125 / 169
第1章
第125話《総一郎の心に重い一撃を放つ俳優のタクトさん》
しおりを挟む
「うん、巧斗さんありがと…。俺もネズミが苦手だからそう言ってくれると心強いな…。」
巧斗さんが言う「どぶねずみ」が総一郎とひなを指していることは薄々察したが、ここは気づいていないふりをする方が賢明だろう。
とはいえ、俺の悪口を言っているあの二人に対してここまで怒ってくれるのは、正直嬉しい。
(テレビで見た時は完璧な雲の上の王子様αだと思っていたけど、巧斗さんって意外と人情深くて、情熱的な人なんだよな。)
そんなことを考えている間に、総一郎とひなはスマホを見終えて再び歩き始め、なんとこちらの方面の出店エリアに向かってきた。
(!マズい!俺、呑気にも傍観者やってたけど、あいつらがこっち方面に来るのは想定して無かった…!このままじゃ、総一郎に再び顔を合わせることになりかねない。)
もしこの状況でもう一回総一郎に会おうものなら、一体どんな面倒くさい事を言われることやら…と、咄嗟に辺りを見回して隠れる所を探そうとすると、巧斗さんが突然マスクを外し、高級な肌触りの良いコートと自分がかけていた帽子をさっと俺に被せてぎゅっと抱き寄せてくれた。
「わ!巧斗さん…?」
「大丈夫。こうしていれば絶対にバレませんから。後は俺に任せてください。」
巧斗さんがウインクをしながら腕の中に俺を包むと、彼の体温がじんわりと伝わってきて、緊張していた心が少し和らいでいくのを感じた。
そして、そうこうしている間にも、総一郎とひなの声が少しずつ近づいてくる。
(げ、やっぱりあいつら、俺たちの前を通るのか…)
奴らがアスファルトを踏む音が耳に響くたび、ドキッ!と心臓が跳ねるのを感じたが、何故だか俺の耳が当たっている巧斗さんの左胸の心臓も同じ位高鳴っていて、不思議に思いながらも殊更緊張感が増す。
とうとう総一郎とひながすぐそこまで来て、会話が更に明確に近くで耳に入ってきて、俺はぎゅっと目を瞑った。
(来た…!どうかバレませんように!)
『~でね?今度僕、今日貰うオメコンの優勝トロフィを見せに、海外にいるおじいちゃまの所に会いに行くんだ♪』
『へぇ、愛野会長にか?』
『うん♪…あ、そうだ!ラスベガス旅行とはまた別日でこっちにも一緒にいこーよ♫』
『…………。ひな、そのラスベガスの件なんだが、…………?……!!』
総一郎が丁度俺の目の前に来た時、会話と同時に足音がピタッと止まる。
「?総君?どうしたの?」
「いや…この男…鷲ノ宮とどこか似てるな、と思ってな…。」
「鷲ノ宮?誰それ?友達?」
「友達な訳あるか!あいつは俺のすずm…いや、私物を盗んだ泥棒なんだ!」
そう言いながら総一郎がギッ!とこちらを睨みつけると、その瞬間___。
おおよそあの巧斗さんから出たとは思えない柄の悪い声が、マスクを外した彼の形の良い口から発せられた。
「あ?誰だよアンタ?人の事じろじろと見てきやがって感じわりぃな。」
「!!……なんだ、人違いか…。」
「や、やだ、ちょっと総君、この人こわい…。絶対ヤンキーだよ…。」
(え!?今の巧斗さん?!)
あまりの別人っぷりに、思わずコートの中でこそっと巧斗さんを見上げてみると、色素の薄い髪にサングラスにメンチを切っている口元が確かに悪っぽくも見えて、さっき《任せて》って言っていたのはこういう事だったのか、と感心する。
(成程…ちょっとの変装と、表情だけでさっき会ったばかりの総一郎にも完全に別人だと思わせるなんて、流石は一流俳優…すごい演技力だ。)
「ふん、別にお前みたいな世間に置いて行かれたようなクズに興味は無い。とっとと失せろ。」
巧斗さんの演技にすっかり騙された総一郎が、そう捨て台詞を残してこの場を退散しようとすると、巧斗さんもまた同様に総一郎に捨て台詞を吐く。
「ほっとけや。オレは好きな奴にさえ置いていかれなきゃ、世間なんかどうでもいいんだよ。」
「!!!」
ボトッ
何気ない巧斗さんの言葉のどこが総一郎を動揺させたのか、総一郎が肩にかけていたバッグを地べたに落とす。
「…………っ。」
それから数拍俯いて地面を見つめた総一郎は、すぐに被りを振って、
「いや、俺はまだ違う…。さっきだって、ひなに《俺の彼氏だ》って送っていたのを見たじゃないか…。」
等とブツブツと呟き始めた。
巧斗さんが言う「どぶねずみ」が総一郎とひなを指していることは薄々察したが、ここは気づいていないふりをする方が賢明だろう。
とはいえ、俺の悪口を言っているあの二人に対してここまで怒ってくれるのは、正直嬉しい。
(テレビで見た時は完璧な雲の上の王子様αだと思っていたけど、巧斗さんって意外と人情深くて、情熱的な人なんだよな。)
そんなことを考えている間に、総一郎とひなはスマホを見終えて再び歩き始め、なんとこちらの方面の出店エリアに向かってきた。
(!マズい!俺、呑気にも傍観者やってたけど、あいつらがこっち方面に来るのは想定して無かった…!このままじゃ、総一郎に再び顔を合わせることになりかねない。)
もしこの状況でもう一回総一郎に会おうものなら、一体どんな面倒くさい事を言われることやら…と、咄嗟に辺りを見回して隠れる所を探そうとすると、巧斗さんが突然マスクを外し、高級な肌触りの良いコートと自分がかけていた帽子をさっと俺に被せてぎゅっと抱き寄せてくれた。
「わ!巧斗さん…?」
「大丈夫。こうしていれば絶対にバレませんから。後は俺に任せてください。」
巧斗さんがウインクをしながら腕の中に俺を包むと、彼の体温がじんわりと伝わってきて、緊張していた心が少し和らいでいくのを感じた。
そして、そうこうしている間にも、総一郎とひなの声が少しずつ近づいてくる。
(げ、やっぱりあいつら、俺たちの前を通るのか…)
奴らがアスファルトを踏む音が耳に響くたび、ドキッ!と心臓が跳ねるのを感じたが、何故だか俺の耳が当たっている巧斗さんの左胸の心臓も同じ位高鳴っていて、不思議に思いながらも殊更緊張感が増す。
とうとう総一郎とひながすぐそこまで来て、会話が更に明確に近くで耳に入ってきて、俺はぎゅっと目を瞑った。
(来た…!どうかバレませんように!)
『~でね?今度僕、今日貰うオメコンの優勝トロフィを見せに、海外にいるおじいちゃまの所に会いに行くんだ♪』
『へぇ、愛野会長にか?』
『うん♪…あ、そうだ!ラスベガス旅行とはまた別日でこっちにも一緒にいこーよ♫』
『…………。ひな、そのラスベガスの件なんだが、…………?……!!』
総一郎が丁度俺の目の前に来た時、会話と同時に足音がピタッと止まる。
「?総君?どうしたの?」
「いや…この男…鷲ノ宮とどこか似てるな、と思ってな…。」
「鷲ノ宮?誰それ?友達?」
「友達な訳あるか!あいつは俺のすずm…いや、私物を盗んだ泥棒なんだ!」
そう言いながら総一郎がギッ!とこちらを睨みつけると、その瞬間___。
おおよそあの巧斗さんから出たとは思えない柄の悪い声が、マスクを外した彼の形の良い口から発せられた。
「あ?誰だよアンタ?人の事じろじろと見てきやがって感じわりぃな。」
「!!……なんだ、人違いか…。」
「や、やだ、ちょっと総君、この人こわい…。絶対ヤンキーだよ…。」
(え!?今の巧斗さん?!)
あまりの別人っぷりに、思わずコートの中でこそっと巧斗さんを見上げてみると、色素の薄い髪にサングラスにメンチを切っている口元が確かに悪っぽくも見えて、さっき《任せて》って言っていたのはこういう事だったのか、と感心する。
(成程…ちょっとの変装と、表情だけでさっき会ったばかりの総一郎にも完全に別人だと思わせるなんて、流石は一流俳優…すごい演技力だ。)
「ふん、別にお前みたいな世間に置いて行かれたようなクズに興味は無い。とっとと失せろ。」
巧斗さんの演技にすっかり騙された総一郎が、そう捨て台詞を残してこの場を退散しようとすると、巧斗さんもまた同様に総一郎に捨て台詞を吐く。
「ほっとけや。オレは好きな奴にさえ置いていかれなきゃ、世間なんかどうでもいいんだよ。」
「!!!」
ボトッ
何気ない巧斗さんの言葉のどこが総一郎を動揺させたのか、総一郎が肩にかけていたバッグを地べたに落とす。
「…………っ。」
それから数拍俯いて地面を見つめた総一郎は、すぐに被りを振って、
「いや、俺はまだ違う…。さっきだって、ひなに《俺の彼氏だ》って送っていたのを見たじゃないか…。」
等とブツブツと呟き始めた。
2,257
お気に入りに追加
3,674
あなたにおすすめの小説

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?


国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる