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第1章

第94話《鷲VS鷹の決着》

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それから総一郎は鷲ノ宮さんの腕を強引に引っ張り、俺に声がギリギリ届かない所まで連れて行った。
総一郎は鷲ノ宮さんとの口論の中で時折声を荒げたりしながらも、鷲ノ宮さんに何か言われると悔しそうに口を閉ざす。


それからしばらくして、やっと話がついたのか、こちらに二人揃って戻ってくる。
総一郎が苦い顔をして下唇を噛みしめる一方で、鷲ノ宮さんは緩く微笑んでいるので、どっちの話が有利に運んだかは一目瞭然だ。


「すみませんすずめ、寒い中待たせてしまいましたね。では行きましょうか。彼ももう家に帰るとのことなので。ね?鷹崎さん?」
「………ッ。」


鷲ノ宮さんが俺の肩にポンと手を乗せながら、ちら、と総一郎の方を見るとギリギリと歯ぎしりをしながら閉口している。

話の内容はよく聞こえなかったけど、おそらく愛野ひなとの婚約の事を俺に対して口外しない代わりに、今日の所は総一郎の方が大人しく引き下がるという事で合意したのだろう。



「~~っ!クソ…!!!すずめ…!!君は本当にその怪しい男と共に帰るつもりなのか!!」


総一郎は、鷲ノ宮さんへの説得が無理だった事で、今度は俺に問いかけてくる。

(はぁ、ただの家政婦だと思っている相手に対して、やたら諦めが悪いな…。そんなに自分のものを他の人に一時的でも取られるのが癪に障るのか。)

総一郎のプライドの高さと往生際の悪さに辟易しながらも、後方を振り返って猫を被りながら口を開く。


「総一郎くん…。俺ね、正直さっきまでは今日の事で拗ねてたんだけど、社交界の婚約発表の事で一旦見直したんだよね。だから本当は今すぐにでも仲直りしたい…。」

「!そうだろう!ほらこっちにおいで。今日はHとかも無しでいいから、映画でも見ながらまったりしてすごそう。すずめの好きなちゅんちゅんマンを見たりなんかして、御馳走も買ってさ…!」


俺の仲直りしたい発言に総一郎が一瞬表情を和らげて、一緒に帰ろうと畳みかけてくるが、当然この俺がそれにこたえる訳がない。



「…って思ってたんだけど…。総一郎君、今の様子を見るに俺に何か隠してる事があるんでしょ?」
「!!それは…、…~っ。」

「それをここで言ってくれたら総一郎君と帰る。言えないなら一旦冷静になるために実家に泊まるなり他の所に泊まるなりして頭を冷やしたい。」



俺が泣きそうな顔を作りながら総一郎に問いかけると、彼は絶望したような表情を浮かべながら、その場に立ち尽くした。

その無様な姿に、若干の爽快感を感じながら、ひそかにほくそ笑む。

(まぁ、当然言えないだろうな。嘘をつくと秘密を知っている鷲ノ宮さんがすかさずツッコめる状況だし、こいつには今、黙って俺達を見送る以外の選択肢が無い。)


「そっか…言えないんだ…。ぐすっ。もういいっ。今日は色々ありすぎたし、お互いに頭を冷やそう…?俺はもう行くから。総一郎君も暗いから気を付けて帰ってね。」

「待っ…!!!」


泣きまねをしながら、つんと背を向ける俺に総一郎が手を伸ばそうとして、また鷲ノ宮さんにペシッとはたき落とされる。

(こいつも懲りないな…。)




「すずめ、もういいんですか?」
「はい、本当に色々とお騒がせしてごめんなさい…。」
「とんでもない!ふふっ、すずめとドライブ出来るのが今から楽しみですよ。さ、お手をどうぞ。」

鷲ノ宮さんがナチュラルに俺の手を取ってエスコートしてくれるので、思わず流れに身を任せてしまう。
(あれ、いつの間にか俺、鷲ノ宮さんと手を繋いでる…。仕草だけ見ると本当に王子様みたいな人だよな…。)



彼と一緒に校門を出るときに、背後から近くにあった木をダンっ!!と、殴る音と、微かな独り言がブツブツと聞こえてきた。


「クソっ!!!!ふざけるな…!!!!!…はぁ……まぁいい…。俺には×PSがあるからな…。居×所を突き××て、×して××…」



あいつの悔しそうな様子を横目で見て、無意識に口角が上がる。

これであいつは性処理込みの家政婦がいなくなって、当分の間不便な生活を送るわけだ。

まぁ、ひなは当然の如く家事が出来ないとして、どうせ代わりの家政婦を雇うだろうが、今まであいつに好意があった分、人一倍料理に洗濯に掃除にと尽くしてきた自負があるので、あいつもせいぜい自分の思うままにいかずに戸惑えばいい。


◇◇◇


「鷲ノ宮さん…今日は何から何までありがとうございました!助けに来てくれてとても嬉しかったです…!」

「いえいえ、感謝をしたいのはこちらですよ。なんせ、すずめと過ごすチャンスを貰えるのですから。これからでも君と仲良くなれたら嬉しいです。…ああでも、いつの間にか敬語に戻っちゃってますね…。」

駐車場まで足を運ぶ道中、鷲ノ宮さんに感謝の意をのべると、彼は微笑みながら感謝を返してくれた後、帽子の影の下で困り眉をしながら子犬のような声色で、俺の敬語を指摘してくる。



「あっ。」


そういえば、彼には電話口で出来ればタメ語で話してほしいと言われてたんだった。
また完全に忘れてたな…。
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