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クロエの場合。【2】
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私とアナのメイドの面接の日がやって来た。
母様は、
「6人もいるの? 猫が剥がれるわー私。
ルーシーのお目がねに叶う人なら間違いないから引っ込んでてもいいかしらね? アナたちもいるんだしいいわよね?」
と最後まで足掻いていたけれど、ルーシーに諭されていた。
「大切な娘の側近を決める為の大事な面接に母親が居ないでどうします? 黙ってミステリアスな微笑みを浮かべていたらよろしいのです」
「ミステリアスな微笑みってどんなのよう。腐女子のヒッキーにそんなもの求められても、煩悩溢れる攻めと受けのシチュエーション考えて肩を揺らす位しか出来ないのようー」
「それで結構ですわ。質問などはわたくしが致しますので、リーシャ様は黙って新作のネタでも考えながら、最低限お嬢さま方に有益になりそうなメイドだけ判別して下さいませ。敵を限界まで避け続ける腐女子の野生のカンは侮れません」
「……分かったわよ。
大丈夫そうな人だけ選べばいいのね?」
「左様でございます。アナ様もクロエ様も腐女子ではないとはいえ、基本能天気で大雑把で無駄に繊細なくせに行動力だけは半端なくある頑固者というリーシャ様の血筋を引いておられます。
ただ出来のいいメイドというだけでは太刀打ち出来なくなる事が予想されるのでございます」
私はちょっと納得行かないとルーシーに反論した。
「ねえルーシー、アナが行動力があるのは認めるけど、私は基本的に母様と同じように家で料理したり本を読むのが好きなインドア派よ?」
「……クロエ様は3歳でジークライン王子をホイホイしてきましたけれども、あれは行動力があると言わずに何と言えば良いのでしょうか?
リーシャ様が子供の時の感情に流されずに冷静に学校の友だちとか、他にも目をやりなさいと申し上げたのに見向きも致しませんでしたわねえ。
普段から剣を振り回してるような暴れん坊なアナ様より、学校に上がる前から婚約者候補に王族を掴んで来るクロエ様の方がわたくしには油断が出来ませんわ」
もっともな言い分に私も言い返せず黙り込んだ。
「ちょっとークロエの話にいきなり私のディスりをサンドイッチしてくるの止めてくれないルーシー?」
アナが慣れないロングスカートを鬱陶しそうにパタパタ広げながらルーシーに訴えた。今日は私もアナも面接に備えて一応お嬢様風な装いである。
「アナ様、大股開いてスカートパタパタするご令嬢がどこにいるのでございますか。レイモンド王子が惚れた弱味で大概の事をお許しになっているとしても、猫を被って数十年のシャインベック家から猫の被り方も知らないような方を野放しにする訳には参りません」
「私は家にずっといてもいいのに」
「レイモンド王子が号泣されますわよ? 仏頂面で泣かれると弱いと仰っておられましたわよね?」
「……」
スカートをパタパタしていたアナの手が止まり、ソファーに腰掛け直した。ルーシーに反抗しても無駄なのである。
「はいそれでは最初の方どうぞお入り下さい」
ルーシーは応接室の外へ声をかけた。
◇ ◇ ◇
最初はいかにも出来る感じの頭の良さそうな30前後の、長めの茶髪をきっちりと結い上げた女性だった。
質疑応答はルーシーが行い、聞きたい事があれば私たちが質問するという流れになった。
10年ほどメイドをしていて、前の家が引っ越しをして遠くに行くので通いが難しくなり辞めて、こちらに応募したようだ。言葉の端々に自信の程が感じられるので、かなり有能な人なのだろう。
私たちから特に質問はなかった。何を質問していいか分からなかった事もある。
ルーシーは最後に、
「どちらかのお嬢様と王族、元王族(結婚式の後にジークは公爵になるので)の屋敷に勤める事になりますが、身分的な事もあり危険な事もあるかも知れません。
その際に必要な基本の護衛術を学ぶ意思はありますか?」
と聞いた。
「……体術的な事でしょうか? 流石に年齢もありますので余り激しいモノは難しいかと。
お嬢様への礼儀作法修得の手助けや屋敷の掃除などはご満足頂けると思うのですが……」
「分かりました。もし採用が決まりましたら1週間以内に通知をお送りします。ありがとうございました。
次の方に入って頂くよう案内頂けますか?」
「はい。よろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をして応接室を出ていった女性を黙ってミステリアスな微笑み(自称)で見送っていた母様に、
「いかがですか?」
とルーシーが少し笑みを浮かべて尋ねた。
「……んーダメね。やる前から無理とか言う人は。
きっと今の自分のスキルに自信があるからなのだろうけど、プライドが有りすぎると融通が利かなくなるし。ウチの子たち結構フリーダムだから、ストレス溜め込むタイプだと思うわ」
「わたくしもそう思います。では次の方行きましょうか」
そんな感じでサクサクと進めながら、ルーシーは最後に必ず同じ質問をするのだった。
「あと2人ね……疲れたー」
アナが呟いたが私も少々ぐったりだ。
私たちと大して変わらない年代もルーシーと同じ世代の人もいたが、誰も今一つこれという物がなかった。
「次は2人まとめて来ますので、もう少しの辛抱でございますよ。お嬢様たちのお知り合いです」
「……え? 知り合い?」
私たちはノックする扉から入ってくる2人の希望者を見て、「あら」と思わず声が出てしまった。
学校に通っていた時からの友人ではないか。
「失礼致します」
友人……メリッサとクレアがお辞儀をして、私たちに笑みを浮かべた。
母様は、
「6人もいるの? 猫が剥がれるわー私。
ルーシーのお目がねに叶う人なら間違いないから引っ込んでてもいいかしらね? アナたちもいるんだしいいわよね?」
と最後まで足掻いていたけれど、ルーシーに諭されていた。
「大切な娘の側近を決める為の大事な面接に母親が居ないでどうします? 黙ってミステリアスな微笑みを浮かべていたらよろしいのです」
「ミステリアスな微笑みってどんなのよう。腐女子のヒッキーにそんなもの求められても、煩悩溢れる攻めと受けのシチュエーション考えて肩を揺らす位しか出来ないのようー」
「それで結構ですわ。質問などはわたくしが致しますので、リーシャ様は黙って新作のネタでも考えながら、最低限お嬢さま方に有益になりそうなメイドだけ判別して下さいませ。敵を限界まで避け続ける腐女子の野生のカンは侮れません」
「……分かったわよ。
大丈夫そうな人だけ選べばいいのね?」
「左様でございます。アナ様もクロエ様も腐女子ではないとはいえ、基本能天気で大雑把で無駄に繊細なくせに行動力だけは半端なくある頑固者というリーシャ様の血筋を引いておられます。
ただ出来のいいメイドというだけでは太刀打ち出来なくなる事が予想されるのでございます」
私はちょっと納得行かないとルーシーに反論した。
「ねえルーシー、アナが行動力があるのは認めるけど、私は基本的に母様と同じように家で料理したり本を読むのが好きなインドア派よ?」
「……クロエ様は3歳でジークライン王子をホイホイしてきましたけれども、あれは行動力があると言わずに何と言えば良いのでしょうか?
リーシャ様が子供の時の感情に流されずに冷静に学校の友だちとか、他にも目をやりなさいと申し上げたのに見向きも致しませんでしたわねえ。
普段から剣を振り回してるような暴れん坊なアナ様より、学校に上がる前から婚約者候補に王族を掴んで来るクロエ様の方がわたくしには油断が出来ませんわ」
もっともな言い分に私も言い返せず黙り込んだ。
「ちょっとークロエの話にいきなり私のディスりをサンドイッチしてくるの止めてくれないルーシー?」
アナが慣れないロングスカートを鬱陶しそうにパタパタ広げながらルーシーに訴えた。今日は私もアナも面接に備えて一応お嬢様風な装いである。
「アナ様、大股開いてスカートパタパタするご令嬢がどこにいるのでございますか。レイモンド王子が惚れた弱味で大概の事をお許しになっているとしても、猫を被って数十年のシャインベック家から猫の被り方も知らないような方を野放しにする訳には参りません」
「私は家にずっといてもいいのに」
「レイモンド王子が号泣されますわよ? 仏頂面で泣かれると弱いと仰っておられましたわよね?」
「……」
スカートをパタパタしていたアナの手が止まり、ソファーに腰掛け直した。ルーシーに反抗しても無駄なのである。
「はいそれでは最初の方どうぞお入り下さい」
ルーシーは応接室の外へ声をかけた。
◇ ◇ ◇
最初はいかにも出来る感じの頭の良さそうな30前後の、長めの茶髪をきっちりと結い上げた女性だった。
質疑応答はルーシーが行い、聞きたい事があれば私たちが質問するという流れになった。
10年ほどメイドをしていて、前の家が引っ越しをして遠くに行くので通いが難しくなり辞めて、こちらに応募したようだ。言葉の端々に自信の程が感じられるので、かなり有能な人なのだろう。
私たちから特に質問はなかった。何を質問していいか分からなかった事もある。
ルーシーは最後に、
「どちらかのお嬢様と王族、元王族(結婚式の後にジークは公爵になるので)の屋敷に勤める事になりますが、身分的な事もあり危険な事もあるかも知れません。
その際に必要な基本の護衛術を学ぶ意思はありますか?」
と聞いた。
「……体術的な事でしょうか? 流石に年齢もありますので余り激しいモノは難しいかと。
お嬢様への礼儀作法修得の手助けや屋敷の掃除などはご満足頂けると思うのですが……」
「分かりました。もし採用が決まりましたら1週間以内に通知をお送りします。ありがとうございました。
次の方に入って頂くよう案内頂けますか?」
「はい。よろしくお願いいたします」
綺麗なお辞儀をして応接室を出ていった女性を黙ってミステリアスな微笑み(自称)で見送っていた母様に、
「いかがですか?」
とルーシーが少し笑みを浮かべて尋ねた。
「……んーダメね。やる前から無理とか言う人は。
きっと今の自分のスキルに自信があるからなのだろうけど、プライドが有りすぎると融通が利かなくなるし。ウチの子たち結構フリーダムだから、ストレス溜め込むタイプだと思うわ」
「わたくしもそう思います。では次の方行きましょうか」
そんな感じでサクサクと進めながら、ルーシーは最後に必ず同じ質問をするのだった。
「あと2人ね……疲れたー」
アナが呟いたが私も少々ぐったりだ。
私たちと大して変わらない年代もルーシーと同じ世代の人もいたが、誰も今一つこれという物がなかった。
「次は2人まとめて来ますので、もう少しの辛抱でございますよ。お嬢様たちのお知り合いです」
「……え? 知り合い?」
私たちはノックする扉から入ってくる2人の希望者を見て、「あら」と思わず声が出てしまった。
学校に通っていた時からの友人ではないか。
「失礼致します」
友人……メリッサとクレアがお辞儀をして、私たちに笑みを浮かべた。
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