異世界恋愛短編集

辺野夏子

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「国に帰って実家を継がなきゃいけなくなったんだ」

「そうなんだ」

 レオは私の仲間の冒険者だ。この辺じゃ結構な実力者で、二年ぐらい前からの知り合い。

 とは言っても、私とは正式なパーティーってわけでもない。なにせ、実力が違いすぎるので。たまに一緒に仕事をしている、それぐらいの関係だ。

 とうとう来たかー、と思う。レオはこの国の人ではないので、いつかはこうなるのだと、予感はあった。

 レオは何かを言いたげに口をパクパクさせてから気まずそうに喋り出した。

「リアさえ良ければ……一緒に、来ないか。何とかは、するから」
「……行かないよ」

 一瞬息が止まりそうになったが、思いの他スムーズに返事をする事ができた。勝手に口が動いたとも言える。

 私は一緒に行くことが出来ない。

 私は彼の恋人ではない。「付き合ってください」「はい」のやりとりがなければ、付き合っていることにはならない。

 かと言って、爛れた関係ってわけでもない。なんだか妙に距離感の近い、友達以上……ってやつ。

「……そう、か。悪いな、変なこと言って」

 レオはとても、とても傷ついた顔をした。断られるとは思ってなかったのかもしれない。

「じゃあね」

 手をついて立ち上がった時に、腕にはめている金のバングルがぶつかってガチャ、と嫌な音を立てる。

 ひらひらと手をふって、彼に背を向ける。

 ドアの近くで様子を伺っていたらしい、レオの仲間の弓使いが何とも──何とも言えない目で私を見た。彼は多分「リア」のことはどうでもよくて、単純にレオがかわいそうな感じになっているのが嫌なんだと思う。

「レオのことは、よろしく」

 向こうからしてみると「言われるまでもない」って感じかな。

 酒場を出て、一人暮らしの家にトボトボと戻っている最中に「もしかして一緒に行こうって『家業に関わる仕事』を斡旋してくれるって意味か?」と思い、立ち止まる。

 いやしかし、それはない。流石にさっきの空気はそんなノリではなかった。

 ──やっぱり、戻ろうかな。そして「私を連れて行って!」と頼もうか。

 前述の通り、私は彼の恋人ではない。今までに、手を出されたことすらない。だから、そんな事はこれからも起きないと思っていたのだが、いざ離別が近づくと、彼もその気になったのかもしれない。

「でも、やっぱダメだ。もう、潮時だね」

 そう自分に言い聞かせて、再び歩き出す。


 私は彼に相応しくない。


 私は家を追い出された、家なき子だ。カッコよく言うと「追放」ってやつ。王都の中での話だけど。

 別に何か悪いことをしたわけではない。強いて言うならば──


 使いどころがなかった。

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