異世界恋愛短編集

辺野夏子

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「……」

 目が覚めると、わたくしはベッドの上だった。元の時代に戻っていないことにほっとする。

「だる……」

 けれど体が非常に怠い。おそらく魔力を使いすぎて、意識を失ったのだろうけれど。回復魔法は術者の生命力を奪う。だからこそ、王太子ラドリアーノは自らの大けがを自らの危険も厭わずに治癒した聖女ステラに心を奪われたのだけれど。

「いたた……わたくしがこんなにも疲弊しているって言うのに、もう。あの女、化け物すぎない?」

 魔力があるかないかなんて、子供の頃から判別できる。だからこそ才能のある子供はヴォルフラムのように、幼少期から権力者の庇護を得る事ができるのだ。

 けれど、ステラが現れたのはわたくしが追放されるごく数年前の事だった。彼女は一体、それまで何処に居たと言うのか──?

「目覚めたか、シュシュリア」

「お、お父様っ……」

 わたくしが目覚めたのを聞きつけたのか、父であるリベルタス公爵が入室してきた。とうの昔に無許可で禁呪に手を出した事は知れ渡ってしまっただろう、表情は険しい。

「申し開きがあるならば言ってみろ」

「も……申し訳ありません。禁呪だと分かっておりました。けれど、ヴォルフラムの目を治してあげたくて……」

「お前はヴォルフラムの事を嫌っていたのではないのかね?」

 疑わし気な視線が突き刺さった。ええ、それはごもっともですわ、お父様。

「嫌っていたのではなく、嫉妬です。彼の方が才能があるからと告げられてわたくしがどれだけ悔しかったか。けれど、ヴォルフラムを見ているうちに気が付きました、わたくしもお父様に認めてもらえるようにさらなる努力をしなくてはいけないことを。そして彼を越え、正面から跪かせます。そのためにはヴォルフラムの目が悪いままでは卑怯というものでしょう」

 嘘泣きまではするつもりがなかったけれど、勝手に涙が出た。それが効いたのか、わたくしが改心したことに感銘を受けたのか、天才を前にしても折れないあくなき闘争心を認めたのか、とにかくわたくしが折檻されることはなかった。

「シュシュリア。お前の成長は喜ばしいことだ。しかし、みだりに回復魔法を覚えた事は他に漏らしてはならぬぞ」

「心得ております」

「この件は私達四人と、国王陛下のみが知る秘密となる。ヴォルフラムの目は一般的な治療により回復する範疇のものだった。よいな」

「はい」

 私達四人と言うのは、わたくしとヴォルフラム、そして父と叔父のことだ。陛下には報告する。まあ当然よね──と考えていると、くしゃりと頭を撫でられた。

「父としては心配だが、私はお前の才能を信じよう。未来の魔導卿として、これからもリベルタスのために励めよ」

「──はい!」

 こうしてわたくしは魔導卿であるお父様から直々に禁呪の研究についての許可を得た。まあわたくしの才能からすれば当然のことだ。何もなければ、当然、わたくしこそが魔導卿になるべき人物なのだし。
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