35 / 77
王都からの刺客⑤
しおりを挟む
「ひとまず、人間どもの様子を見ましょう」
カーレンは引き続き、魔法で礼拝堂の様子を見せてくれた。やや不鮮明なのは、きっと過去ではなく現在の状態を映し出しているのだろう。
「改めて言おう。聖女の身柄を引き渡す事はできない」
「なんだと! 王家に反逆すると言うのですか」
「元より私は反逆者であるという触れ込みではなかったな」
エディアス様改めセバスチャンは何を今更、と言いたげにため息をついた。エディアス様はじっとしている。
「聖女は心を痛めている。そちらに任せることはできない。安心するといい、聖女がここにいることで国民の生活を損ねはしないとラング公爵の名において誓おう」
「本人の口から話をさせてください。……彼女は私の婚約者なのですよ?」
王太子ゼアキスの言葉を聞いても、セバスチャン(エディアス様)の態度はそっけない。
「……それを言うならば、元々私はアリア・アーバレストと婚約をしていたのは私だ」
「は?」
「私達は正式な手続きを踏んで婚約をしていた。それは双方の合意によって締結され、今もなお破棄されていない。後から勝手に決めた婚約はそもそも効力がない」
「な……爺が何を言って……その年で色ボケか?」
なんと、エディアス様は先に自分と婚約していたのだから、王太子に私の身柄を引き渡す理由はないと言うのである。
エディアス様の発言を、王太子は鼻で笑った。
「聖女は王となるべき俺と結婚するべきだ。老い先短い老いぼれがなにを……」
「……このような感じで、アリア様の伴侶をめぐる争いは延々と続くようですね」
「人間は年がら年じゅう発情期だからな」
「というか、あいつ、目がついてないんじゃないか。どうみても喋っているのは熊なのに、老人の方が本体だと思い込んでいる」
……カイルとカーレンに緊張感がないのは、余裕のあらわれという事にしておこう。
映像の中では状況を察してか、アルフォンスが礼拝堂の扉を開けて会話に参加してきたところだ。
「その様な訳ですから。お引き取りください。聖女の役目は終わったと、私は城ではっきりと聞きました。用済みだとね。ええ、引き継ぎ日誌にもちゃーんと残しておきましたとも」
「アルフォンス、貴様まで何を言っている。国の金で学問を修めておきながら裏切るのか、この恥知らずめ!」
「もう仕事は辞めました。そもそも、我々はアリア様をお迎えするために神官として仕えていたのだ。王命に従うつもりは毛頭ない」
「ぐぬぬ……、とにかく、俺は次期国王として、そして男として、婚約者を取り戻す権利があるのだ」
「そうは言いましても、デイジーでしたっけ? 愛する女がいると。そちらはどうなりました」
「マーガレットだ!」
「まあ、なんでもいいですが。あなたはこう言いましたね。ババアは嫌だ。ババアは我らがジジイと連れ合いになりますのでご心配なく。家族の団欒を邪魔しないでいただきたい」
「ぐっ……この、痴れ者め!」
「痴れ者はどちらだか」
「ふふっ」
紳士的なエディアス様と違って、アルフォンスの物言いは歯に衣着せない。これでは出世できないのは当たり前だと思うけれど、今はそのふてぶてしい態度が頼もしく思えてしまうのは、いけないことだろうか?
「ええい! 聖女を連れて帰らねば俺が処罰されるのだぞ。これだから自分の事しか考えない愚民はタチが悪い。おい、もういい。やれ!」
「……!」
王太子たちは実力行使で私を取り戻すつもりだ。エディアス様……いえ、セバスチャンとアルフォンスが危ない!
「カイル、お願い。この状況を止めて! 貴方なら、出来るでしょう?」
「わかりました。お任せあれ」
カイルは足取りも軽く、駆けて行った。彼の実力は未知数だけれど、私を救出した時の身体能力は目を見張るものがあったし、少なくとも魔獣よりは強い。最悪人間ではないことで、反逆罪に問おうとしても問えない、と言う事はあるだろう。妖精って、とても便利な存在だ。
「そう、私たちはとても便利なのです」
……前々から思っていたけれど、カーレンは人の心が読めるのだろうか? こわごわと横を見ると、カーレンは真珠のような白い歯を見せて、ニッと笑った。
カーレンは引き続き、魔法で礼拝堂の様子を見せてくれた。やや不鮮明なのは、きっと過去ではなく現在の状態を映し出しているのだろう。
「改めて言おう。聖女の身柄を引き渡す事はできない」
「なんだと! 王家に反逆すると言うのですか」
「元より私は反逆者であるという触れ込みではなかったな」
エディアス様改めセバスチャンは何を今更、と言いたげにため息をついた。エディアス様はじっとしている。
「聖女は心を痛めている。そちらに任せることはできない。安心するといい、聖女がここにいることで国民の生活を損ねはしないとラング公爵の名において誓おう」
「本人の口から話をさせてください。……彼女は私の婚約者なのですよ?」
王太子ゼアキスの言葉を聞いても、セバスチャン(エディアス様)の態度はそっけない。
「……それを言うならば、元々私はアリア・アーバレストと婚約をしていたのは私だ」
「は?」
「私達は正式な手続きを踏んで婚約をしていた。それは双方の合意によって締結され、今もなお破棄されていない。後から勝手に決めた婚約はそもそも効力がない」
「な……爺が何を言って……その年で色ボケか?」
なんと、エディアス様は先に自分と婚約していたのだから、王太子に私の身柄を引き渡す理由はないと言うのである。
エディアス様の発言を、王太子は鼻で笑った。
「聖女は王となるべき俺と結婚するべきだ。老い先短い老いぼれがなにを……」
「……このような感じで、アリア様の伴侶をめぐる争いは延々と続くようですね」
「人間は年がら年じゅう発情期だからな」
「というか、あいつ、目がついてないんじゃないか。どうみても喋っているのは熊なのに、老人の方が本体だと思い込んでいる」
……カイルとカーレンに緊張感がないのは、余裕のあらわれという事にしておこう。
映像の中では状況を察してか、アルフォンスが礼拝堂の扉を開けて会話に参加してきたところだ。
「その様な訳ですから。お引き取りください。聖女の役目は終わったと、私は城ではっきりと聞きました。用済みだとね。ええ、引き継ぎ日誌にもちゃーんと残しておきましたとも」
「アルフォンス、貴様まで何を言っている。国の金で学問を修めておきながら裏切るのか、この恥知らずめ!」
「もう仕事は辞めました。そもそも、我々はアリア様をお迎えするために神官として仕えていたのだ。王命に従うつもりは毛頭ない」
「ぐぬぬ……、とにかく、俺は次期国王として、そして男として、婚約者を取り戻す権利があるのだ」
「そうは言いましても、デイジーでしたっけ? 愛する女がいると。そちらはどうなりました」
「マーガレットだ!」
「まあ、なんでもいいですが。あなたはこう言いましたね。ババアは嫌だ。ババアは我らがジジイと連れ合いになりますのでご心配なく。家族の団欒を邪魔しないでいただきたい」
「ぐっ……この、痴れ者め!」
「痴れ者はどちらだか」
「ふふっ」
紳士的なエディアス様と違って、アルフォンスの物言いは歯に衣着せない。これでは出世できないのは当たり前だと思うけれど、今はそのふてぶてしい態度が頼もしく思えてしまうのは、いけないことだろうか?
「ええい! 聖女を連れて帰らねば俺が処罰されるのだぞ。これだから自分の事しか考えない愚民はタチが悪い。おい、もういい。やれ!」
「……!」
王太子たちは実力行使で私を取り戻すつもりだ。エディアス様……いえ、セバスチャンとアルフォンスが危ない!
「カイル、お願い。この状況を止めて! 貴方なら、出来るでしょう?」
「わかりました。お任せあれ」
カイルは足取りも軽く、駆けて行った。彼の実力は未知数だけれど、私を救出した時の身体能力は目を見張るものがあったし、少なくとも魔獣よりは強い。最悪人間ではないことで、反逆罪に問おうとしても問えない、と言う事はあるだろう。妖精って、とても便利な存在だ。
「そう、私たちはとても便利なのです」
……前々から思っていたけれど、カーレンは人の心が読めるのだろうか? こわごわと横を見ると、カーレンは真珠のような白い歯を見せて、ニッと笑った。
165
お気に入りに追加
866
あなたにおすすめの小説
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる