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第1章
第98話《領収書の0の数に仰天するすずめ》
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「それではまたの機会があれば、よろしくお願いいたします。」
巧斗さんが満足げにオーナーらに声をかけて立ち上がる姿を呆然と見つめながら、俺は内心でどうしようかと考えていた。
彼が高級チョーカーを買ってしまったことは確定してしまったし、その代金がどれほどのものかは見当もつかない。
少なくとも、《巧斗さん!これ、いくらかかったの?俺のチョーカーなんだから俺がお金を払うよ…!》と、胸を張って言える金額では無い事は確かだ。
「鷲ノ宮様、お待たせいたしました!こちら領収書になります…!」
と、ここで領収書を準備していたらしい店員さんが接客室に入ってきて、巧斗さんに声をかけてくる。
店員さんが彼に領収書を手渡そうとした時、ほんの一瞬だけ領収書の表面が見えたのだが、そこには見た事も無い桁の数字が表記されていた。
(!!?今、ゼロの数が7、8個位無かったか…?!)
目を見開いて焦る俺を他所に、巧斗さんはゆったりとした態度で、《これはどうも、ありがとうございます。》と、にこやかにお礼を言いながら領収書を受け取る。
一体いくら使ったのか気になるところだが、巧斗さんはその紙を出来るだけ俺に見せないためか、サッと速やかに財布に入れてしまっため明確な数字は分からなかった。
(!しまった、値段を見損ねた…。…でもあれは、少なくて数千万、高くて数億の位の単位だったよな…。あ!いや、でもまだ俺に渡すものだと明確に決まってる訳では無いよな?)
よくよく考えてみれば、巧斗さんは俺に買い物に付き合ってくれと言っただけだし、俺には後日、頑丈で安くて俺にも買える物を勧めてくれるかもしれない。
「それでは、俺達もそろそろ帰りましょうか。」
「あ、うん!そうだね。」
帰り支度を整えた鷲ノ宮さんが先に立ち上がり、いつもの如く俺に手を差し伸べてきた。
彼が今購入した高級品は、決して俺へのプレゼントではないのだと自分に言い聞かせるころで、なんとか平常心を保った俺は巧斗さんの手を取ってすくっと立ち上がる。
「すずめ、今日はこちらの個人的な買い物に時間を取らせてしまいましたね。お詫びと言ってはなんですが、今日は帰ったらお寿司でも取りましょうか。」
「!いやいや、そんな気にしないで!こっちこそ初めてこういうお洒落なお店に来られて楽しかったよ?」
(個人的な買い物ってことは…やっぱりあれは俺に対するお買い物じゃなかったんだ!そりゃそうだよな。いくら運命の番とはいえ、出会ったばかりの相手にそんな大金を出すはずが無いし。)
巧斗さんの言葉に一気にスッと肩の荷が降りたところで、俺は思わず笑顔を浮かべながら彼の手を力強く握り返す。
「それより、これからお世話になるのはこっちなんだから、今日は俺に夕飯を作らせてほしいな。あっ!巧斗さんの口に合うかどうかは分からないけどね?」
「!君の手料理ですか?!それは嬉しいですね…!それでは、前菜と副菜は俺が作るので一緒に料理しましょう。冷蔵庫には一通りの食材が入ってますからご自由に使ってください。」
いつもは落ち着いた紳士的な話し方をする巧斗さんが、手料理と聞いて嬉しそうに声を弾ませている姿にほっこりする。
(そこまで喜んでくれると、作り甲斐があるな。というか、巧斗さん、前菜と副菜を作ってくれるって言ってたけど、料理出来る人なんだ?ちょっと楽しみかも。)
総一郎と暮らしていた時は基本出前か俺が作るかのどっちかだったから、誰かと一緒に料理をするという機会に心が弾んだ。
チョーカーの件に関して肩の荷が降りたのと、巧斗さんと一緒に料理を作るという話でテンションが上がって完全に元気を取り戻した俺に、巧斗さんは嬉しそうに笑いかけてくれる。
◇◇◇
そのまま和やかに会話を続けながら店を出た俺たちは、ド派手な蛍光ピンクの車が止まっている駐車場に到着した。巧斗さんが助手席のドアを開けてくれた後、車に乗り込むと、リラックスしたチルな雰囲気のジャズが車内に流れ始め、いよいよ巧斗さんの自宅へと向かうことになった。
高級な店が立ち並ぶ美しい街を通り過ぎ、高層マンションやタワービルが立ち並ぶ大都市の綺麗な眺めを見つめながら、俺はほっと息をつく。
見た目はともかく乗り心地は最高な車と、美しい夜景と、良い雰囲気のBGM。
《これはもう、寝ろと言っているものだろう》と囁く悪魔の俺と、《運転して貰っている立場の俺が寝るのは失礼だろう》と囁く割とマシな悪魔の俺が心の中で葛藤して、頭をかくんかくんさせていると、丁度赤信号の所でその様子を見た巧斗さんが少し吹き出したように口を開く。
「ふふ、眠たいのでしょう?心配しなくても着いたらちゃんと起こしますから寝てください。その代わり…今日帰ったら真っ先に俺が選んだチョーカーを身に着けてくれると嬉しいな?」
こらえきれないと言った風にひとしきり笑った後、ゆるやかに笑いながら俺の膝の上に高級チョーカーが入った小さな紙袋をそっと置いてくる巧斗さんに思わず声にならない声をあげる。
「~~~!?!?」
(嘘だろ…!?やっぱりこれ、俺に渡すつもりだったのか!?あわわわ、今俺の膝の上に大変な代物が乗っかってる…!!)
