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第1章

第142話《利害が完全に一致し、共同戦線を張るシマちゃんと巧斗さん》

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それから数拍、何やら考えるような仕草をした巧斗さんは、またいつものような穏やかな表情に戻り、胸に手を当てて軽く息を吐いた。

「ははっ、成程…親友…。そういう事でしたら俺の完敗ですね。」
「へ…?ちょ、ちょっと何さ~突然余裕ぶっちゃって!もう、そんな呑気な事言ってたら、勝手に大親友の座は僕のものって事にするからね!」


突然負けを認めて微笑ましそうな視線を向け始めた巧斗さんに、シマちゃんは揶揄われていると思ったのか、俺の隣の席まで移動して思いっきり抱き着いてきて、「ふーんだ!」と言わんばかりにそっぽを向いて頬を膨らませた。

(シマちゃん…なんだか巧斗さんと相性悪いなと思ってたら、親友の座を取られるって思ってくれてたんだ。なんだかそこまで好かれてると思うと嬉しいなぁ。
…まぁ、何はともあれ俺の二股疑惑は晴れたみたいでよかった…。)

あれだけ総一郎を責めるような態度をしておきながら、実は自分も浮気してました、だなんて幻滅されても仕方ないからな。


「ええ。ですから、すずめの大親友の件に関しては俺も貴方が一番相応しいと思いますよ。」

「えっ?僕が一番…?ふふ~ん、まあねぇ~♬なんか鷲ノ宮さんって、思ってたより良い人なんだね!仕方がないからすずめちゃんのただの友達って事なら許してあげる♪」


巧斗さんから大親友だと言われたことで、シマちゃんはすっかり機嫌を直し、得意げな表情で声を弾ませていた。

俺からしてみれば、シマちゃんの大親友であることも、巧斗さんの友達であることも、むしろ俺にはもったいないくらいのことだと思うが、これからは二人の友人としてふさわしい存在にならなければとちょっと気持ちが引き締まる。


「……。気持ちは嬉しいですが…それは困りますね。俺が抱えている感情は友情とは少しベクトルが違いますから。」

「えー?…別ベクトルの感情…って…あああ!もしかして、そういう事??」
「ふふ、そういう事です。」

(?二人ともどうしたんだ?急に俺が分からない会話をし始めたぞ…。)

俺と違ってシマちゃんが巧斗さんの言っている事にピンときたのか、目を見開いて驚いた表情を浮かべたあと、急にニヤリと笑いだした。
その表情は、何か企んでいるような、少し悪戯っぽい感じだ。


「なるほどなるほど~♪あっ!ちなみに話変わるけど、鷲ノ宮さんって、もし将来結婚して奥さんが割と頻繁に《大親友》と連絡したり、遊びに行くって言いだしても快く許すタイプ??」

(!?結婚??突然どうしたの?!シマちゃん?!)

『話変わるけど』で、ここまで綺麗に話が変わる事ってあるんだな…と感心しながら目を見開くも、それとは逆に巧斗さんは一切動じず淡々とその質問に答える。


「ええ、勿論相手が妻の《大親友》であれば全然気にしませんよ。俺は好きな人の自由と意志を尊重して束縛はしないタイプですから。当然俺からも頻回にデートには誘う予定ですが、《大親友》との先約があればそっちを優先してもらっても構いません。」

「いいね~!!余裕と度量と分別のある大人の男性って素敵~♪奥さんにとっても結婚生活の息抜きに《大親友》と沢山遊んだほうが絶対健康にもいいと思うな♪」

「ですね。俺としても好きな人には伸び伸びと生活してもらいたいものです。」


巧斗さんとの会話にシマちゃんは目をキラキラさせながら、「うんうん」と頷いている。
俺はこの会話の流れについていけていないけれど、シマちゃんは巧斗さんの答えに大満足といった感じで、完全にご機嫌だ。


「そっかー!…あっ!また話変わるんだけどさ~、すずめちゃんと鷲ノ宮さんってなんだかお似合いだと思うんだよね~。傍から見てて妙に波長が合ってるっていうか~。」

「??!ちょっとシマちゃん?!えっと、俺はまだ総一郎君と…」

なんとなく相槌を打ちながら二人の会話を聞き流していると、シマちゃんがまた話を急に変えてきて、突然俺と巧斗さんがお似合いだと言い始めたのでぎょっとして慌てて否定した。

流石に国民的俳優と友人までは頑張ればいけなくもない気がするが、恋愛面でいうとおこがましいにも程がある。


「あー、それなんだけどね…?僕、ヤバ崎君ってすっごい怖い人だと思うの…。さっきもなんかここまで来て僕にすずめちゃんの居場所を吐くように尋問してくるし…怖かったよう…ぐす。」


シマちゃんがウルウルとした目で総一郎がいかに怖い人間であるかを力説してきて俺は思わず狼狽える。

(!!総一郎がここに来たのか?)

いくら俺と連絡が取れないからって、シマちゃんを問い詰めるなんて最低だなアイツ…。
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