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第1章
第116話《鷹と鷲とすずめの修羅場》
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「…何が言いたい?まさか…貴様ならすずめを幸せに出来るとでも言うつもりか?家柄も無名で顔も表に晒せないような不細工な庶民が?ハッ、笑わせるな。」
一旦黙り込んだ総一郎だが余程逆鱗に触れられたのか、今度は殺気の籠った目を向けながら巧斗さんの事を貶してくる。
(いやいや、どの口が言ってるんだ!俺からしてみれば、お前と一緒になる事が一番の不幸だよ!このまま総一郎とひなが籍を入れようものなら、俺はいつ不倫相手として訴えられるか、一生怯えなきゃならないだろうが!あと、巧斗さんはお前が思っている数千倍はすごい人だからな!)
とんでも発言をかましてくる総一郎に逐一ツッコミを入れてやりたいが、まだまだこれから復讐を控えている身なので、声を大にして言えないのが非常にもどかしい。
「おや、そうでしょうか?こんな俺でも、少なくともあなたよりは幸せに出来ると思いますよ?なんせ俺にはすずめにバレれば即関係が崩れそうな《傷》なんて一つもありませんから。いついかなる時も一途です。」
「………っ!!ふざけるな!俺とすずめの絆はそんな簡単に崩れるようなものじゃない!」
(いや、もう既にガラッガラに崩れ落ちてるけど??何を言ってるんだ???)
こいつ…いくら浮気しても俺なら許してくれるとでも思っているのか?
俺が未だにお前と縁を切って無いのは、あくまでも復讐のためであって、復讐さえ終わればこちらの方から即サヨナラだ。
しかし、やはりなんだかんだ言っても《傷(ひなとの婚約)》について触れられるのは相当バツが悪いのか、巧斗さんへの攻撃を止めて情に訴えかけてくる総一郎は、俺からしてみればかなり滑稽だ。
「…はぁ………巧斗さん、もう行こう。俺お腹がすいてきちゃった。」
「ふふ、そうですね。実は俺もです。では早速出店の方を回りましょうか。」
総一郎の逆ギレが見ていられなくなり、現実逃避をしたいのもあって、俺は巧斗さんに一刻も早くここを去る事を提案すると、彼はふわっと微笑んでそれに賛同した。
総一郎の存在を無視して、そのまま二人で駐車場を出て文化祭の会場に向かおうとしたその瞬間、
『待て!!すずめっ!!!!』
と、総一郎が執念深く俺の手首を掴もうとした。
しかし、その手を巧斗さんが凄まじい速さでスパンッ!と叩き落とす。
(!!びっくりした…腕を掴まれるかと思った…。というか巧斗さん、一体何者なんだ…?昨日も思ったけど、手刀の速さが空手のプロのそれだ…。)
こんな特技まであるなんて、すごい頼りにはなるけど、あまりにハイスペックすぎて、もはや人間離れしているようにも感じる。
「っ!すずめ、頼むからその男抜きで二人きりで話をさせてくれ!!今が無理なら後からでもいい!!!そこの男は他人だろ?それに比べて僕達は将来の番であり恋人の筈だ!!!」
総一郎が叩かれた手を押さえながら、大声で俺を呼び止めてくると、その声に周囲の通行人たちがこちらをちらちらと見始め、やがて囁き声が聞こえてきた。
《え、何々?修羅場?》
《やだ、あれって鷹崎様じゃない?》
《α同士のΩの奪い合いを間近で見るの初めて~…》
《つか、あんなΩ今までうちの大学にいたか…?マジやべえんだけど!》
それから段々とギャラリーが集まり始め、俺はその注目を浴びている恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
(えー…。今のこいつと二人きりになるだなんて冗談じゃないぞ…。あと、お願いだから大きな声で将来の番とか言うの目立つからやめてくれ…。)
「さ、行きましょう。今の彼はどう考えても冷静じゃない。二人きりになれば何をしてくるか分かりませんよ。」
「う、うん。そうだね…。」
総一郎の方を振り返って、(頼むから黙っていてくれ…!)と、必死に念力を込めていると、巧斗さんが俺が総一郎に後ろ髪を引かれて絆されようとしているとでも思ったのか、いつになく鋭い目をしながら俺の腰を抱いて文化祭会場に向かわせようとエスコートしてくる。
(いや、流石に今の総一郎についていくほど馬鹿ではないつもりだけど……心配してくれているんだろうな。)
俺は巧斗さんの気遣いに感謝しながら前を向き、それからは総一郎を振り返らなかった。
総一郎の叫び声がずっと背後から響いていたが、俺は何とかそれらを聞き流しながら巧斗さんと共に駐車場を後にする。
去り際の最後あたりに俺達を追っかけてくるのを諦めた総一郎が、「絶対に取り戻す…!!どんな手を使ってでも…!」等と呻いているのが聞こえ、背筋がゾッとした。
総一郎も、俺の事を本気で愛している訳でもあるまいに、ただ他のαに家政婦扱いしていたΩを取られたというだけで、ここまで執着してくるだなんて異常なプライドの高さだ…。
俺としては、このまま総一郎の恋人の座をキープしつつ、復讐完了後にこっぴどく振ってやる計画だったのが、これも成り行き次第ではいずれ考え直した方がいいのかもしれない…。
一旦黙り込んだ総一郎だが余程逆鱗に触れられたのか、今度は殺気の籠った目を向けながら巧斗さんの事を貶してくる。
(いやいや、どの口が言ってるんだ!俺からしてみれば、お前と一緒になる事が一番の不幸だよ!このまま総一郎とひなが籍を入れようものなら、俺はいつ不倫相手として訴えられるか、一生怯えなきゃならないだろうが!あと、巧斗さんはお前が思っている数千倍はすごい人だからな!)
