12 / 63
4
しおりを挟む
別に、そこまで親切心に溢れた存在じゃないけれど。世界をよくしようなんて、思っているわけではないけれど。
もう一度言うけれど、リチャードは私の推しなのだ。
この世界はゲームの世界。でも、たくさん読んだ物語のように、悲劇を回避できるとしたら?
未来が変わってしまうと、そのひずみが不都合を産むのかもしれない。それでも、この先がわかっているのに不幸になるのを黙って見過ごすのは後味が悪い。
何かできるかどうかわからないけれど、助けてあげてもいいだろう。どうせクラウスとデュークは世界を救うわけだし、親切にして損はない。
私が頼み事にまんざらでもない態度を示したので、クラウスをはじめ、人間たちは非常に喜んだ。おお、ちやほやされるとやる気が出てきた。
ひとまず森の出口まで移動する。そこから先は転移魔法が使えるらしい。地元の里は最高だけれど、せっかく好きだったゲームに転生したのなら、観光するのも悪くない。
「我が国の第一王子リチャード殿下は神殿の禁を破り、その身に呪いを受けた。我々では解呪することができない。それで伝説の存在、ケット・シーに助力を求めるために宝物庫から無断で神具を拝借したってわけ」
歩きながら説明を聞く。なんか今とんでもないことを言ったような……まあ、ゲームでも勝手に宝箱開けたりするから今更か。
「その殿下ってのは悪い子なわけ? 禁を破っちゃうような?」
「違うと思っているよ。彼は僕じゃないからね」
クラウスの意味ありげな言葉。薄々王宮に渦巻く陰謀に気がついてはいるけれど、見てみぬふりをしていたのが彼と言うキャラクター。
「もうちょっと人生とか、国の行く末についてちゃんと考えたら?」
「自分なりに努力はしているよ」
「またまた」
クラウスは私に茶化されても、気を悪くした様子は見せなかった。その代わりに、少し目を伏せた。おお、これは何かシリアスな展開のフラグ……。
「彼は獣化の呪いにより、白銀の虎に姿を変えた。今は意思疎通が困難な状態になっている」
「……人を?」
「今は、まだ」
クラウスは静かに首を振った。
「ひとたび人間を手にかけてしまえば、彼はもう戻れないだろう。犯人を洗い出すこともできなくなる」
「戻れない……」
そう、彼は呪いを受け、人間の世界から拒絶された。そうして四天王に下り、主人公たちの前にたちはだかる。
無口で、魔王軍の仲間とつるむわけでもなく、とにかくリチャードは物悲しげなキャラクターだった。
歩きながら脳内にゲームの物悲しいBGMが流れて、私は久しぶりに泣いてしまった。ケット・シーとして生きているとつらい事って基本的にないのよね。
「あ、ああ、あああ~~」
「リチャード王子の身の上に同情してくださるなんて、本当に感受性の高い個体ですね」
あかん辛い泣いてしまう。やっぱり可哀想。超可哀想。この展開いらんわ。
クラウスが私の涙を採取しようとしてくるので、すっと涙が引っ込んだ。前足で顔をごしごしとこする。
しかし……助けるのはいいとして、ひとつ気になる設定がある。リチャードは作中の大体の場合において、名無しのはぐれケット・シーと一緒にいた。
『はぐれ』はグラフィックの一部として存在するだけで、名前はなく、性別も不明。攻撃してくるわけでもない。ただ、リチャードのそばにいて、彼が死んだ後もしばらくそのマップにとどまっている。
エンディングのスタッフロールに、そのケット・シーが一輪の白い花を咥えて、無縁仏のいる墓地に一匹、佇んで……。
国を追い出された後の彼の過去は明らかになっていない。どのような道筋をたどり、あのケット・シーは何だったのか。
もしかして、あの名無しのケット・シーは、墓地の前で祈るように手を合わせていたのは……私なのかもしれない。
もう一度言うけれど、リチャードは私の推しなのだ。
この世界はゲームの世界。でも、たくさん読んだ物語のように、悲劇を回避できるとしたら?
未来が変わってしまうと、そのひずみが不都合を産むのかもしれない。それでも、この先がわかっているのに不幸になるのを黙って見過ごすのは後味が悪い。
何かできるかどうかわからないけれど、助けてあげてもいいだろう。どうせクラウスとデュークは世界を救うわけだし、親切にして損はない。
私が頼み事にまんざらでもない態度を示したので、クラウスをはじめ、人間たちは非常に喜んだ。おお、ちやほやされるとやる気が出てきた。
ひとまず森の出口まで移動する。そこから先は転移魔法が使えるらしい。地元の里は最高だけれど、せっかく好きだったゲームに転生したのなら、観光するのも悪くない。
「我が国の第一王子リチャード殿下は神殿の禁を破り、その身に呪いを受けた。我々では解呪することができない。それで伝説の存在、ケット・シーに助力を求めるために宝物庫から無断で神具を拝借したってわけ」
歩きながら説明を聞く。なんか今とんでもないことを言ったような……まあ、ゲームでも勝手に宝箱開けたりするから今更か。
「その殿下ってのは悪い子なわけ? 禁を破っちゃうような?」
「違うと思っているよ。彼は僕じゃないからね」
クラウスの意味ありげな言葉。薄々王宮に渦巻く陰謀に気がついてはいるけれど、見てみぬふりをしていたのが彼と言うキャラクター。
「もうちょっと人生とか、国の行く末についてちゃんと考えたら?」
「自分なりに努力はしているよ」
「またまた」
クラウスは私に茶化されても、気を悪くした様子は見せなかった。その代わりに、少し目を伏せた。おお、これは何かシリアスな展開のフラグ……。
「彼は獣化の呪いにより、白銀の虎に姿を変えた。今は意思疎通が困難な状態になっている」
「……人を?」
「今は、まだ」
クラウスは静かに首を振った。
「ひとたび人間を手にかけてしまえば、彼はもう戻れないだろう。犯人を洗い出すこともできなくなる」
「戻れない……」
そう、彼は呪いを受け、人間の世界から拒絶された。そうして四天王に下り、主人公たちの前にたちはだかる。
無口で、魔王軍の仲間とつるむわけでもなく、とにかくリチャードは物悲しげなキャラクターだった。
歩きながら脳内にゲームの物悲しいBGMが流れて、私は久しぶりに泣いてしまった。ケット・シーとして生きているとつらい事って基本的にないのよね。
「あ、ああ、あああ~~」
「リチャード王子の身の上に同情してくださるなんて、本当に感受性の高い個体ですね」
あかん辛い泣いてしまう。やっぱり可哀想。超可哀想。この展開いらんわ。
クラウスが私の涙を採取しようとしてくるので、すっと涙が引っ込んだ。前足で顔をごしごしとこする。
しかし……助けるのはいいとして、ひとつ気になる設定がある。リチャードは作中の大体の場合において、名無しのはぐれケット・シーと一緒にいた。
『はぐれ』はグラフィックの一部として存在するだけで、名前はなく、性別も不明。攻撃してくるわけでもない。ただ、リチャードのそばにいて、彼が死んだ後もしばらくそのマップにとどまっている。
エンディングのスタッフロールに、そのケット・シーが一輪の白い花を咥えて、無縁仏のいる墓地に一匹、佇んで……。
国を追い出された後の彼の過去は明らかになっていない。どのような道筋をたどり、あのケット・シーは何だったのか。
もしかして、あの名無しのケット・シーは、墓地の前で祈るように手を合わせていたのは……私なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね
白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。
そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。
それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。
ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
【短編集】勘違い、しちゃ駄目ですよ
鈴宮(すずみや)
恋愛
ざまぁ、婚約破棄、両片思いに、癖のある短編迄、アルファポリス未掲載だった短編をまとめ、公開していきます。(2024年分)
【収録作品】
1.勘違い、しちゃ駄目ですよ
2.欲にまみれた聖女様
3.あなたのおかげで今、わたしは幸せです
4.だって、あなたは聖女ではないのでしょう?
5.婚約破棄をされたので、死ぬ気で婚活してみました
【1話目あらすじ】
文官志望のラナは、侯爵令息アンベールと日々成績争いをしている。ライバル同士の二人だが、ラナは密かにアンベールのことを恋い慕っていた。
そんなある日、ラナは父親から政略結婚が決まったこと、お相手の意向により夢を諦めなければならないことを告げられてしまう。途方に暮れていた彼女に、アンベールが『恋人のふり』をすることを提案。ラナの婚約回避に向けて、二人は恋人として振る舞いはじめる。
けれど、アンベールの幼馴染であるロミーは、二人が恋人同士だという話が信じられない。ロミーに事情を打ち明けたラナは「勘違い、しちゃ駄目ですよ」と釘を差されるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる