57 / 73
4
しおりを挟む
「よう、ジル。調子はどうだ?」
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
「頑張ってはいるんですが、いまいちなんですよね」
「どれどれ。あーちょっと、違うぞこれ」
先輩が言うには、「どぎつい性格の恋敵が目立っている話」ではなく「悪役のような位置に立たされてしまった不遇なヒロインが逆襲ないしは成り上がる話」だそうだ。
「つまり、この状況で言うと、ここからあの子が幸せにならないといけないのさ」
「俺は間違っていたのか……」
どうりでヴァレリアをひどい目に合わせても、自分にとってもイマイチ面白くないし、「ヴァレリアがかわいそうです」と言った内容の感想ばかり来るはずだと、ジルは納得した。
「ありがとうございます、先輩。やっぱり自分がいいと思えるものでないとダメですよね」
「ん? うん。知らんが」
ヴァレリアが役目を終え、雲の上に戻ってきた。だいたいいつも、物語が幕を下ろしたあとの彼女は、誇らしげなのである。
「わたくしの活躍、見てくださいました?」
「ああ、今日も名演技だったな。しかし、さっき先輩から聞いたんだが、俺たちは前提から間違っていたらしい」
その言葉に、ヴァレリアはあからさまに不満げな顔になった。
「わたくしがあんなに、身を削って頑張っていましたのに」
見届けないで、他の方と喋っていらしたんですね。とヴァレリアはじっとりとした瞳でジルを睨んだ。
「い、いやいや。それはそうだが、有益な話を聞いたんだよ」
ジルはたっぷり間を取り、深刻そうな表情で、まるで世界の秘密を伝えるかのように、ひそひそ声でヴァレリアに語りだす。
「お前は悪役ではなく、ヒロインだったのだ」
「はあ、もしかしなくてもジル様は御存なかったので?」
私は生まれた瞬間から、存じ上げていましたけれど──と事もなげに言われ、ジルは意識が遠くなりかけた。
「何で知っていて、言わないんだよ」
「一つ目から成功していたら、ジル様ったら調子に乗って後々破滅するでしょうに」
ヴァレリアの発言は、正しくジルの性格を捉えたものであったが、天使はそれを無視した。自分が彼女の事をあまり知らないのに、向こうは自分を理解していると言うのも、むず痒いものであるからだ。
「とにかく、方向性を変える。お前が、お前こそがこの世界のヒロインだっ」
ジルはびしり、とヴァレリアを指差した。令嬢は気を悪くした様子もなく、ふわりと微笑む。
「じゃあ、わたくし、幸せになれますのね?」
「うん? え、ああ、そうだな」
今度は「ヴァレリアが幸せになる世界」を考えて、それで評価されればジルは「出世」することができる。
そうしたら、この世界は誰か他の者に任せて。もっと大きな、壮大な世界を管理できるようになるだろう。こんな、小さな国しかない閉ざされた世界ではなく、複数の国があって、海があって、血湧き肉躍るような戦いのある、そんな世界を手に入れる事ができるかもしれない。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。
木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。
その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。
ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。
彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。
その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。
流石に、エルーナもその態度は頭にきた。
今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。
※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
騎士団長は恋と忠義が区別できない
月咲やまな
恋愛
長き戦に苦しんでいたカルサール王国。その戦争を終結させた英雄シド・レイナードは、戦争孤児という立場から騎士団長という立場まで上り詰めた。やっと訪れた平和な世界。三十歳になっていた彼は“嫁探し”を始めるが、ある理由から地位も名誉もありながらなかなか上手くはいかなかった。
同時期、カルサールのある世界とはまた別の世界。
神々が作りし箱庭の様な世界“アルシェナ”に住む少女ロシェルが、父カイルに頼み“使い魔の召喚”という古代魔法を使い、異世界から使い魔を召喚してもらおうとしていた。『友達が欲しい』という理由で。
その事で、絶対に重なる事の無かった運命が重なり、異世界同士の出逢いが生まれる。
○体格差・異世界召喚・歳の差・主従関係っぽい恋愛
○ゴリマッチョ系騎士団長と少女の、のんびりペースの恋愛小説です。
【R18】作品ですのでご注意下さい。
【関連作品】
赤ずきんは森のオオカミに恋をする
黒猫のイレイラ(カイル×イレイラの娘のお話)
完結済作品の短編集『童話に対して思うこと…作品ミックス・一話完結・シド×ロシェルの場合』
聖女は筋肉兵士に発情する
矢崎未紗
恋愛
神と疎通することで神から力を賜り、人々の病やけがを癒す力を持つ「聖女」として生まれたルシリシア(19歳)は、ある日マッチョの兵士ディルク(31歳)に一目惚れをする。恋も結婚も禁じられている聖女のルシリシアだが、侍女パメラの応援もあってディルクと両思いになり幸せな逢瀬を重ねる。ところが聖女を強姦した罪でディルクは死刑判決を言い渡されてしまう。聖女なのに恋をしてしまったルシリシアは泣きながら神に許しを請い、そして――。性行為に言及する会話があるのでR15指定をしていますが、性描写はすべてカットしています(そのため一部の文章が不自然です。ご了承ください)ほかサイトにも掲載あり(詳細は作者のHP参照)
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる