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「野球場がありますね」

 百合のなにげない視線の先にでは、少年野球の練習試合が行われていた。都会は土地が高いので、広いグラウンドも限られている。サッカーないし野球をやっていると、その送り迎えが大変だと会社で聞いたことがある。

「親って、子供の習い事を見ていて楽しいんですかね?」

 その言葉にちょっと恨みがこもっていて、汗が冷えていく感覚がして苦笑いをする。

「少なくとも私の親はそうじゃなかったから、人それぞれじゃないかな」

 子供に手間暇をかける、というのは一歩間違えると過干渉になるのじゃないか……というのは、少しばかり僻みが入っているかもしれない。

 背中のリュックを下ろす。まだ初夏ではあるが、相当へとへとになってきた。中から小さな小さな、幼稚園児みたいなレジャーシートと氷が目一杯詰まった水筒、保冷バッグを取り出す。あたりの草は短く刈り込まれていて、やはりここも我々の知り得ないところで行政の手が入っているのだろう。という事は使わにゃ損なのであると、シートを敷いて河川敷に陣取る。

「とりあえず、おにぎり持ってきたよ。シャケと、梅干しと、ツナマヨと……」

 北海道の人って本当に鮭の事シャケって言うんですね、と言われて思わず赤面してしまう。だって、「サケ」より「シャケ」のほうが言いやすいじゃないの……

 保冷バッグの中のおにぎりは、若干ひんやりしていた。端から見ると野球を見学している人に見えるだろう。

「いい風ですね」

「まあ、色々あるけど。たまに体を動かすとすっきりするでしょ?」
 
 百合は軽く深呼吸をした。空気がきれいかどうかは定かではないが、少なくとも駅前よりは大分マシであろう。

「私、面倒くさいですよね。ガキだってわかってはいるんです。わかっては……ええ」

 百合はむしゃむしゃとおにぎりを頬張り、包んでいたアルミホイルをぎゅうぎゅうの小さな玉にしてしまった。

「あー、早く大人になりたいです」

「申し訳無いけれど、未成年はそんなものだよ。むしろ、時が経ってもそのままだと思った方がいいよ」

 子供の頃に想像した、高校生、大学生、そして社会人のあたしはもっと大人びていて、勝手にそのように進化すると思い込んでいた。しかし、精神の成長というものは非常にゆっくりで……と言うより、「大人の対応」は意識して身につけるスキルであったのだ。

「じゃあ、私、このままってことですか?」
「多分。あたし、自分でもびっくりするぐらい大人じゃないなって思う時あるもの」

「えー。京子さんは大人じゃないですか?」
「違うねー」

 あたしはちゃらんぽらんだが一見するとしっかりした人に見えるらしい。全くそんな事は無くて、まともな訳ではなく、ただ冷めているだけなのだが。

「だって、すごく悟った感じしますよ。大学で哲学でも専攻してたのかなって思うぐらい」

 ゆっくりと、考えていた言葉を口に出す。

「悟っている様に見えるのは……あたしは……あたしも、かつては「再婚相手の連れ子」の立場だったからかな」
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