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* * *
「アマーリエ?大丈夫かい?」
「……え」
私は婚約の儀の真っ最中に戻っていた。同じ服、同じ髪飾り。同じ人、同じ言葉。死んだはずの私は、ふたたび同じ場所に立っている。
──私には、物語から退場することも許されないのか。
絶望が心を覆いつくす。体内の魔力がざわざわと、嫌な音をたてる。
魔女にならない限り、この世界から逃れられないと言うのか。
「どうした?」
セオドア様が心配そうに私を見つめている。やさしい瞳。私はこの人に裏切られたことはないのに、私はまた、何度でもこの人の気持ちを裏切ってしまう。
「……殿下」
「ん?」
「婚約を、破棄してくださいませ」
私の提案に、セオドア様の表情が歪んだ。
「何を言っている?」
そんな事はできないし、したくない、とセオドア様は私の手を強く握った。当然のことだ。なんの理由もなしに、婚約を破棄する事などありえない。
「……予言にある、滅びの魔女とは私のことなのです」
忌まわしい事実を告げられても、セオドア様はまっすぐに私を見つめている。
「それで? 君は、どうしたいんだ」
「わ……私を、封印してください。あなたへの醜い嫉妬に囚われて、この身を焼き尽くしてしまう前に、どうか。呪いから逃れられぬのなら、綺麗な思い出のまま去りたいのです」
「アマーリエ、大丈夫。僕がついている」
涙を流して懇願する私の頬を、セオドア様は優しく撫でた。
「君になにかあれば、僕が責任を持つ。だから、そんな悲しいことは言うものじゃない」
「僕を、信じて」
──セオドア様が、聖女にかけるはずだった言葉。
セオドア様は宣言通り、聖女の奇跡に頼らず、自らの力のみで滅びの魔女を討ち滅ぼすことができるとされる聖魔法を習得してみせた。
けれど聖女も、滅びの魔女も現れないまま時だけが過ぎた。
私はいつかその時が来るまで、セオドア様とともに生きる事にした。
* * *
予言に記された滅びの魔女も、聖女も現れないままひたすらに時は過ぎた。
「予言なんてあてにならないものさ」
王太子から王になったセオドア様は、そう言って笑った。
アマーリエの中に私が入り込んだことで、滅びの魔女は消えたのだろうか。
王太子が聖女なしで聖魔法を習得したことで、聖女もまた、消えたのだろうか。
──私には、わからない。けれど、たしかな事が一つだけある。
「お母様!」
「おかーしゃまー!」
愛しい子たちが私の元に駆け寄ってくる。セオドア様と婚姻を結び、王妃になった私は子供を授かった。セオドア様とアマーリエの魔力を引き継いだ、強く、何よりも愛しい子どもたち。両腕を広げて抱きしめると、心の底から、深い愛情がわきあがる。
──今は、この幸福を素直に享受しよう。
たとえ私の中に滅びの魔女がまだいたとしても。私の夫と子供達が、必ず私を救ってくれると信じて。
「アマーリエ?大丈夫かい?」
「……え」
私は婚約の儀の真っ最中に戻っていた。同じ服、同じ髪飾り。同じ人、同じ言葉。死んだはずの私は、ふたたび同じ場所に立っている。
──私には、物語から退場することも許されないのか。
絶望が心を覆いつくす。体内の魔力がざわざわと、嫌な音をたてる。
魔女にならない限り、この世界から逃れられないと言うのか。
「どうした?」
セオドア様が心配そうに私を見つめている。やさしい瞳。私はこの人に裏切られたことはないのに、私はまた、何度でもこの人の気持ちを裏切ってしまう。
「……殿下」
「ん?」
「婚約を、破棄してくださいませ」
私の提案に、セオドア様の表情が歪んだ。
「何を言っている?」
そんな事はできないし、したくない、とセオドア様は私の手を強く握った。当然のことだ。なんの理由もなしに、婚約を破棄する事などありえない。
「……予言にある、滅びの魔女とは私のことなのです」
忌まわしい事実を告げられても、セオドア様はまっすぐに私を見つめている。
「それで? 君は、どうしたいんだ」
「わ……私を、封印してください。あなたへの醜い嫉妬に囚われて、この身を焼き尽くしてしまう前に、どうか。呪いから逃れられぬのなら、綺麗な思い出のまま去りたいのです」
「アマーリエ、大丈夫。僕がついている」
涙を流して懇願する私の頬を、セオドア様は優しく撫でた。
「君になにかあれば、僕が責任を持つ。だから、そんな悲しいことは言うものじゃない」
「僕を、信じて」
──セオドア様が、聖女にかけるはずだった言葉。
セオドア様は宣言通り、聖女の奇跡に頼らず、自らの力のみで滅びの魔女を討ち滅ぼすことができるとされる聖魔法を習得してみせた。
けれど聖女も、滅びの魔女も現れないまま時だけが過ぎた。
私はいつかその時が来るまで、セオドア様とともに生きる事にした。
* * *
予言に記された滅びの魔女も、聖女も現れないままひたすらに時は過ぎた。
「予言なんてあてにならないものさ」
王太子から王になったセオドア様は、そう言って笑った。
アマーリエの中に私が入り込んだことで、滅びの魔女は消えたのだろうか。
王太子が聖女なしで聖魔法を習得したことで、聖女もまた、消えたのだろうか。
──私には、わからない。けれど、たしかな事が一つだけある。
「お母様!」
「おかーしゃまー!」
愛しい子たちが私の元に駆け寄ってくる。セオドア様と婚姻を結び、王妃になった私は子供を授かった。セオドア様とアマーリエの魔力を引き継いだ、強く、何よりも愛しい子どもたち。両腕を広げて抱きしめると、心の底から、深い愛情がわきあがる。
──今は、この幸福を素直に享受しよう。
たとえ私の中に滅びの魔女がまだいたとしても。私の夫と子供達が、必ず私を救ってくれると信じて。
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