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第1章
第139話《すずめの総一郎に関する記憶を抹消したい巧斗さん》
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それから俺と巧斗さんは、一緒に第二体育館周辺の出店エリアを歩き始めた。
総一郎との待ち合わせ(※絶対に行かない)場所である第一校舎の丁度正反対の位置にあるこのエリアは、他のエリアと比べて若干人通りが少なく、スイーツやお菓子、ドリンク等を提供する出店がこぞって並んでいる。
どれもこれも学生が作ったとは思えないくらい美味しそうで、甘くていい香りが漂っていた。
「わぁ、どれも美味しそう~!あ。巧斗さんは甘いモノは好き?」
「ええ、それはもう。我が家は代々甘党一家なんですよ。特に餡子系のお菓子には目がないんです。」
「それうちも一緒!お兄ちゃんやつばめどころか、両親も餡子系の甘いものが好きなんだよね。だからお中元とかお歳暮とかの贈り物で中身が餡子系のお菓子だった時は皆目の色が変わるんだよ。
特にお父さんなんか手が早くて、気づいたら殆どお菓子を食べてしまってお母さんに怒られてた事があったなぁ。」
意外な共通点に驚いて、懐かしみながら我が家のエピソードを話すと、巧斗さんが何故かピタっと歩いていた足を止める。
「そうなのですか?それは、うちの家族とも相性が良さそうですね。…ちなみにご両親は餡子系の中でもどういったものがお好きなんですか?」
「え?えーとね。確かお父さんがどら焼きとか回転焼きが好きで、お母さんが羊羹とか水まんじゅう系が好きだったかな?」
まぁ餡子系となると、割とどんな食べ物でも皆して取り合いになるから、これも本当に誤差の範囲ではあるけど。
今までの家族でのエピソードを思い出しながら話すと、巧斗さんは「成程。」と、呟きながらやけに神妙な面持ちで聞いてくれている。
なんだか俺ばかり話しているような気がして、今度は俺からも巧斗さんの好みのお菓子を聞こうと思ったところで、見覚えのある飴を取り扱っているお店が目に入った。
「あ、ここ…ちゅんちゅんマングッズのお店だ!そういえば公式でこの文化祭とコラボしてたんだったっけ?すごいよね~!」
成程…昨日兄はここであの飴を買ってくれたんだな。と思い至りながらそのお店をマジマジと見つめると、巧斗さんが意外そうな顔をして話しかけてくる。
「おや、すずめはこのキャラクターが好きなのですか?」
「うん!大好き…!!実は色々グッズとか集めてて…、あっ子供っぽいって笑わないでよね?」
ちゅんちゅんマンは一見子供向けアニメのマスコットにも見えるので、『大学生にもなって…』と、呆れられてないかと心配になって下から巧斗さんの顔を見つめると、巧斗さんがまた口元を抑え顔を逸らす。
「っ!いえいえ、可愛いと思いますよ。……とても。」
「え、ほんと?!巧斗さんも可愛いと思った??」
巧斗さんがこういう仕草をするときは照れている時が多いので、ちゅんちゅんマンの可愛さに骨抜きにされていると確信した俺は、同じ趣味を持つ仲間が出来た嬉しさに、思わずテンションが上がった。
「それはもう…。…あれ、このアニメ、続編の映画が一昨日から公開されているみたいですよ。すずめはもう見に行きましたか?」
お店の看板に、【ちゅんちゅんマン最新作大好評上映中!!】と書かれているのが目に入ったらしい巧斗さんが映画の件に触れる。
「ああ、それね。俺も丁度総一郎君と………。」
__行く予定だったんだよね…。
と、小声で続けた所で胸糞悪い出来事を思い出し、思いっきり眉間にしわを寄せる。
結局あいつはあれだけ事前に一緒に行きたいとお願いしたにも関わらず、ひなと浮気デートして、挙句の果てに俺に残ったのはあの初日特典のカード1枚だけ…。
本当に俺が大好きなコンテンツを使って散々コケにしてくれたものだ。
巧斗さんと一緒にいる事で危うく浄化されかけていた復讐心がまたギラギラと燃え盛り、自分でも威嚇する獰猛犬のような顔になっている自覚があったので、巧斗さんに見られない様に慌てて少し俯く。
「……すずめ。その映画ですが、今度一緒に見に行きませんか?」
「え?巧斗さん…映画に付き合ってくれるの?!」
「はい。それで例の彼との記憶は一つ一つ楽しい思い出に書き換えていきましょう。…なんなら《彼の存在ごと》忘れるくらいに、ね…?」
巧斗さんがウインクをしながら映画を見に行こうと誘ってくれて、またテンションがあがる。
(わ~普通に楽しそう!まさか映画に誘ってくれるなんて…。もしかして気を遣わせてしまったのかな?