うとうとしかけていた意識をきれいさっぱり覚醒させた俺を見て、巧斗さんは不思議そうに首を傾げ、きょとんとした表情をこちらに向けてくるのであった。
巧斗さんが満足げにオーナーらに声をかけて立ち上がる姿を呆然と見つめながら、俺は内心でどうしようかと考えていた。
彼が高級チョーカーを買ってしまったことは確定してしまったし、その代金がどれほどのものかは見当もつかない。
少なくとも、《巧斗さん!これ、いくらかかったの?俺のチョーカーなんだから俺がお金を払うよ…!》と、胸を張って言える金額では無い事は確かだ。
「鷲ノ宮様、お待たせいたしました!こちら領収書になります…!」
と、ここで領収書を準備していたらしい店員さんが接客室に入ってきて、巧斗さんに声をかけてくる。
店員さんが彼に領収書を手渡そうとした時、ほんの一瞬だけ領収書の表面が見えたのだが、そこには見た事も無い桁の数字が表記されていた。
(!!?今、ゼロの数が7、8個位無かったか…?!)
目を見開いて焦る俺を他所に、巧斗さんはゆったりとした態度で、《これはどうも、ありがとうございます。》と、にこやかにお礼を言いながら領収書を受け取る。
一体いくら使ったのか気になるところだが、巧斗さんはその紙を出来るだけ俺に見せないためか、サッと速やかに財布に入れてしまっため明確な数字は分からなかった。
(!しまった、値段を見損ねた…。…でもあれは、少なくて数千万、高くて数億の位の単位だったよな…。あ!いや、でもまだ俺に渡すものだと明確に決まってる訳では無いよな?)
よくよく考えてみれば、巧斗さんは俺に買い物に付き合ってくれと言っただけだし、俺には後日、頑丈で安くて俺にも買える物を勧めてくれるかもしれない。
「それでは、俺達もそろそろ帰りましょうか。」
「あ、うん!そうだね。」
帰り支度を整えた鷲ノ宮さんが先に立ち上がり、いつもの如く俺に手を差し伸べてきた。
彼が今購入した高級品は、決して俺へのプレゼントではないのだと自分に言い聞かせるころで、なんとか平常心を保った俺は巧斗さんの手を取ってすくっと立ち上がる。
「すずめ、今日はこちらの個人的な買い物に時間を取らせてしまいましたね。お詫びと言ってはなんですが、今日は帰ったらお寿司でも取りましょうか。」
「!いやいや、そんな気にしないで!こっちこそ初めてこういうお洒落なお店に来られて楽しかったよ?」
(個人的な買い物ってことは…やっぱりあれは俺に対するお買い物じゃなかったんだ!そりゃそうだよな。いくら運命の番とはいえ、出会ったばかりの相手にそんな大金を出すはずが無いし。)
巧斗さんの言葉に一気にスッと肩の荷が降りたところで、俺は思わず笑顔を浮かべながら彼の手を力強く握り返す。
「それより、これからお世話になるのはこっちなんだから、今日は俺に夕飯を作らせてほしいな。あっ!巧斗さんの口に合うかどうかは分からないけどね?」
「!君の手料理ですか?!それは嬉しいですね…!それでは、前菜と副菜は俺が作るので一緒に料理しましょう。冷蔵庫には一通りの食材が入ってますからご自由に使ってください。」
いつもは落ち着いた紳士的な話し方をする巧斗さんが、手料理と聞いて嬉しそうに声を弾ませている姿にほっこりする。
(そこまで喜んでくれると、作り甲斐があるな。というか、巧斗さん、前菜と副菜を作ってくれるって言ってたけど、料理出来る人なんだ?ちょっと楽しみかも。)
総一郎と暮らしていた時は基本出前か俺が作るかのどっちかだったから、誰かと一緒に料理をするという機会に心が弾んだ。
チョーカーの件に関して肩の荷が降りたのと、巧斗さんと一緒に料理を作るという話でテンションが上がって完全に元気を取り戻した俺に、巧斗さんは嬉しそうに笑いかけてくれる。
◇◇◇
そのまま和やかに会話を続けながら店を出た俺たちは、ド派手な蛍光ピンクの車が止まっている駐車場に到着した。巧斗さんが助手席のドアを開けてくれた後、車に乗り込むと、リラックスしたチルな雰囲気のジャズが車内に流れ始め、いよいよ巧斗さんの自宅へと向かうことになった。
高級な店が立ち並ぶ美しい街を通り過ぎ、高層マンションやタワービルが立ち並ぶ大都市の綺麗な眺めを見つめながら、俺はほっと息をつく。
見た目はともかく乗り心地は最高な車と、美しい夜景と、良い雰囲気のBGM。
《これはもう、寝ろと言っているものだろう》と囁く悪魔の俺と、《運転して貰っている立場の俺が寝るのは失礼だろう》と囁く割とマシな悪魔の俺が心の中で葛藤して、頭をかくんかくんさせていると、丁度赤信号の所でその様子を見た巧斗さんが少し吹き出したように口を開く。
「ふふ、眠たいのでしょう?心配しなくても着いたらちゃんと起こしますから寝てください。その代わり…今日帰ったら真っ先に俺が選んだチョーカーを身に着けてくれると嬉しいな?」
こらえきれないと言った風にひとしきり笑った後、ゆるやかに笑いながら俺の膝の上に高級チョーカーが入った小さな紙袋をそっと置いてくる巧斗さんに思わず声にならない声をあげる。
「~~~!?!?」
(嘘だろ…!?やっぱりこれ、俺に渡すつもりだったのか!?あわわわ、今俺の膝の上に大変な代物が乗っかってる…!!)
うとうとしかけていた意識をきれいさっぱり覚醒させた俺を見て、巧斗さんは不思議そうに首を傾げ、きょとんとした表情をこちらに向けてくるのであった。
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