、先日発売されました『マクシミリアン教授のプライベートレッスン』ですが、どうやら【薄い本オブザイヤー】へのノミネートが決まったようで」

「ルーシー、貴女どうしてダーク様の話をいつもぶったぎるのかしら。
 でもちょっと気になる話ね、薄い本オブザイヤーって聞いたことないけど。
 続けてちょうだい」

「今年から新設された賞でございます。
 天涯孤独な独身貴族、40代後半のマクシミリアン教授が、自宅の書庫整理のアルバイトに雇った20歳のチョイ悪青年クラウスに恋をしてしまう、というイザベラ=ハンコック初の年の差愛という事で事前に話題になった作品です。
 でも流石に親と同じような年齢差では悲恋になるのでは、とハラハラしていた読者は、『年を取るとな、量より質が大事なんだ』という教授の大人発言から、まさかの本文の6割をレッスンに熱を入れすぎだろうと突っ込みたくなる濃厚なベッドシーンの描写に充てるという前歴のない構成と、ラストシーンでのクラウスの、『仕方ねえな、………おいオッサン、俺が死に水取ってやっから、一緒の墓に入れろよ』の逆プロポーズに思わず号泣した、老け専枯れ専看取り専の金字塔となる名作だ、胸の鼓動が収まらない、オッサンは興味がなかったのに新たな扉を開かされてしまった、俺のマクシミリアン教授はどこにいると出版元にファンレターが殺到するほどの高い評価を頂けたのがノミネートの理由だそうでございます」

「ちょっと作者も引くほどの熱量で驚いたわ。でも絶対支持層はいると思ってたのよね。どこの世界にもコアな人はいるもの。
 ………だけど、ノミネートされるほど薄い本の作家ってそんなに沢山いたかしら?」

「お嬢様を含めて5名おられますが、御一人はお子様が生まれたので育児に専念されるそうで断筆、また御一人は旦那様にバレて引退させられ現在実質3名ですね。どうしてもお嬢様レベルのクオリティが出せる方はなかなか」

「確率3分の1じゃないの。ありがたみが一気に失せたわ。もうアミダとかで良いじゃない。1年ごとの持ち回り制でもいいし」

「商店街の相談役選びみたいな事を仰らないで下さいませ。お嬢様なら毎年名作を生みだされるので、薄い本オブザイヤーはイザベラ=ハンコックの為にある、と言わしめる事間違いなしです」

「そんなタイトルホルダーを、私が喜ぶとでも思っているのかしらルーシー」

「受賞すれば売り上げが伸びます」

「そうね。まあ、どうしてもと言うなら頂くのは吝かではないわね。タイトルについては目をつぶるわ」

「お嬢様の多才ぶりは隠しきれないので、もうバンバン名作を生んで下さいませバンバン」

「分かったわよ。でも、そんなに腐女子作家が少なかったとはね。どおりで書いては次の〆切、書いては次の〆切とやけに忙しいと思ったわ」

「売れっ子になってから原稿料も上がりましたので、どーんと新しいドレスでも買い求められては?」

「今あるもので十分よ。それならこないだ折れた釣竿の代わりが欲しいわ。もっと丈夫なの。かなり年季も入ってたし」

「ぶれないですねお嬢様。まあそこがいいとこですけども。
 ところで二日後の騎士団の訓練見学会ですが、今回は第一から第四まで各部隊の隊長が手合わせするようですよ。ダーク様が一番お強いとは思いますが、ここはリーシャお嬢様が応援して華を添えると言うのは如何でございますか?
 他の女性への牽制にもなりますし。まあ不要な心配とは思いますが」

「だからどうしてそんな大事な情報を一番後回しにするのよ」

「近頃ダーク様のお話ばかりで、少々構って頂けないジェラシーがついメラメラと」

「………ごめんなさいねルーシー。でも親友にしかコイバナなんか出来ないし。
 他には友達もいない寂しいボッチなのよ私」

「まあジェラシーはさておき、当日の戦略でございますけれど」

「まあなにかしら」


 そしてまた今夜もひそひそ話は深夜まで続くのだった。




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

処理中です...