26 / 63
3
しおりを挟む家を追い出されてすぐ、さすがの私も精神がまいってしまい、することもなく教会の椅子に座ってぼへーっとしていた。
『大丈夫?』
その時声をかけてきたのがレオだ。普通に怪しいと思ったので、素っ気ない態度を取った。
しかし、私は次の日も同じ場所でぼんやりしていたので、レオは私に行くところがないのだと理解したみたいだった。
あんまりしつこく質問してくるので「家出」して行くところがない事、ちょっとだけ治癒魔法が使える事を教えた。
彼は仕事を紹介してくれた。教会が経営している救護院──身よりのない人が行く病院みたいなところ。
仕事はまあまあで、嫌なこともあったけど普通に感謝もされたので、うん、悪くはなかった。レオがたまに様子を見にきてくれたので、さすがの私も大分ときめいた。
でも救護院の経営状態は最悪で、寄付なんかじゃ到底追いつかないし、魔力もすぐに枯れてしまう。そこで私は、王都の外へ薬草を取りに行く事にした。
冒険者デビューってやつだ。思えば私は、本当に馬鹿だったのだと思う。
この辺じゃ滅多に出ないらしい猛獣が現れて、私は必死に逃げたけれど、腕に噛み付かれて、もうダメだ──と思ったその時。
一本の矢が「そいつ」を撃ち抜いた。
レオ……ではなくその仲間。現実はそこまでうまくハマるようにできていない。
もちろん、レオが遠くでとっくみ合いをしている私と猛獣を見つけて、頼んでくれたからなんだけれど。
私はボロボロの血みどろで、薬草を握りしめたまま運ばれて、手厚い治療を受けた。地獄の沙汰も金次第、とはよく言ったもので。傷はすっかり良くなった。
レオは寄付の金額が少ないせいで、私を危険な目に合わせてしまったと言った。
それとこれとは全く関係がないし、そんなことをレオがする必要もないのだが、その申し訳なさそうな顔を見て、私は彼のことがすごく好きになってしまった。我ながら、ちょろいと思う。いや、ちょろくもないか。
レオは、自分がいないときにお金に困ったら、と言ってどこかのダンジョンで拾ったと言う金のバングルをくれた。彼の瞳の色と同じペリドットが嵌っていて、魔除けの効果もあると言うご立派な代物だ。
この人、もしかして、私のことが好きだったりするのかしら。
そんな希望的観測を抱かないでもなかったが、見ている限りレオは誰にでも優しくてモテていたので、私の勘違いなんだなと思うことにした。
でも、彼の周りの女の子たちの中で、治癒魔法を使えるのは私だけだったので、商隊の護衛とか、魔物に襲われた村の救助とか、そう言った依頼の時に誘われるのは私だけで、その事実は私のみみっちい自尊心を満足させた。
それも全て、思い出だ。彼はきっと、遠い世界の人だった。神様がひねくれた私にくれた、生きていくための美しい思い出。それがレオだ。
彼はいなくなってしまった。いつ故郷に戻ったのか、私は知らない。
0
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……


義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる