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王都からの刺客⑤

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「ひとまず、人間どもの様子を見ましょう」

 カーレンは引き続き、魔法で礼拝堂の様子を見せてくれた。やや不鮮明なのは、きっと過去ではなく現在の状態を映し出しているのだろう。


「改めて言おう。聖女の身柄を引き渡す事はできない」

「なんだと! 王家に反逆すると言うのですか」

「元より私は反逆者であるという触れ込みではなかったな」

 エディアス様改めセバスチャンは何を今更、と言いたげにため息をついた。エディアス様はじっとしている。

「聖女は心を痛めている。そちらに任せることはできない。安心するといい、聖女がここにいることで国民の生活を損ねはしないとラング公爵の名において誓おう」

「本人の口から話をさせてください。……彼女は私の婚約者なのですよ?」

 王太子ゼアキスの言葉を聞いても、セバスチャン(エディアス様)の態度はそっけない。

「……それを言うならば、元々私はアリア・アーバレストと婚約をしていたのは私だ」
「は?」

「私達は正式な手続きを踏んで婚約をしていた。それは双方の合意によって締結され、今もなお破棄されていない。後から勝手に決めた婚約はそもそも効力がない」

「な……爺が何を言って……その年で色ボケか?」

 なんと、エディアス様は先に自分と婚約していたのだから、王太子に私の身柄を引き渡す理由はないと言うのである。

 エディアス様の発言を、王太子は鼻で笑った。

「聖女は王となるべき俺と結婚するべきだ。老い先短い老いぼれがなにを……」


「……このような感じで、アリア様の伴侶をめぐる争いは延々と続くようですね」
「人間は年がら年じゅう発情期だからな」
「というか、あいつ、目がついてないんじゃないか。どうみても喋っているのは熊なのに、老人の方が本体だと思い込んでいる」

 ……カイルとカーレンに緊張感がないのは、余裕のあらわれという事にしておこう。

 映像の中では状況を察してか、アルフォンスが礼拝堂の扉を開けて会話に参加してきたところだ。

「その様な訳ですから。お引き取りください。聖女の役目は終わったと、私は城ではっきりと聞きました。用済みだとね。ええ、引き継ぎ日誌にもちゃーんと残しておきましたとも」

「アルフォンス、貴様まで何を言っている。国の金で学問を修めておきながら裏切るのか、この恥知らずめ!」
「もう仕事は辞めました。そもそも、我々はアリア様をお迎えするために神官として仕えていたのだ。王命に従うつもりは毛頭ない」

「ぐぬぬ……、とにかく、俺は次期国王として、そして男として、婚約者を取り戻す権利があるのだ」

「そうは言いましても、デイジーでしたっけ? 愛する女がいると。そちらはどうなりました」
「マーガレットだ!」

「まあ、なんでもいいですが。あなたはこう言いましたね。ババアは嫌だ。ババアは我らがジジイと連れ合いになりますのでご心配なく。家族の団欒を邪魔しないでいただきたい」
「ぐっ……この、痴れ者め!」
「痴れ者はどちらだか」

「ふふっ」

 紳士的なエディアス様と違って、アルフォンスの物言いは歯に衣着せない。これでは出世できないのは当たり前だと思うけれど、今はそのふてぶてしい態度が頼もしく思えてしまうのは、いけないことだろうか?

「ええい! 聖女を連れて帰らねば俺が処罰されるのだぞ。これだから自分の事しか考えない愚民はタチが悪い。おい、もういい。やれ!」

「……!」

 王太子たちは実力行使で私を取り戻すつもりだ。エディアス様……いえ、セバスチャンとアルフォンスが危ない!

「カイル、お願い。この状況を止めて! 貴方なら、出来るでしょう?」
「わかりました。お任せあれ」

 カイルは足取りも軽く、駆けて行った。彼の実力は未知数だけれど、私を救出した時の身体能力は目を見張るものがあったし、少なくとも魔獣よりは強い。最悪人間ではないことで、反逆罪に問おうとしても問えない、と言う事はあるだろう。妖精って、とても便利な存在だ。

「そう、私たちはとても便利なのです」

 ……前々から思っていたけれど、カーレンは人の心が読めるのだろうか? こわごわと横を見ると、カーレンは真珠のような白い歯を見せて、ニッと笑った。
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