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第1章

第129話《ミスターコン最終審査の採点基準変更に憤慨するすずめ》

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「長介君、今日は俺たちで優勝を目指して最高のコンテストにしましょうね。」

巧斗さんは相田君に向けて微笑みかけながら、彼の肩に軽く手を置いた。その一言で相田君の顔にさらに笑顔が広がる。

「おお!もちろんっす!頼りにしてるっすよ、巧兄!!」


そう言いながら、相田君は握手の勢いそのままに立ち上がり、意気揚々と被服室の奥へと向かった。


◇◇◇


俺たちは相田君の後を追い、昨日一昨日でお世話になったコンテストの衣装が保管されている部屋へと足を踏み入れる。

部屋の中は、相変わらず色とりどりの衣装や装飾品が揃った、まさに芸術の宝庫だ。


「ここが衣装保管室ですか…噂には聞いていましたが想像以上に色んな衣装が揃っていますね…。」

巧斗さんが感心した様子でブティックのような構造の部屋を見渡す。

「そうっす!歴代の先輩方様々っすよ!あっ…!これが俺が着る予定だった衣装っす…。」



相田君は最初こそ勢いよく駆け出していたものの、途中からなぜか足取りが重くなり、ゆっくりとした歩き方でその衣装のところまで向かうと、それを手に取って俺たちにぱっと見せつけた。


「え!なにこの服!すごくかっこいい!これとても良いと思うよ?」
「おお、黒い燕尾服ですか。文化祭の備品にしては上品で洗練されたデザインでレベルが高いですね…。」

「へへへ、実は最終審査はつばめへの想いも込めて、《燕》尾服を着ようと心に決めてたんすよ。」


相田君が掲げた燕尾服は、ブランド物を沢山知っている巧斗さんも唸るほどのお洒落なデザインだ。

(ああ、燕尾服の燕はつばめって書くもんな。それにこのスマートさ、社交ダンスに丁度持ってこいの衣装じゃないか。……でも、相田君はさっき、着る予定《だった》って言ってたよな?どうして過去形なんだろう?)


「…まぁ、それもつい先ほどのミスターコンリハーサルで、全部考え直しになっちまったっすけどね…。」
「えっ?どうして?」

さっきまでのテンションが急にがらっと下がり、所在なさげに頭をかく相田君に嫌な予感がよぎる。

「まぁ、これを見るっすよ…。さっきのミスターコンのリハで事前に貰ったお知らせっす。」

ピラッ

相田君がポケットに突っ込んでいたしわくちゃの紙を広げて俺に手渡す。


「えーと…何々…。ミスターコン最終審査の審査基準変更のお知らせ…?!」
「…審査当日にですか…?随分唐突な話だ。」


やはり嫌な予感的中か…と思いながら、横から覗き込む巧斗さんと一緒に貰った紙にざっと目を通す。


【出場者、観客の皆様、これまでのミスターコンテストにご協力いただき、誠にありがとうございます。
最終審査にあたり、より公正かつ正当性を重視するため、審査基準を一部変更させていただきます。

 従来までは観客の皆様自身の審査基準にお任せする形で投票を受け付けておりましたが、先日のコンテストにて、個人に対する私怨や好感度などの感情が入り乱れ、一方的な謂れのない批判等が多々見受けられたため、審査基準を以下のように、こちらで明確に指定する運びとなりました。

1.今回の社交ダンスにおきましては、出場者とエキストラのお二人に男性役、女性役に別れて踊っていただきますが、男性役には《カッコよさ》と《ダンスのクオリティ》、女性役には《愛らしさ》を基準に得点を入れていただきます。(※エキストラの評価まで採点に入れる理由としましては、出場者がいかに相手を引き立てられるかという点にも重きを置くためですのであしからず。)

2.従来の審査では10点満点で採点いただきましたが、今回のみ男性役5点、女性役5点とさせていただきます。】



「「…………。」」

(これは酷い。何でもかんでもコンテスト運営とスポンサーのやりたい放題じゃないか!)

俺と巧斗さんは紙を読み終えて、相田君に向けて顔を上げると、彼は珍しく途方に暮れた顔をしていた。


「俺…見ての通り女性側の振り付けを踊る予定だったっすから、愛らしさが重要になってくるんすけど、このかっこよすぎる燕尾服を着てしまうと可愛さが霞んでしまうんす…。」

(いや、見ての通りでもないし、漢前過ぎて霞む可愛さも最初から無いけど、ツッコむ雰囲気でもないな…。)


「そっか…。それでこの服は諦めることにしたんだね…。」
「っす…。これを着てバシッ!とカッコよく決めたかったんすけど、中々上手くいかないもんすよね…。」


肩を落とす相田君の表情には、やり場のない悔しさが滲み出ている。


(相田君の本来のダンス相手の突然のドタキャンといい、度々おこるコンテストのルール変更といい、相田君にとって不利になるように仕向けられているのは俺の勘違いではないよな…流石に…。)


今回のルール変更も、相田君が女性役を演じることを事前に踏まえて、意図的に不利になるよう仕組まれた悪意ある変更だろう。



脳裏に俺達をあざ笑う総一郎とひなの影がちらつくも、シッシッと追い払う。


今はあいつらより、相田君をいかに可愛く?するのか…コンテストに向けた対策が重要だ。

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