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第1章
第93話《浮気カレシVS運命の番》
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二人の間に張り詰めた空気が漂う中、鷲ノ宮さんが一歩前に出て総一郎と対立した。
サングラス越しに薄っすらと見える彼の眼差しは猛禽類のように鋭く、今朝優しい雰囲気とはまるでかけ離れていた。
一方、総一郎の方も鷲ノ宮さんに対して引き下がる様子はなく、怒りを露わにしたまま今にも飛び掛からんとしている。
(びっくりした…。まさか鷲ノ宮さんがここまで俺の事を迎えにきてくれているだなんて…。でも、ここからどうしよう。総一郎も自分の所有物を奪われて頭に血が上っているようだし、素直に俺が鷲ノ宮さんについていく事を許すとも思えない…。)
「貴様……俺のすずめによくも…!一体どこの家のαだ?名を名乗れ!」
(総一郎、なんだか一人称から口調までいつもと違うな…。まさかあれが本性なのか…?)
いつもの紳士然としたねっとり溺愛風の口調から、いかにも社会的地位を鼻にかけたような俺様口調に切り替わった総一郎に驚く。
「ああ、これは失礼。自己紹介がまだでしたね。俺は鷲ノ宮巧斗と申します。」
総一郎の高圧的な態度に怯むことなく鷲ノ宮さんが平然と名を名乗ると、総一郎が勝ち誇ったようにあざ笑う。
「はっ。鷲ノ宮だなんて聞いた事も無い苗字だな?貴様如き庶民のαがこの鷹崎の名を継ぐ俺の恋人に触れてただで済むと思っているのなら、この先一生後悔する事になるぞ。」
実家のネームバリューを使って分かり安く脅しをかける総一郎に、鷲ノ宮さんは冷静かつしっかりとした口調で返答する。
「なんと。あの鷹崎家の御曹司様であらせられましたか。これはとんだご無礼をお許しください。ご心配なさらなくてもあなたの婚約者には指一本触れませんのでご安心を。」
彼はそういいながらも、しっかりと俺の事を抱き締めた。
まさか、脅しが利かないとは予想していなかったのか、総一郎が一瞬言葉を失ったように見えたが、すぐに顔をしかめ、怒りを抑えきれない様子で再び鷲ノ宮さんを睨みつける。
「鷲ノ宮巧斗…!!貴様…さっきの話を聞いていなかったのか?この俺に楯突くというのかどういう事か、身をもって知りたいようだな…?」
今の総一郎の様子を見るに、この脅しが偽物ではないという事くらいは俺でもわかるので、流石に止めに入った。
「あの…、鷲ノ宮さん多分彼、本気で…」
本気であなたに迷惑をかけようとしているので、今日の所は一旦帰ります__
そう言おうとした俺を再度抱き寄せ、『大丈夫だから良い子にしてて?』と、耳元で囁かれる。
(!!え、なにこの人…かっこよ…。)
彼の堂々とした所作に、思わず見惚れてしまう。
見た目は黒帽子に黒マスクにサングラスと、ほぼ顔は見えないし不審者っぽい服装なのに、佇まいとオーラがイケメンのそれだ。
「鷹崎さん、落ち着いてください。俺は何も間違った事はしていませんよ?なんせあなたの婚約者には現に指一本触れていないのですから。ええと、なんといいましたか…愛田…愛原…愛山…」
鷲ノ宮さんがそこまで言うと総一郎の目の色が変わる。
それ以上何かを言われると都合が悪い事がありますよと言ったような、焦りの眼差しだ。
「…っ!!!!」
「うーん…。名前はど忘れしてしまいましたが、この間の政治・経済・芸能、全ての重鎮が集まる社交界のパーティでご婚約の発表をされていましたよね?あっ!思いだしました。確か、愛野h…」
「待て…!!!貴様がなぜそんな事を知っている!!」
もう少しで愛野ひなの名前を呼ぶ寸前で総一郎が真っ青な顔で、文字通り待ったをかける。
「どうしてかは、教える義理はありませんが……事実でしょう?」
「ぐっ…」
鷲ノ宮さんのにやりとした悪そうな目がサングラス越しに薄っすらと伺える。
(鷲ノ宮さん…総一郎とひなの関係ついて知っていたのか…。それにしても、あの総一郎を慌てさせるとは…この人意外とやり手だな…。)
そもそも総一郎が出るような各業界のトップクラスの関係者しか入れない社交界に参加できるところから見てもただ者ではない。
なんせ、総一郎の恋人の俺ですら一回も足を踏み入れる事が出来なかった厳重なパーティだったからな。
数か月前、総一郎が社交界に行くという話を聞いて、何も知らなかった俺が『連れて行って欲しい』と言ってみた所、『それだけは出来ないんだ。ごめんね。』と、顔中にキスをされて誤魔化されたのを思い出す。
でも今思いかえしてみると、婚約者としてひなの事を呼んでいたのか…。とんだクズだな。
目の前の総一郎の愛野ひなの名前を絶対に出させたくないといった焦った様子に、何をいまさら…と、一瞬だけ疑問に思うも、そういえば俺はまだこいつの浮気と裏切りについて気づいていない設定だった事を思い出す。
(これは上手い事いけば追い打ちをかけられるかもしれない。)
そう思った俺はしばらく大人しく閉じていた口を開く。
「え!総一郎君、パーティに全然俺を連れてってくれないからどうしてかなって思ってたけど、俺たちの婚約の発表をしてくれてたんだ!?それならそうと言ってよ~!えへへ。嬉しい!!」
俺が感動したように総一郎に満面の笑顔を送ると、総一郎がほんの一瞬だけ怯む。
そこに鷲ノ宮さんが、俳優顔負けの戸惑ったような胡散臭い演技で畳みかけてきた。
「?俺たちの婚約…??これは…どういう事ですか…?鷹崎さんの婚約相手は愛n…」
そこまで言ったところで総一郎が、『待ってくれ…!!』と、切羽詰まった声を上げたのだった。
サングラス越しに薄っすらと見える彼の眼差しは猛禽類のように鋭く、今朝優しい雰囲気とはまるでかけ離れていた。
一方、総一郎の方も鷲ノ宮さんに対して引き下がる様子はなく、怒りを露わにしたまま今にも飛び掛からんとしている。
(びっくりした…。まさか鷲ノ宮さんがここまで俺の事を迎えにきてくれているだなんて…。でも、ここからどうしよう。総一郎も自分の所有物を奪われて頭に血が上っているようだし、素直に俺が鷲ノ宮さんについていく事を許すとも思えない…。)
「貴様……俺のすずめによくも…!一体どこの家のαだ?名を名乗れ!」
(総一郎、なんだか一人称から口調までいつもと違うな…。まさかあれが本性なのか…?)
いつもの紳士然としたねっとり溺愛風の口調から、いかにも社会的地位を鼻にかけたような俺様口調に切り替わった総一郎に驚く。
「ああ、これは失礼。自己紹介がまだでしたね。俺は鷲ノ宮巧斗と申します。」
総一郎の高圧的な態度に怯むことなく鷲ノ宮さんが平然と名を名乗ると、総一郎が勝ち誇ったようにあざ笑う。
「はっ。鷲ノ宮だなんて聞いた事も無い苗字だな?貴様如き庶民のαがこの鷹崎の名を継ぐ俺の恋人に触れてただで済むと思っているのなら、この先一生後悔する事になるぞ。」
実家のネームバリューを使って分かり安く脅しをかける総一郎に、鷲ノ宮さんは冷静かつしっかりとした口調で返答する。
「なんと。あの鷹崎家の御曹司様であらせられましたか。これはとんだご無礼をお許しください。ご心配なさらなくてもあなたの婚約者には指一本触れませんのでご安心を。」
彼はそういいながらも、しっかりと俺の事を抱き締めた。
まさか、脅しが利かないとは予想していなかったのか、総一郎が一瞬言葉を失ったように見えたが、すぐに顔をしかめ、怒りを抑えきれない様子で再び鷲ノ宮さんを睨みつける。
「鷲ノ宮巧斗…!!貴様…さっきの話を聞いていなかったのか?この俺に楯突くというのかどういう事か、身をもって知りたいようだな…?」
今の総一郎の様子を見るに、この脅しが偽物ではないという事くらいは俺でもわかるので、流石に止めに入った。
「あの…、鷲ノ宮さん多分彼、本気で…」
本気であなたに迷惑をかけようとしているので、今日の所は一旦帰ります__
そう言おうとした俺を再度抱き寄せ、『大丈夫だから良い子にしてて?』と、耳元で囁かれる。
(!!え、なにこの人…かっこよ…。)
彼の堂々とした所作に、思わず見惚れてしまう。
見た目は黒帽子に黒マスクにサングラスと、ほぼ顔は見えないし不審者っぽい服装なのに、佇まいとオーラがイケメンのそれだ。
「鷹崎さん、落ち着いてください。俺は何も間違った事はしていませんよ?なんせあなたの婚約者には現に指一本触れていないのですから。ええと、なんといいましたか…愛田…愛原…愛山…」
鷲ノ宮さんがそこまで言うと総一郎の目の色が変わる。
それ以上何かを言われると都合が悪い事がありますよと言ったような、焦りの眼差しだ。
「…っ!!!!」
「うーん…。名前はど忘れしてしまいましたが、この間の政治・経済・芸能、全ての重鎮が集まる社交界のパーティでご婚約の発表をされていましたよね?あっ!思いだしました。確か、愛野h…」
「待て…!!!貴様がなぜそんな事を知っている!!」
もう少しで愛野ひなの名前を呼ぶ寸前で総一郎が真っ青な顔で、文字通り待ったをかける。
「どうしてかは、教える義理はありませんが……事実でしょう?」
「ぐっ…」
鷲ノ宮さんのにやりとした悪そうな目がサングラス越しに薄っすらと伺える。
(鷲ノ宮さん…総一郎とひなの関係ついて知っていたのか…。それにしても、あの総一郎を慌てさせるとは…この人意外とやり手だな…。)
そもそも総一郎が出るような各業界のトップクラスの関係者しか入れない社交界に参加できるところから見てもただ者ではない。
なんせ、総一郎の恋人の俺ですら一回も足を踏み入れる事が出来なかった厳重なパーティだったからな。
数か月前、総一郎が社交界に行くという話を聞いて、何も知らなかった俺が『連れて行って欲しい』と言ってみた所、『それだけは出来ないんだ。ごめんね。』と、顔中にキスをされて誤魔化されたのを思い出す。
でも今思いかえしてみると、婚約者としてひなの事を呼んでいたのか…。とんだクズだな。
目の前の総一郎の愛野ひなの名前を絶対に出させたくないといった焦った様子に、何をいまさら…と、一瞬だけ疑問に思うも、そういえば俺はまだこいつの浮気と裏切りについて気づいていない設定だった事を思い出す。
(これは上手い事いけば追い打ちをかけられるかもしれない。)
そう思った俺はしばらく大人しく閉じていた口を開く。
「え!総一郎君、パーティに全然俺を連れてってくれないからどうしてかなって思ってたけど、俺たちの婚約の発表をしてくれてたんだ!?それならそうと言ってよ~!えへへ。嬉しい!!」
俺が感動したように総一郎に満面の笑顔を送ると、総一郎がほんの一瞬だけ怯む。
そこに鷲ノ宮さんが、俳優顔負けの戸惑ったような胡散臭い演技で畳みかけてきた。
「?俺たちの婚約…??これは…どういう事ですか…?鷹崎さんの婚約相手は愛n…」
そこまで言ったところで総一郎が、『待ってくれ…!!』と、切羽詰まった声を上げたのだった。
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