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第1章

第140話《すずめの嫌な記憶を塗り替えてくれる巧斗さん》

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「ありがとう、巧斗さん…。」

俺もその冗談に乗っかって、笑顔でお礼を言うと、巧斗さんも楽しそうに笑ってくれる。

「いえいえ。……では、近いうちに行きましょうね?」
「やったぁ!約束だよ、約束!」

無意識にどこか心の中でちゅんちゅんマンの新作を見れなかった事と、お願いを無視してひなと行かれた事がくすぶっていたらしい俺は、気分が良くなって巧斗さんに小指を差し出す。

巧斗さんもくすくすと笑いながら、小指を絡ませ指きりを返してくれて、また自分の口元に手を抑えて小声でなにやらつぶやいた。

『はぁ、かわいい…。うちのマンションの施設に映画館をつくるのもアリですね…。』


(?ちゅんちゅんマンが可愛いのは分かるとして、なんだか経営者目線みたいな話し方するなぁ。)

まぁあのオーナーさんの態度を見るに、移住者を大切にする人っぽいし、意外と一住民のそういう意見も通ったりするのかもしれない。



「っと、そうだ!折角だから記念にこのキーホルダーも買っちゃおう!」

柄にも無く純粋に楽しい気持ちになった俺は、ちゅんちゅんマンのマスコット風キーホルダーを2個買った。
そしてそのうちの一つを巧斗さんに手渡す。

「はい、巧斗さんも!ちゅんちゅんマンのファンになった記念!……あっ…。俺とお揃いになっちゃうけど気にしないよね…?」

勢い余って俺と同じお揃いのものを巧斗さんにあげてしまって、不快にさせてないかと一瞬焦る。





というのも、中学生の頃、クラスのβ男子と偶然同じキーホルダーを筆箱につけていて、それを見かけた彼が「お揃いだな!」と笑顔で声を掛けてくれたので、普通に嬉しく思っていたら、実はその彼が俺とのお揃いを心底嫌がっていたのを思い出したのだ。


お揃いが発覚したその日の放課後に忘れ物を取りに教室へ行ったとき、カースト学年最上位のα男子を中心とした生徒達とそのβ男子の話し声が聞こえてきて、

『お前霧下なんかとお揃いとか嫌じゃねぇの?なぁ?』
『あはは…ちょっと嫌かも…。……もういらないから良かったらこれ、君にあげるよ。』
『お、分かってるな?それが正解だよ。』

等と俺の悪口を言っているのを耳にしてしまったのは今でも忘れられない。


その後、俺の悪口を言っていたそのα男子が全く同じキーホルダーを身につけだしたため、また悪口のネタにされるのが嫌で、俺はその場でこっそり気に入っていたキーホルダーを泣く泣く外したのだが……今思うとガツンと嫌味の一つでも言ってやればよかったかな。


元々そのα男子は性格が悪い事で有名で、その後も俺の事を揶揄おうと、罰ゲームか何かで告白されたり、意地悪されたりしたので卒業するまでずっと苦手だったのだが、同じαでも巧斗さんは全然彼や総一郎と雰囲気が違う。


彼らと違って巧斗さんは、俺の事は全然見下してこないし、なんなら巧斗さんの方がこちらを敬語でエスコートしてくれるくらいだし、どちらかというと好意的に俺の事を思ってくれていると思う。


(冷静に考えてみれば、巧斗さんだったら絶対俺とお揃いでも喜んでくれるよな。)

嫌な記憶を振り飛ばすように、彼の返事を待つと、巧斗さんは変装越しでも伝わってくるような満面の笑みを浮かべて、


「家宝にします。」


と一言添えて、何故かただのキーホルダーをポケットから取り出した高級そうなハンカチに宝物のような扱いで丁寧に包みだした。


???

(か、家宝…????)

想定していないような返事をされて一瞬呆けた表情になってしまったけど、ここまで喜んで貰えると、なんだかこちらも嬉しくなってくる。


(…チョーカーの件といい、映画の件といい、キーホルダーの件といい、巧斗さんって本当に俺の嫌な記憶を良い意味で塗り替えてくれるよなぁ。)


さっきは、総一郎に関する記憶を俺から消すっていう言葉を冗談にしか捉えていなかったけど、案外巧斗さんなら出来そうな気もしてきた。

まぁ、復讐が終わるまでは癒されてばかりも良くないんだろうけど…。




◇◇◇



それから、ちゅんちゅんマンのグッズの出店を離れたところで、正午近くになったので昼食を摂るために俺はようやく、巧斗さんをシマちゃんの喫茶店まで連れて行った。

シマちゃんの事は今となっては大事な友達なので、巧斗さんにも紹介しておきたかったし、文化祭前日にクーポンまで貰っておいて一回も行かないのはどうかと思ったからだ。
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