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驚きを引きずったままお食事処へ向かう。こちらも窓から庭園が見え、テーブルの境目にはすだれがかかっているためフードコートとは違い高級感がある。
「さて、何を食べましょうかね」
ビニールコーティングされたメニューをぺり、とめくる。やはり和食が多めかな? お酒は飲まないので、ここは少し豪華に行きたいところだ。
「オムライス……」
百合はふわとろ系卵のデミグラスソースがかかったオムライスに目をとめた。
「どうせなら普段食べないものの方が良くない?」
あたしが注目したのは、特製松花堂弁当。刺身、天ぷら、そば、茶碗蒸し。ご飯に味噌汁、煮物、デザート。家では絶対に出てこない類いのメニューである。
「いいですね。ところで……ショーカドウ、って何ですか?」
聞かれてもわからない。松竹梅、の仲間か何かと思いスマートフォンで調べると「松花堂」さんと言うお人がこの仕切りのある箱を作った。そしてそれを文化人がお弁当箱にしたらどうかと料理人に告げ、このお弁当の形式が生まれた。仕切りがあるとおかずとおかずが混ざらなくていいよね、との事でバカ受けし、瞬く間に普及した。簡単に説明するとそのような話だった。せっかくなので二人してそれを注文する。
「さっきの話なんですけど」
「うん?」
分厚いマグロの刺身に気を取られていると、百合が不意に口を開いた。
「ご家族とは、その後どうなったんですか?」
「うーん、どうもしてないというのが正しい」
絶縁はしていないが、ここ数年、全く北海道には帰っていない。繁忙期は飛行機が高いからもったいない──と言うのが、あたしの言い訳だ。知ってか知らずか、それを薄情と咎めるような人達でもないのである。
「だから、さっきはあまり言えなかったけれど、あたしもこの関係を通して、もうちょっと大人にならなきゃな、とは思ってる」
多分あたしは……あたしも、怒っていたのだ。自分が最初にいたのに、後から来た人達に居場所を取られたような気持ちになったこと。
自分が存在するだけで、マイナスの影響を及ぼしているかのような被害妄想にとらわれていること。思っていたのと違うと言われて、意外だった、と受け止められずすべてを否定された気になったこと。
その後、歩みよらず自分から距離を置いたこと。そして、それによって自己嫌悪に陥ること。
時が過ぎて初めて、それは良くなかったかもしれない、と冷静になることができる。
「シリアスな空気になっちゃったけど、あたしは本気で前向きに検討したほうがいいと思ってはいるんだよ。本当。これは本当。マジで」
「なら、京子さんが何か行動したら考えます」
百合の返答に、あたしは若干ひるんだ。
女性専用の休憩室には、どっしりとした寝椅子がいくつも並んでおり、ブランケットと漫画、注文をするための電話などが備え付けられている。
本屋で見かけたよく売れているらしい漫画を手に取り、座席に戻るとスマートフォンにメッセージが入っていた。妹からだ。
『久しぶり』
『夏休みに、そっちに行ってもいい?』
その次に、ディズニーランドに行きたいんだよね、と次々にメッセージが流れてくる。
これはあたしと行きたいと言う意味ではなく、単純に旅費を浮かせるために一晩泊めてくれ、との話である。
「今丁度、妹から連絡来たわ」
「疎遠じゃないじゃないですか」
「一年に一回ぐらいしか来ないから」
そうして、去年は用事があるからと、上京を断ったのである。
「えーい、どうとでもなれ」
考えることはしない。だって、自分も行動すると決めたのだから。大人たるあたしが人生のお手本を見せなくてどうする。
あたしはいいよ、とだけ返信をした。
「ほら、やったよ。有言実行」
自慢げに手をひらひらとさせると、百合は少し考え込む様な表情をした。
「さて、何を食べましょうかね」
ビニールコーティングされたメニューをぺり、とめくる。やはり和食が多めかな? お酒は飲まないので、ここは少し豪華に行きたいところだ。
「オムライス……」
百合はふわとろ系卵のデミグラスソースがかかったオムライスに目をとめた。
「どうせなら普段食べないものの方が良くない?」
あたしが注目したのは、特製松花堂弁当。刺身、天ぷら、そば、茶碗蒸し。ご飯に味噌汁、煮物、デザート。家では絶対に出てこない類いのメニューである。
「いいですね。ところで……ショーカドウ、って何ですか?」
聞かれてもわからない。松竹梅、の仲間か何かと思いスマートフォンで調べると「松花堂」さんと言うお人がこの仕切りのある箱を作った。そしてそれを文化人がお弁当箱にしたらどうかと料理人に告げ、このお弁当の形式が生まれた。仕切りがあるとおかずとおかずが混ざらなくていいよね、との事でバカ受けし、瞬く間に普及した。簡単に説明するとそのような話だった。せっかくなので二人してそれを注文する。
「さっきの話なんですけど」
「うん?」
分厚いマグロの刺身に気を取られていると、百合が不意に口を開いた。
「ご家族とは、その後どうなったんですか?」
「うーん、どうもしてないというのが正しい」
絶縁はしていないが、ここ数年、全く北海道には帰っていない。繁忙期は飛行機が高いからもったいない──と言うのが、あたしの言い訳だ。知ってか知らずか、それを薄情と咎めるような人達でもないのである。
「だから、さっきはあまり言えなかったけれど、あたしもこの関係を通して、もうちょっと大人にならなきゃな、とは思ってる」
多分あたしは……あたしも、怒っていたのだ。自分が最初にいたのに、後から来た人達に居場所を取られたような気持ちになったこと。
自分が存在するだけで、マイナスの影響を及ぼしているかのような被害妄想にとらわれていること。思っていたのと違うと言われて、意外だった、と受け止められずすべてを否定された気になったこと。
その後、歩みよらず自分から距離を置いたこと。そして、それによって自己嫌悪に陥ること。
時が過ぎて初めて、それは良くなかったかもしれない、と冷静になることができる。
「シリアスな空気になっちゃったけど、あたしは本気で前向きに検討したほうがいいと思ってはいるんだよ。本当。これは本当。マジで」
「なら、京子さんが何か行動したら考えます」
百合の返答に、あたしは若干ひるんだ。
女性専用の休憩室には、どっしりとした寝椅子がいくつも並んでおり、ブランケットと漫画、注文をするための電話などが備え付けられている。
本屋で見かけたよく売れているらしい漫画を手に取り、座席に戻るとスマートフォンにメッセージが入っていた。妹からだ。
『久しぶり』
『夏休みに、そっちに行ってもいい?』
その次に、ディズニーランドに行きたいんだよね、と次々にメッセージが流れてくる。
これはあたしと行きたいと言う意味ではなく、単純に旅費を浮かせるために一晩泊めてくれ、との話である。
「今丁度、妹から連絡来たわ」
「疎遠じゃないじゃないですか」
「一年に一回ぐらいしか来ないから」
そうして、去年は用事があるからと、上京を断ったのである。
「えーい、どうとでもなれ」
考えることはしない。だって、自分も行動すると決めたのだから。大人たるあたしが人生のお手本を見せなくてどうする。
あたしはいいよ、とだけ返信をした。
「ほら、やったよ。有言実行」
自慢げに手をひらひらとさせると、百合は少し考え込む様な表情をした。
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