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王女殿下は真実を知ってしまいました②

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 ──まさか、そんな。

 私が不都合な疑念から目を背けようと必死に考えているうちに、鏡の中では場面が変わっていた。先ほどの和やかな風景とはうって変わって、沢山の沈痛な面持ちの人々が喪章をつけて集まっている。

 この場面は──葬式だ。

 力を使い果たした巫女カリナは、精霊との契約を終えたのち、若くして命を落とした。その葬儀がしめやかに行われているのだ。


 集団の中で、一際身分が高いだろう若い青年が先ほどの赤子を抱いている。父親だろうか──いや、そうではない。

 その男性の姿に見覚えがあった。初代国王──私の祖先にあたる、巫女カリナの兄だ。憂いを帯びた表情は、肉親を亡くして、忘れ形見の幼子を託されて呆然としているようには見えない。

 もっと悲痛な覚悟を持っている──私には、そんな風に見えた。

 場面はどんどん変わっていく。断続的なかつての記録。

 薄暗いテントの中で、ろうそくの光に照らされながら、男性たちが話し合っている。

「この子供を王に据えるわけにはいかない」
「そうだ。護衛役の騎士との子供など……巫女が残した遺児としてふさわしくない」

「しかし大精霊との契約が……」
「せっかく加護を受けたのに、へたに殺しては精霊の怒りを買うかもしれない」

「この子を王の養い子として育てるのがいいのでは?」
「将来の不和になる。せっかく成長している国を二つに割ることになるぞ」

「──しかし──それが巫女カリナの意思なのでは?」
「あの娘は死んだ。この土地を開拓し、守っていくのは我々だ」

「陛下!」

 陛下と呼ばれたのは、初代セファイア王だ。彼はきゅっと口を引き結び、蝋燭の炎をじっと眺めていた。

 ぐるりと明かりを囲む人々は、静かに王の決断を待っている。

「……殺しはしない。この子には、ともに国を守ってもらう」

 重々しく告げられた言葉に安堵のため息を漏らすものも居れば、非難の声を上げるものもいる。

「……ただし、この子は王ではない。……未来永劫、王族ではない」


 場面が変わって、小さな子供が草原を走り回っていた。ふわふわの金の髪をした、快活で、明るい笑顔の子。

「あ、おじさまだー、こんにちは!」

 おじさま、と呼ばれた初代セファイア王は、やさしく微笑んで、胸元に飛び込んできた子供の頭を撫でた。

「元気かね」
「うん、元気だよ!」

「エメレットは好きか?」
「うん、精霊の声が聞こえるの。だーいすき」

「そうか。お前はこの土地を守るのだ。大きくなって、好きな人が出来たら、その人と結婚して家族をつくりなさい。エメレット伯爵──そう、名乗るがよい。お前と、その家族がこの地に居る限り、この国は安泰だ」

「うん?……おじさま、むずかしくて、何を言ってるのかわかんない」

「わからなくてもいい。……ただ、家族と精霊と仲良く暮らしなさい」


 ──エメレット伯爵家を、滅ぼすわけにはいかないのだ。

 父の言葉が、私の脳裏によみがえった。
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