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ベッドの上でネットサーフィンなどをしていると、瞬く間に時間が溶ける。早起きした意味がまるでないが、休む日と書いて休日。これもまた正しい休みの使い道である。
『準備ができました! そろそろ行きます』
パッとスマートフォンに通知が出た。立ち上がり、鏡の前で服装のチェックをする。
オフィスではちょっと緩すぎるかな、と普段着に降格させられた水色のオーバーサイズシャツにベージュのチノパン。足下は白のスリッポン。きれいめカジュアル……で決しておばさんスタイルではないと思いたい。つけっぱなしのキュービックジルコニアのピアス。
髪の毛は後ろで緩くまとめ、風でぐしゃぐしゃにならないようにしてある。
ドアを開けると、丁度百合は部屋の鍵を閉めているところだった。すとんとしたシルエットの白いスウェットにジーンズ、スニーカー。ポシェット……じゃない、サコッシュと呼ぶんだったか。今時の若者らしい、スポーツミックスってやつだろうな。あたしが着ると、どこからどう見ても部屋着にしか見えないだろう。
「よし、行こうか」
「はい。あの」
「ん?」
百合は廊下で立ち止まり、かしこまった様子で続けた。
「誘ってくれてありがとうございます! あのままだったら、『あー、なんで私あんな変な事言っちゃったんだろう!?』って夜眠れなくなっていたと思うんです。明日の予定があるだけでめちゃくちゃ気持ちが楽になりました」
良かった、と軽く頷き返答に代える。うん、やはり昨日のあたしは諸葛亮孔明レベルの神采配と言ってよかったな。悪い妄想にとらわれる夜ほど気分が落ち込むものはないからね。
マンションの入り口では、管理人兼大家さんが生け垣のモッコウバラを刈り込んでいるところだった。物静かな人である。連れだって挨拶をする我々を見て一瞬だけ「あれっ?」とした顔をしたが、すぐにいつものえびす顔になった。
それぞれ自転車に乗り、邪魔にならないよう併走ではなくあたしが前、百合が後ろについて道路を進んでいく。これが男女であればサイクリングデートと表現しても差し支えない。ま、行き先がスーパーだとロマンチックさのかけらもないが……。
目的地はいわゆる「業務用」の大袋の商品を売っている店だ。まあ、現代においては業務と謳った個人向けであるらしいけれど。安かろう悪かろうとは言うものの、お買い得品も少なからずあるはずだ。
「おっ、見えた」
目的地までは迷う余地もないほどに道はまっすぐだ。駐輪場からあふれた自転車は店の正面の歩道まで浸食しており、整理係のおじさんがなんとか隙間を作り出そうと奮闘している。少し待機し、買い物終わりの自転車が出るのを待ち、そこにむりやり滑り込ませる。
「こんなに人がいるって事は、期待できるのかな?」
「テレビでも特集されてますものね。でも、ちょっと敷居が高いですよね」
百合はしげしげと、わかりやすく──非常にわかりやすくデザインされたスーパーの看板を見上げた。確かに女子高生が入るには少し勇気のいる外観であろう。薄暗い照明の下、おじさん、おばさん、外国の方、普通の主婦、大学生。年齢も人種も様々な人々で店内はごった返しているのが確認できる。
「これも社会経験って事で」
中は通路にも段ボールがどんどこ積み重ねられていて、雑多な雰囲気だ。品物を吟味している人の後ろを通り抜けるのに、細心の注意を払って体をひねらなければいけない。売り場の広さに制限があることが多く、ごちゃっとした配置も、都会ならではの雰囲気だと、たまにしみじみ考える。北海道と東京では、気候も街の作りも違うのだ。
「えーと」
百合は昨夜、スーパーのおすすめ商品を調べたと言い、スマートフォンの画面をのぞきこんでいた。その様子を見つめていると、ふいに彼女は苦々しげな顔をし、見たくないとばかりに端末をポケットにしまい込んだ。
『準備ができました! そろそろ行きます』
パッとスマートフォンに通知が出た。立ち上がり、鏡の前で服装のチェックをする。
オフィスではちょっと緩すぎるかな、と普段着に降格させられた水色のオーバーサイズシャツにベージュのチノパン。足下は白のスリッポン。きれいめカジュアル……で決しておばさんスタイルではないと思いたい。つけっぱなしのキュービックジルコニアのピアス。
髪の毛は後ろで緩くまとめ、風でぐしゃぐしゃにならないようにしてある。
ドアを開けると、丁度百合は部屋の鍵を閉めているところだった。すとんとしたシルエットの白いスウェットにジーンズ、スニーカー。ポシェット……じゃない、サコッシュと呼ぶんだったか。今時の若者らしい、スポーツミックスってやつだろうな。あたしが着ると、どこからどう見ても部屋着にしか見えないだろう。
「よし、行こうか」
「はい。あの」
「ん?」
百合は廊下で立ち止まり、かしこまった様子で続けた。
「誘ってくれてありがとうございます! あのままだったら、『あー、なんで私あんな変な事言っちゃったんだろう!?』って夜眠れなくなっていたと思うんです。明日の予定があるだけでめちゃくちゃ気持ちが楽になりました」
良かった、と軽く頷き返答に代える。うん、やはり昨日のあたしは諸葛亮孔明レベルの神采配と言ってよかったな。悪い妄想にとらわれる夜ほど気分が落ち込むものはないからね。
マンションの入り口では、管理人兼大家さんが生け垣のモッコウバラを刈り込んでいるところだった。物静かな人である。連れだって挨拶をする我々を見て一瞬だけ「あれっ?」とした顔をしたが、すぐにいつものえびす顔になった。
それぞれ自転車に乗り、邪魔にならないよう併走ではなくあたしが前、百合が後ろについて道路を進んでいく。これが男女であればサイクリングデートと表現しても差し支えない。ま、行き先がスーパーだとロマンチックさのかけらもないが……。
目的地はいわゆる「業務用」の大袋の商品を売っている店だ。まあ、現代においては業務と謳った個人向けであるらしいけれど。安かろう悪かろうとは言うものの、お買い得品も少なからずあるはずだ。
「おっ、見えた」
目的地までは迷う余地もないほどに道はまっすぐだ。駐輪場からあふれた自転車は店の正面の歩道まで浸食しており、整理係のおじさんがなんとか隙間を作り出そうと奮闘している。少し待機し、買い物終わりの自転車が出るのを待ち、そこにむりやり滑り込ませる。
「こんなに人がいるって事は、期待できるのかな?」
「テレビでも特集されてますものね。でも、ちょっと敷居が高いですよね」
百合はしげしげと、わかりやすく──非常にわかりやすくデザインされたスーパーの看板を見上げた。確かに女子高生が入るには少し勇気のいる外観であろう。薄暗い照明の下、おじさん、おばさん、外国の方、普通の主婦、大学生。年齢も人種も様々な人々で店内はごった返しているのが確認できる。
「これも社会経験って事で」
中は通路にも段ボールがどんどこ積み重ねられていて、雑多な雰囲気だ。品物を吟味している人の後ろを通り抜けるのに、細心の注意を払って体をひねらなければいけない。売り場の広さに制限があることが多く、ごちゃっとした配置も、都会ならではの雰囲気だと、たまにしみじみ考える。北海道と東京では、気候も街の作りも違うのだ。
「えーと」
百合は昨夜、スーパーのおすすめ商品を調べたと言い、スマートフォンの画面をのぞきこんでいた。その様子を見つめていると、ふいに彼女は苦々しげな顔をし、見たくないとばかりに端末をポケットにしまい込んだ。
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お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
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