92 / 169
第1章
第92話《鷲と鷹の対決》
しおりを挟む
驚きと混乱で思わず叫び声を上げた俺に、突然現れた中年のおじさんは「ふふふ…」と、不気味に笑いながら答えた。
「将来の旦那様に向かって誰だなんて、酷いなぁすずめは。いやね?ついさっき、とある方に霧下すずめというΩを番にしたらお金を融資してくれるってお達しがあって、君の顔写真も見せて貰ったんだけどあまりにもタイプでさ?ついつい仕事もほっぽって飛んできちゃったよねぇ。」
おじさんは、つらつらと経緯を語りながら特殊な形をしたハサミを握って、こちらに近づいてくる。
(俺を番にしたら賞金が出る…?!…そんな事頼む奴なんて一人しかいないだろ…。)
先程、父親に電話していたひなの顔がちらちらと頭をよぎる。
そういえばさっき、父親に不細工なαの手配をしていたようだったけど、こういう事だったのか…。
(まぁでもこっちだってお高いものではないにせよ、一応Ω用のチョーカーをしているのでうなじを噛まれる事は無いはずだ。)__等と、慢心していたら、おじさんが懐から特殊な形のハサミを取り出した。
「!なにそれ…ハサミ…?」
「ああ、このハサミね、なんと金属から革製品までなんでも切れる優れものらしいんだ。大人しくしてたら怪我しないからね?」
おじさんがハサミをチョキチョキする動作をしながら、こちらへジリジリと近寄ってくる。
辺りを見渡すも誰もおらず、逃げるしかなくなった俺はダッシュでそこから逃げ出した。
「ははは、待て待てぇ~!」
当然おじさんもニタニタしながらのっそのっそと走って追っかけてきたので、俺も今までに無い位全速力で走る。
(~!気持ち悪っ!!こんなやつに捕まってたまるかー!!…………ってあれ…?)
俺も人一倍体力は無いし、足も遅い方だが、追っかけてくるおじさんはその俺よりももっと遅く、数秒走った程度でゼエゼエひぃひぃ言っていたので、思っていたより数十倍簡単に撒けた。
(嘘だろ…。まさかこの俺より体力が無い男がいるなんて…。)
初めて追いかけっこで勝った事に呑気にもちょっとだけ優越感を感じた。
それから駆け足で走る事数分、なんとか人通りの多いところに紛れ込む事に成功した俺はほっと一息をつく。
あのおじさんも、わざわざ俺が一人でいる所見計らって話しかけてきた所を見るに、どうやら人通りが多い所では迂闊に手を出せないようなので、ちょっとここらで休ませてもらおう。
校門近くのベンチに座った俺は息を整えるために一旦そこに座る。
(しかし、まさかチョーカーを切られるという可能性があったとは…Ωっていうのも結構大変なんだな…。)
物思いにふけること数十秒後、ついいつもの癖でスマホで時間を見ようとして、カバンを開いたその時、ベンチの後ろからぎゅっと何者かに抱き締められた。
(~~!!?だからもういいって!誰だよ今度は!)
さっきのおじさんは足の速さからしてここにいるはずがないので、必然的に今度は別の人物が俺の背後にいるということになる。
幾度となく繰り返してきた場面に流石にイライラしてギッとしながら後ろを振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた総一郎が佇んでいた。
「やっと見つけたよ、すずめ。さぁ、早くおうちに帰って沢山Hしようね…?」
「いやそれ、さっきおじさんが言ってたやつ!!」
厳密にいうとちょっと違うけど、ほぼおじさんと同じ言葉で背後から話しかけてきた総一郎に、つい猫を被るのも忘れてさっきのノリでつっこんでしまう。
「おじさん…?一体何のことを言ってるのか分からないけど、えらく機嫌が悪いみたいだね?もしかして今日の事で拗ねてるの?」
俺の項のあたりをそろそろと撫でながら、Hをする時のような声色で耳元に話しかけてくる総一郎に背筋がぞくっとする。
なんということだ…。危険なαおじさんから逃げられたと思ったら、もっと危険なαに捕まってしまった。
通りすがりの人達も、『あ、あの二人って…。』等と、こそこそしながらも、『仲直りしたんだー。お幸せに』とだけ言って、生暖かい視線を送りながら続々と帰っていくので、助けを求めるのも無意味そうだ。
まぁどっちみち、総一郎にはまだまだこれからも沢山復讐を重ねていくつもりでいるので、ここで荒波を立てるつもりも毛頭ない。
「別に拗ねてなんかないけど…ショックだった。総一郎君がひなちゃんと一緒に新郎新婦役でコンテストに出たの…。」
こうなっては仕方がないので、鷲ノ宮さんとの待ち合わせの時間までここでだらだら話す事で、時間を稼ぐ事にしよう。
「え、そうなの?ヤキモチ焼いてるのかわいいね。もし次があったら、その時はすずめと出てあげるから許して?ほら、もう寒いし、早く帰ろう。」
俺のほんの少しちくりと刺すような咎めに、総一郎は一切悪びれもせずさらりと流し、帰りの催促を続ける。
(こいつ…もう、何が何でも絶対におうちに帰るマンになっているな…。)
大方頭の中はHの事でいっぱいなのだろう。
「今日は僕たちの関係を一歩先に進めるサプライズがあるんだ。きっとすずめも喜ぶよ。」
中々ベンチから立とうとしない俺に焦れたのか、腕を掴んで立たせられて無理やり連行されそうになる。
「!!」
(まずいっ!全然振りほどけない…!)