…それにしても、思い出どころか総一郎の存在まで忘れてしまおうだなんて、巧斗さんもブラックジョークが上手いよなぁ。)
彼が元々冗談好きなのは分かるけど、それでも俺を元気づけようとジョークを取り入れて話してくれるのが楽しい。
総一郎との待ち合わせ(※絶対に行かない)場所である第一校舎の丁度正反対の位置にあるこのエリアは、他のエリアと比べて若干人通りが少なく、スイーツやお菓子、ドリンク等を提供する出店がこぞって並んでいる。
どれもこれも学生が作ったとは思えないくらい美味しそうで、甘くていい香りが漂っていた。
「わぁ、どれも美味しそう~!あ。巧斗さんは甘いモノは好き?」
「ええ、それはもう。我が家は代々甘党一家なんですよ。特に餡子系のお菓子には目がないんです。」
「それうちも一緒!お兄ちゃんやつばめどころか、両親も餡子系の甘いものが好きなんだよね。だからお中元とかお歳暮とかの贈り物で中身が餡子系のお菓子だった時は皆目の色が変わるんだよ。
特にお父さんなんか手が早くて、気づいたら殆どお菓子を食べてしまってお母さんに怒られてた事があったなぁ。」
意外な共通点に驚いて、懐かしみながら我が家のエピソードを話すと、巧斗さんが何故かピタっと歩いていた足を止める。
「そうなのですか?それは、うちの家族とも相性が良さそうですね。…ちなみにご両親は餡子系の中でもどういったものがお好きなんですか?」
「え?えーとね。確かお父さんがどら焼きとか回転焼きが好きで、お母さんが羊羹とか水まんじゅう系が好きだったかな?」
まぁ餡子系となると、割とどんな食べ物でも皆して取り合いになるから、これも本当に誤差の範囲ではあるけど。
今までの家族でのエピソードを思い出しながら話すと、巧斗さんは「成程。」と、呟きながらやけに神妙な面持ちで聞いてくれている。
なんだか俺ばかり話しているような気がして、今度は俺からも巧斗さんの好みのお菓子を聞こうと思ったところで、見覚えのある飴を取り扱っているお店が目に入った。
「あ、ここ…ちゅんちゅんマングッズのお店だ!そういえば公式でこの文化祭とコラボしてたんだったっけ?すごいよね~!」
成程…昨日兄はここであの飴を買ってくれたんだな。と思い至りながらそのお店をマジマジと見つめると、巧斗さんが意外そうな顔をして話しかけてくる。
「おや、すずめはこのキャラクターが好きなのですか?」
「うん!大好き…!!実は色々グッズとか集めてて…、あっ子供っぽいって笑わないでよね?」
ちゅんちゅんマンは一見子供向けアニメのマスコットにも見えるので、『大学生にもなって…』と、呆れられてないかと心配になって下から巧斗さんの顔を見つめると、巧斗さんがまた口元を抑え顔を逸らす。
「っ!いえいえ、可愛いと思いますよ。……とても。」
「え、ほんと?!巧斗さんも可愛いと思った??」
巧斗さんがこういう仕草をするときは照れている時が多いので、ちゅんちゅんマンの可愛さに骨抜きにされていると確信した俺は、同じ趣味を持つ仲間が出来た嬉しさに、思わずテンションが上がった。
「それはもう…。…あれ、このアニメ、続編の映画が一昨日から公開されているみたいですよ。すずめはもう見に行きましたか?」
お店の看板に、【ちゅんちゅんマン最新作大好評上映中!!】と書かれているのが目に入ったらしい巧斗さんが映画の件に触れる。
「ああ、それね。俺も丁度総一郎君と………。」
__行く予定だったんだよね…。
と、小声で続けた所で胸糞悪い出来事を思い出し、思いっきり眉間にしわを寄せる。
結局あいつはあれだけ事前に一緒に行きたいとお願いしたにも関わらず、ひなと浮気デートして、挙句の果てに俺に残ったのはあの初日特典のカード1枚だけ…。
本当に俺が大好きなコンテンツを使って散々コケにしてくれたものだ。
巧斗さんと一緒にいる事で危うく浄化されかけていた復讐心がまたギラギラと燃え盛り、自分でも威嚇する獰猛犬のような顔になっている自覚があったので、巧斗さんに見られない様に慌てて少し俯く。
「……すずめ。その映画ですが、今度一緒に見に行きませんか?」
「え?巧斗さん…映画に付き合ってくれるの?!」
「はい。それで例の彼との記憶は一つ一つ楽しい思い出に書き換えていきましょう。…なんなら《彼の存在ごと》忘れるくらいに、ね…?」
巧斗さんがウインクをしながら映画を見に行こうと誘ってくれて、またテンションがあがる。
(わ~普通に楽しそう!まさか映画に誘ってくれるなんて…。もしかして気を遣わせてしまったのかな?
…それにしても、思い出どころか総一郎の存在まで忘れてしまおうだなんて、巧斗さんもブラックジョークが上手いよなぁ。)
彼が元々冗談好きなのは分かるけど、それでも俺を元気づけようとジョークを取り入れて話してくれるのが楽しい。
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