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第1章
第145話《すずめのお絵描きオムライスに固まる巧斗さん》
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俺はシマちゃんから渡されたケチャップを握りしめ、巧斗さんのオムライスをじっと見つめた。
(これ、本当に俺が描いていいのか…?やっぱりこういうのは絵心のある人がやるべきなんじゃ…。)
巧斗さんは、きっと今まで一流のシェフが作る美しい料理ばかりを目にしてきたはずだ。そんな人にめちゃくちゃなお絵描きオムライスを出してしまったらと思うと、想像するだけでなんだか緊張する。
一応総一郎にはオムライスを作ったことが何度かあるけど、その時は毎回デミグラスソースやホワイトソースで飾りつけをごまかしてきたので、実質ケチャップでお絵描きするのは今回が初めてだ。
「うう…俺、シマちゃんみたいに上手に描けるかな…。」
「大丈夫だよ♪心を込めるのが一番大事なんだから!ハートを描くときに、『おいしくなあれ♡』って魔法の言葉を唱えたら、なんでもおいしくなるんだよ!」
(おお。魔法の言葉…!そうだよな。相手はあの優しい巧斗さんだし、心さえこもってればいいよな。)
俺はシマちゃんの助言を信じて、勢いよくケチャップを構えた。
「よ、よし…!おいしくなあれ♡」
そう声を上げながら、思いっきり意気込んでハートを描こうとした瞬間――力加減を間違えてケチャップが思った以上に勢いよくドバッと出てしまい、描くはずだったハートが一気に崩れた。
「…あっ!どうしよう…!やっ、ああっ違っ…。んっ。んん…。~~っ。」
慌てて修正しようとしたけれど、焦れば焦るほどケチャップが余計に広がってしまう。最初はただの歪んだハートだったのが、手直しを試みるたびにさらに形が崩れ、ついには何が何だかわからないぐちゃぐちゃのアメーバみたいな形になってしまった。
「あっ…。あう…。」
(あぁ…これはもうダメだ、もうどうしようもないな…。)
「……ご、ごめんね、巧斗さん…。ケチャップ…いっぱい出ちゃった…。」
俺は手を止め、結果的にアメーバみたいになったお絵描きオムライスに絶望した後、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら顔を上げ、巧斗さんの反応を伺った。
(まぁでも、巧斗さんの事だからどんな出来上がりでも喜んでくれるよな…!)等と、無責任な期待をしながら
彼の顔色を見つめると――
彼はどうしてか、真顔で俺を凝視して完全に固まっていた。
「………………。」
「あ、あの、巧斗さん?…もしもし?」
「………はっ。すみません、俺としたことが…。…オムライス、大変艶やかで愛らしかったです。」
彼の前でブンブンと手を振ったところでやっと、俺の声かけに気付いたらしく、苦笑いしながらオムライスを褒めてくれた。
(…!あの巧斗さんが反応に困ってる…?オムライスに艶やかで愛らしかったって…何故か過去形だし、褒め方も変だし…。さすがに出来あがりが酷すぎてNGだったのかな…。やっぱり俺のと取り換えたほうがいいか?)
思いがけない状況にあわあわしていると、俺の横でシマちゃんが、『くっくっ鷲ノ宮さん、心の声がごちゃ混ぜになっちゃってるねぇ♬』と、笑いを押し殺すような声で呟いていた。
「?何の事??」
「なんでもない♬いやぁ、それにしても、すずめちゃんのハート、UMAみたいでかわいいな~♡どれどれ鷲ノ宮さんがいらないなら僕がもらっちゃお♪♬」
お絵描きに失敗した俺を気を遣ってくれたのか、シマちゃんがそう言いながら、巧斗さんの皿に手を差し出すと、巧斗さんはスッと皿を自分の所に寄せて、俺が総一郎のデートの誘いに勝手に返信した時のような綺麗な笑顔をシマちゃんに向けた。
「…江永さん??」
「きゃー怖っ!もー。冗談じゃーん!!」
(これ、本当に俺が描いていいのか…?やっぱりこういうのは絵心のある人がやるべきなんじゃ…。)
巧斗さんは、きっと今まで一流のシェフが作る美しい料理ばかりを目にしてきたはずだ。そんな人にめちゃくちゃなお絵描きオムライスを出してしまったらと思うと、想像するだけでなんだか緊張する。
一応総一郎にはオムライスを作ったことが何度かあるけど、その時は毎回デミグラスソースやホワイトソースで飾りつけをごまかしてきたので、実質ケチャップでお絵描きするのは今回が初めてだ。
「うう…俺、シマちゃんみたいに上手に描けるかな…。」
「大丈夫だよ♪心を込めるのが一番大事なんだから!ハートを描くときに、『おいしくなあれ♡』って魔法の言葉を唱えたら、なんでもおいしくなるんだよ!」
(おお。魔法の言葉…!そうだよな。相手はあの優しい巧斗さんだし、心さえこもってればいいよな。)
俺はシマちゃんの助言を信じて、勢いよくケチャップを構えた。
「よ、よし…!おいしくなあれ♡」
そう声を上げながら、思いっきり意気込んでハートを描こうとした瞬間――力加減を間違えてケチャップが思った以上に勢いよくドバッと出てしまい、描くはずだったハートが一気に崩れた。
「…あっ!どうしよう…!やっ、ああっ違っ…。んっ。んん…。~~っ。」
慌てて修正しようとしたけれど、焦れば焦るほどケチャップが余計に広がってしまう。最初はただの歪んだハートだったのが、手直しを試みるたびにさらに形が崩れ、ついには何が何だかわからないぐちゃぐちゃのアメーバみたいな形になってしまった。
「あっ…。あう…。」
(あぁ…これはもうダメだ、もうどうしようもないな…。)
「……ご、ごめんね、巧斗さん…。ケチャップ…いっぱい出ちゃった…。」
俺は手を止め、結果的にアメーバみたいになったお絵描きオムライスに絶望した後、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら顔を上げ、巧斗さんの反応を伺った。
(まぁでも、巧斗さんの事だからどんな出来上がりでも喜んでくれるよな…!)等と、無責任な期待をしながら
彼の顔色を見つめると――
彼はどうしてか、真顔で俺を凝視して完全に固まっていた。
「………………。」
「あ、あの、巧斗さん?…もしもし?」
「………はっ。すみません、俺としたことが…。…オムライス、大変艶やかで愛らしかったです。」
彼の前でブンブンと手を振ったところでやっと、俺の声かけに気付いたらしく、苦笑いしながらオムライスを褒めてくれた。
(…!あの巧斗さんが反応に困ってる…?オムライスに艶やかで愛らしかったって…何故か過去形だし、褒め方も変だし…。さすがに出来あがりが酷すぎてNGだったのかな…。やっぱり俺のと取り換えたほうがいいか?)
思いがけない状況にあわあわしていると、俺の横でシマちゃんが、『くっくっ鷲ノ宮さん、心の声がごちゃ混ぜになっちゃってるねぇ♬』と、笑いを押し殺すような声で呟いていた。
「?何の事??」
「なんでもない♬いやぁ、それにしても、すずめちゃんのハート、UMAみたいでかわいいな~♡どれどれ鷲ノ宮さんがいらないなら僕がもらっちゃお♪♬」
お絵描きに失敗した俺を気を遣ってくれたのか、シマちゃんがそう言いながら、巧斗さんの皿に手を差し出すと、巧斗さんはスッと皿を自分の所に寄せて、俺が総一郎のデートの誘いに勝手に返信した時のような綺麗な笑顔をシマちゃんに向けた。
「…江永さん??」
「きゃー怖っ!もー。冗談じゃーん!!」
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