とんでも発言をかましてくる総一郎に逐一ツッコミを入れてやりたいが、まだまだこれから復讐を控えている身なので、声を大にして言えないのが非常にもどかしい。
「おや、そうでしょうか?こんな俺でも、少なくともあなたよりは幸せに出来ると思いますよ?なんせ俺にはすずめにバレれば即関係が崩れそうな《傷》なんて一つもありませんから。いついかなる時も一途です。」
「………っ!!ふざけるな!俺とすずめの絆はそんな簡単に崩れるようなものじゃない!」
(いや、もう既にガラッガラに崩れ落ちてるけど??何を言ってるんだ???)
こいつ…いくら浮気しても俺なら許してくれるとでも思っているのか?
俺が未だにお前と縁を切って無いのは、あくまでも復讐のためであって、復讐さえ終わればこちらの方から即サヨナラだ。
しかし、やはりなんだかんだ言っても《傷(ひなとの婚約)》について触れられるのは相当バツが悪いのか、巧斗さんへの攻撃を止めて情に訴えかけてくる総一郎は、俺からしてみればかなり滑稽だ。
「…はぁ………巧斗さん、もう行こう。俺お腹がすいてきちゃった。」
「ふふ、そうですね。実は俺もです。では早速出店の方を回りましょうか。」
総一郎の逆ギレが見ていられなくなり、現実逃避をしたいのもあって、俺は巧斗さんに一刻も早くここを去る事を提案すると、彼はふわっと微笑んでそれに賛同した。
総一郎の存在を無視して、そのまま二人で駐車場を出て文化祭の会場に向かおうとしたその瞬間、
『待て!!すずめっ!!!!』
と、総一郎が執念深く俺の手首を掴もうとした。
しかし、その手を巧斗さんが凄まじい速さでスパンッ!と叩き落とす。
(!!びっくりした…腕を掴まれるかと思った…。というか巧斗さん、一体何者なんだ…?昨日も思ったけど、手刀の速さが空手のプロのそれだ…。)
こんな特技まであるなんて、すごい頼りにはなるけど、あまりにハイスペックすぎて、もはや人間離れしているようにも感じる。
「っ!すずめ、頼むからその男抜きで二人きりで話をさせてくれ!!今が無理なら後からでもいい!!!そこの男は他人だろ?それに比べて僕達は将来の番であり恋人の筈だ!!!」
総一郎が叩かれた手を押さえながら、大声で俺を呼び止めてくると、その声に周囲の通行人たちがこちらをちらちらと見始め、やがて囁き声が聞こえてきた。
《え、何々?修羅場?》
《やだ、あれって鷹崎様じゃない?》
《α同士のΩの奪い合いを間近で見るの初めて~…》
《つか、あんなΩ今までうちの大学にいたか…?マジやべえんだけど!》
それから段々とギャラリーが集まり始め、俺はその注目を浴びている恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
(えー…。今のこいつと二人きりになるだなんて冗談じゃないぞ…。あと、お願いだから大きな声で将来の番とか言うの目立つからやめてくれ…。)
「さ、行きましょう。今の彼はどう考えても冷静じゃない。二人きりになれば何をしてくるか分かりませんよ。」
「う、うん。そうだね…。」
総一郎の方を振り返って、(頼むから黙っていてくれ…!)と、必死に念力を込めていると、巧斗さんが俺が総一郎に後ろ髪を引かれて絆されようとしているとでも思ったのか、いつになく鋭い目をしながら俺の腰を抱いて文化祭会場に向かわせようとエスコートしてくる。
(いや、流石に今の総一郎についていくほど馬鹿ではないつもりだけど……心配してくれているんだろうな。)
俺は巧斗さんの気遣いに感謝しながら前を向き、それからは総一郎を振り返らなかった。
総一郎の叫び声がずっと背後から響いていたが、俺は何とかそれらを聞き流しながら巧斗さんと共に駐車場を後にする。
去り際の最後あたりに俺達を追っかけてくるのを諦めた総一郎が、「絶対に取り戻す…!!どんな手を使ってでも…!」等と呻いているのが聞こえ、背筋がゾッとした。
総一郎も、俺の事を本気で愛している訳でもあるまいに、ただ他のαに家政婦扱いしていたΩを取られたというだけで、ここまで執着してくるだなんて異常なプライドの高さだ…。
俺としては、このまま総一郎の恋人の座をキープしつつ、復讐完了後にこっぴどく振ってやる計画だったのが、これも成り行き次第ではいずれ考え直した方がいいのかもしれない…。
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