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 集中して勉強しているのだろうと、唐揚げをキッチンペーパーの上に載せていく。準備がすべて完了し、迎えに行こうかと思った瞬間に『終わりました! 今から向かいます』と返信が来た。

 いいよ、と返事し皿をテーブルに並べていく。チャイムが鳴り響き、モニターにはペットボトルを胸元に抱えた百合がカメラを覗きこんでいるのが映る。

「お邪魔します」

 百合は昨日と同じピンクのサンダルで意気揚々とやってきた。その様子に、彼女は本当に楽しみにしてくれていたのだな、とほっとする。

「ようこそー。メニューはサラダ巻き、フライドポテト、唐揚げ、デザートには冷凍パイナップルでございます」

「えっ、すごい。お誕生日会みたい」

 お誕生日会。その名の通り、自宅で誕生日に友人を招いてパーティーをすること。なんとも懐かしい響きである。小さい頃は友達の家によくお呼ばれしていたっけ。まだ存在する文化だったとは驚きである。
  
「ま、大層なものじゃないけど。召し上がれ」
「いただきます!」

 昼食には遅く、夕食には早い時間帯だが休日なので細かい事はいいだろう。デーブルを見渡し、サラダ巻きの彩りがポテトとチキンのジャンキーさを緩和しているのを確認し、満足する。 
 
 その瞬間、テーブルの上のスマートフォン──百合の物だ──に、ぱっとメッセージが表示されたのが目に入った。百合はちらと目を走らせ、画面を伏せてひっくり返した。

「友達?」

「いえ、スタンプ目当てに登録した企業のアカウントでした」

 温度差のある返答に昼間の一件の事をふと思い出したが、追求はしないことにする。あたしと彼女はただの隣人なのだから。そう自分に言い聞かせ、唐揚げを一口頬張る。うん、むね肉がパサつかずに良い出来だ。

「いろんな物が少しずつ食べられるって豪華でいいですよね」

 一人暮らしだと、品数をそろえるのが億劫になりがちだ。どうせすぐに満腹になってしまうし、人数が揃ってこそのパーティメニューなのである。

「ね」

 相槌を打つと、百合はいつもこうだったらいいのにな──と小さくこぼした。そのつぶやきは多分、あたしに向けてではないだろう。

 デザートとして、パイナップルを切って皿に盛る。あたしとしては給食の懐かしデザートの第二弾なのだが、百合は「そんなの出ましたっけ?」と首をかしげた。またもやジェネレーションギャップ……いや、これはきっと地域差に違いない、うん。

  
 食事が終わり、BGM代わりにテレビをつけるが、日曜の夕方はワイドショーと再放送のドラマで埋め尽くされている。同じ局の新番組なのだろう、恋愛ドラマの宣伝と称して序盤のストーリーが紹介されていた。芸能人に疎い自分でも覚えているレベルの若手女優と俳優がテーブルを挟んで会話する場面が流れる。

『あなたと同居なんてできません!』
『そんな事言って、行くアテがあるのかよ?』
『うっ……そ、それは……』
『別に同居じゃあるまいし、店子はありがたい。これまで通り会社では他人を貫き通せばいい』

 状況から察するに、 様々な要因が重なって家も貯金も失った女性が、敷金礼金不要のぼろアパート申し込んだところ、大家は職場の苦手な男、ただしイケメン……と言うストーリーらしい。

 ダイジェスト版らしく、すぐに場面が転換する。

『ほら、弁当。お前のぶんだ。持って行け』
『ええっ!? これ、あなたが!?』
『男が料理をして何が悪い?』
『いえ、いつも彼女さんの作ったお弁当を食べているのかと……』

 イケメンは毎日手作り弁当を持参しており、会社では『彼女の手作り』と言っていた。しかし、実際には、本人の自作であった。ヒロインはそのイケメン手作り弁当を食べ、料理上手さに恐れおののくのだった……と言う所で番組紹介は終わった。

「なるほど、オフィスラブと秘密の同居を合わせた話なのね」
「面白そうでしたね。今夜見てみようかな」

 百合は大分興味を惹かれた様子だ。やはり、一般的な女子は恋愛ドラマが好きなのだろうか、とあまりドラマを視聴しない自分としては、少し焦るのであった。

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