10 / 63
2
しおりを挟む
「まじかー」
マジかとは思ったけどあんまり関係なかった。今の私にとってはここは現実だし、ケット・シーの里は伝説の武具とか貴重なアイテムを入手するための、行っても行かなくても関係ない場所。ストーリーには関係ない。
つまり下手にプレイヤーキャラに転生するより、断然楽ちんでお気楽な人生なのである! 日本人の知識を活かしてチート? ないない。必要ない。フェアリーですから。
「あ、でも一匹だけ訳ありっぽいのいたなあ。それに感情移入してたから今ケット・シーなのかなあ」
ゲーム内には『はぐれケット・シー』が登場する。でもプレイヤーが確認できるのは一匹だけだし、それはもちろん私じゃない。時系列もわかんないし。
そのようなわけで、特にすることはない。時はなんとなく過ぎていく。
「よっしゃ今日も祈ろ」
神よ、私をケット・シーにしてくださってありがとうございます。ナムナム……。
『見つけた……』
「?」
どこからか懐かしさを感じる声が響き、のぞき込んでいた水面が揺れる。
『ケット・シーの里を見つけた!』
めちゃくちゃ聞き覚えのあるイケメンボイスが響き、浅い泉からぬっと手が生えてきた。
「おぎゃあーーーーっ!」
『むっ! 何か聞こえた! いるな! よし! 絶対いるな!!』
やばい。この声を私が聞き間違えるわけもない。このボイスは……。
主人公の仲間の、宮廷魔術師クラウスだ! 魔法の才能はピカイチ、でもそれ以外がカスの社会不適合者!
『うおおお! ケット・シーの里に行くぞぉーーーっ』
「変なテンションはやめろ! 帰れ! 帰れ!」
こいつこんなキャラだったっけ?そう思いながら前足で伸びてくる手を押し込む。いわゆる猫パンチ。
「くるな! 帰れ!」
別にクラウスに過去非道な実験をしていた、とかそういう設定があるわけじゃないんだけど、ゲームでケット・シーの里に行けるのは魔王が復活して、人間界の空が紫になってからなのだ。つまりは今じゃないのだ。本人もゲーム内で初めて訪れたと言っていたし。
『あっなんかふわふわしてる! もしもーし!? ケット・シーさんですか!? お名前は!?』
「ミヤコだよ!」
声優は好きだけど、別にお前最推しじゃねーから今会いたくないし! いや強いから使うけどさ。とにかくトラブルの匂いがするので今はお帰り願いたい。
『ミヤコちゃん。かわいい名前ですね。それではわたくし、クラウス・ゴルドウィンの召喚に応えてください』
急に猫撫で声の低音ボイスがして、私はそれに絡めとられた。まずい。召喚魔法を使われた。
抵抗できない。引き摺り込まれる……!!
「にゃーー!!」
顔からびしゃんと泉に突っ込み、そのまま下にゆっくりと落下していく。
やばい……人間界に誘拐されてしまった! どんどんと体が沈んでいくが、魔力の泉なので息苦しくはない。
そうこうしているうちにぐるりと体が回転し、今度は水中を浮き上がり始めた。
「ぷはっ!」
泉から顔を出す。むわっとした、湿度の高い森の空気。ああ、下界ってこんな匂いなんだ。
「やった!とびきり上等な、メス のケット・シーだ!」
両手で私をぎゅむっと掴んだ満面の笑みのクラウスはゲーム画面より若くて、設定資料集にあった「若き日のクラウス」の顔をしていた。
マジかとは思ったけどあんまり関係なかった。今の私にとってはここは現実だし、ケット・シーの里は伝説の武具とか貴重なアイテムを入手するための、行っても行かなくても関係ない場所。ストーリーには関係ない。
つまり下手にプレイヤーキャラに転生するより、断然楽ちんでお気楽な人生なのである! 日本人の知識を活かしてチート? ないない。必要ない。フェアリーですから。
「あ、でも一匹だけ訳ありっぽいのいたなあ。それに感情移入してたから今ケット・シーなのかなあ」
ゲーム内には『はぐれケット・シー』が登場する。でもプレイヤーが確認できるのは一匹だけだし、それはもちろん私じゃない。時系列もわかんないし。
そのようなわけで、特にすることはない。時はなんとなく過ぎていく。
「よっしゃ今日も祈ろ」
神よ、私をケット・シーにしてくださってありがとうございます。ナムナム……。
『見つけた……』
「?」
どこからか懐かしさを感じる声が響き、のぞき込んでいた水面が揺れる。
『ケット・シーの里を見つけた!』
めちゃくちゃ聞き覚えのあるイケメンボイスが響き、浅い泉からぬっと手が生えてきた。
「おぎゃあーーーーっ!」
『むっ! 何か聞こえた! いるな! よし! 絶対いるな!!』
やばい。この声を私が聞き間違えるわけもない。このボイスは……。
主人公の仲間の、宮廷魔術師クラウスだ! 魔法の才能はピカイチ、でもそれ以外がカスの社会不適合者!
『うおおお! ケット・シーの里に行くぞぉーーーっ』
「変なテンションはやめろ! 帰れ! 帰れ!」
こいつこんなキャラだったっけ?そう思いながら前足で伸びてくる手を押し込む。いわゆる猫パンチ。
「くるな! 帰れ!」
別にクラウスに過去非道な実験をしていた、とかそういう設定があるわけじゃないんだけど、ゲームでケット・シーの里に行けるのは魔王が復活して、人間界の空が紫になってからなのだ。つまりは今じゃないのだ。本人もゲーム内で初めて訪れたと言っていたし。
『あっなんかふわふわしてる! もしもーし!? ケット・シーさんですか!? お名前は!?』
「ミヤコだよ!」
声優は好きだけど、別にお前最推しじゃねーから今会いたくないし! いや強いから使うけどさ。とにかくトラブルの匂いがするので今はお帰り願いたい。
『ミヤコちゃん。かわいい名前ですね。それではわたくし、クラウス・ゴルドウィンの召喚に応えてください』
急に猫撫で声の低音ボイスがして、私はそれに絡めとられた。まずい。召喚魔法を使われた。
抵抗できない。引き摺り込まれる……!!
「にゃーー!!」
顔からびしゃんと泉に突っ込み、そのまま下にゆっくりと落下していく。
やばい……人間界に誘拐されてしまった! どんどんと体が沈んでいくが、魔力の泉なので息苦しくはない。
そうこうしているうちにぐるりと体が回転し、今度は水中を浮き上がり始めた。
「ぷはっ!」
泉から顔を出す。むわっとした、湿度の高い森の空気。ああ、下界ってこんな匂いなんだ。
「やった!とびきり上等な、メス のケット・シーだ!」
両手で私をぎゅむっと掴んだ満面の笑みのクラウスはゲーム画面より若くて、設定資料集にあった「若き日のクラウス」の顔をしていた。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね
白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。
そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。
それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。
ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる