フォアローゼズ~土偶の子供たちも誰かを愛でる~

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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クロエの場合。【4】

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「ジーク!」
 
「クロエ、ゴメンね遅れてしまって」
 
 
 
 
 ジークが少しだけ息を荒くしながら、カフェでココアを飲みながら待っていた私の席に腰をかけた。
 ボーイさんを呼びコーヒーを頼むと、ジークが私に済まなそうな顔を向けた。
 
「大丈夫よ。お仕事だもの、仕方ないわ」
 
 
 
 ジークはガーランド国と自分の国、アーデルハイドミレニアカリクバーン──長いので隣国とかアーデルとか皆は言っている──との交易のため、アーデル国のバックアップのもとガーランド国に貿易会社を作り、責任者としてこちらにやって来て3年になる。
 
 もうすっかりこちらに馴染んだようで、このままこっちに永住する予定だと言う。
 
 私は自宅もこちらだからとても嬉しいが、家族になかなか会えなくて寂しくないのか心配したところ、
 
「兄上は後継ぎも出来たし、ド変態なところさえ抜かせば割と仕事出来る人なんだよ。
 両親も田舎でのんびり暮らしてるし、もういい年をした息子がようやく結婚してくれるだけで御の字だそうだから、親の方は兄さん夫婦に任せようかなと。
 まあ交通の便も良くなったし、5時間もあれば行けるから。こちらでの仕事も大切だしね」
 
 と言っていた。
 ド変態と言っているお義兄様だが、畏れ多くもアーデル国の国王陛下である。
 
 初めてお会いした時にはとても穏やかそうな方に見えたのだが、なんと以前に母様を拉致したと思ったら、あんな理想的な美人にセクシーな格好をさせてヒールで踏んづけて欲しい! とずっと思っていたらしく、王族だし逆らえないと母様がドン引きしながら踏んだそうだ。私もそれを聞いてドン引きした。
 
 母様はどうせならとロウソクを垂らしたり女王様的な発言をしたりして腹立ちをぶつけたところ、余計喜ばれたようで、
 
「無理矢理やらされている内に何だかゾクゾクしてきてね。新しい世界の扉が開きそうで困ったわあ」
 
 とコロコロ笑っていたが、父様はそれを聞いて、
 
「リーシャが拐われたと聞いて生きた心地もしなかったのに、見つけた時には破廉恥な格好で美貌と色気を振り撒いてたから、別の意味で血の気が引いたんだぞ。
 王族でなければどうしていたか俺にも解らん。
 新しい世界の扉は鍵をかけて一生閉じてなさい」
 
 と母様に説教していた。
 
 
 
 
「でも待たせたのは事実だから。ゴメンね」
 
 笑いかけるジークは、私が出会った小さな頃からずっと恋い焦がれてやまないエメラルドグリーンの美しい瞳で私を見つめていた。
 
 
 父様もジークも、私の中ではものすごく整った顔立ちで綺麗だと思っていたが、どうもそうではないらしいと気づいたのは5歳位だろうか。
 
 ジークと一緒に町を歩くと、私にはみんな笑顔で話をしてくれるのに、ジークや父様にはしかめっ面というか、余り見たくないといった感じの慇懃無礼な対応をしていた。
 不思議に思って屋敷に帰ってから母様に尋ねると、
 
「父様もジーク様も、世の中では稀に見る不細工なんですって。クロエは私と同じ価値観で、目鼻立ちのはっきりした顔立ちが格好いいと思ってるのよね?」
 
 といい、頷くとそれでいいのよと教えてくれた。
 
「人の好みなんてそれぞれなんだから、誰が何と言おうと構わないの。私は世界一父様……ダークが格好いいと思うし、中身も最高にできた人だと思ってる。
 周りに不細工だと思われてるならライバル減ってラッキーじゃない? 別に見せびらかすために付き合ったり結婚したい訳じゃないもの。
 私たちみたいな価値観の人はフランを入れてもまあ殆どいないのよ。
 だから彼らも不幸な思いをしただろうし、これからも嫌な目に遇う可能性も高いわ。
 王族なのは個人的にはアレだけど、ジークを幸せに出来るのはクロエしか居ないかも知れない。
 もしこのまま他に好きな人が現れたり、年上過ぎて無理だと思ってしまう事がなければ、彼を幸せにしてあげて欲しい。応援してるわ」
 
 確かに18と37というのは結構な年の差だと思うが、小さな頃からの付き合いのせいか、私はそんなに離れてると思った事がない。
 
 昔から大好きで、今も大好きなちょっと年上のお兄さんと言ったところだろうか。
 
 でも子供の時からの付き合いだからなのか、ジークも未だに子供扱いする事が多い。
 再来月には結婚式だと言うのにオデコへのキスしかしてくれないのだ。
 
「お嫁さんに来るまではね」
 
 と頭を撫でられる。それはそれで気持ちいいけど、もっとこう恋人なのだから、激しく燃え上がるモノがないのだろうかと寂しくもなる。
 
 
 
「──おっと芝居に遅れるね。そろそろ行こうか?」
 
 ジークが促し店を出る。
 
 手を繋いで会場へ歩きながらも、私は少しだけモヤモヤしたものを抱えるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
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