αの力の前では俺の筋力など何の役にも立たず、振りほどこうにもびくともしないし、そもそも俺が振りほどこうと力を入れている事にも気づいていないだろう。
(詰んだ…今日はもう、こいつと一緒に帰って大人しくHするしかないのか…。)
__と、半ば諦めかけていたところ、総一郎が握っていた手を何者かが素早く手刀ではたき落として、俺の身が自由になり、その瞬間誰かの胸にぽすんと収まった。
「…!!!誰だ!!!!!」
俺を誰かに取られた形になる総一郎が、初めて見るような怒りの形相でこちらの方をぐわっと睨んでくる。
誰かと思い上を見上げると鷲ノ宮さんが、俺の肩を抱きながら総一郎に負けず劣らずの鋭い目で前方を見据えていた。
「将来の旦那様に向かって誰だなんて、酷いなぁすずめは。いやね?ついさっき、とある方に霧下すずめというΩを番にしたらお金を融資してくれるってお達しがあって、君の顔写真も見せて貰ったんだけどあまりにもタイプでさ?ついつい仕事もほっぽって飛んできちゃったよねぇ。」
おじさんは、つらつらと経緯を語りながら特殊な形をしたハサミを握って、こちらに近づいてくる。
(俺を番にしたら賞金が出る…?!…そんな事頼む奴なんて一人しかいないだろ…。)
先程、父親に電話していたひなの顔がちらちらと頭をよぎる。
そういえばさっき、父親に不細工なαの手配をしていたようだったけど、こういう事だったのか…。
(まぁでもこっちだってお高いものではないにせよ、一応Ω用のチョーカーをしているのでうなじを噛まれる事は無いはずだ。)__等と、慢心していたら、おじさんが懐から特殊な形のハサミを取り出した。
「!なにそれ…ハサミ…?」
「ああ、このハサミね、なんと金属から革製品までなんでも切れる優れものらしいんだ。大人しくしてたら怪我しないからね?」
おじさんがハサミをチョキチョキする動作をしながら、こちらへジリジリと近寄ってくる。
辺りを見渡すも誰もおらず、逃げるしかなくなった俺はダッシュでそこから逃げ出した。
「ははは、待て待てぇ~!」
当然おじさんもニタニタしながらのっそのっそと走って追っかけてきたので、俺も今までに無い位全速力で走る。
(~!気持ち悪っ!!こんなやつに捕まってたまるかー!!…………ってあれ…?)
俺も人一倍体力は無いし、足も遅い方だが、追っかけてくるおじさんはその俺よりももっと遅く、数秒走った程度でゼエゼエひぃひぃ言っていたので、思っていたより数十倍簡単に撒けた。
(嘘だろ…。まさかこの俺より体力が無い男がいるなんて…。)
初めて追いかけっこで勝った事に呑気にもちょっとだけ優越感を感じた。
それから駆け足で走る事数分、なんとか人通りの多いところに紛れ込む事に成功した俺はほっと一息をつく。
あのおじさんも、わざわざ俺が一人でいる所見計らって話しかけてきた所を見るに、どうやら人通りが多い所では迂闊に手を出せないようなので、ちょっとここらで休ませてもらおう。
校門近くのベンチに座った俺は息を整えるために一旦そこに座る。
(しかし、まさかチョーカーを切られるという可能性があったとは…Ωっていうのも結構大変なんだな…。)
物思いにふけること数十秒後、ついいつもの癖でスマホで時間を見ようとして、カバンを開いたその時、ベンチの後ろからぎゅっと何者かに抱き締められた。
(~~!!?だからもういいって!誰だよ今度は!)
さっきのおじさんは足の速さからしてここにいるはずがないので、必然的に今度は別の人物が俺の背後にいるということになる。
幾度となく繰り返してきた場面に流石にイライラしてギッとしながら後ろを振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた総一郎が佇んでいた。
「やっと見つけたよ、すずめ。さぁ、早くおうちに帰って沢山Hしようね…?」
「いやそれ、さっきおじさんが言ってたやつ!!」
厳密にいうとちょっと違うけど、ほぼおじさんと同じ言葉で背後から話しかけてきた総一郎に、つい猫を被るのも忘れてさっきのノリでつっこんでしまう。
「おじさん…?一体何のことを言ってるのか分からないけど、えらく機嫌が悪いみたいだね?もしかして今日の事で拗ねてるの?」
俺の項のあたりをそろそろと撫でながら、Hをする時のような声色で耳元に話しかけてくる総一郎に背筋がぞくっとする。
なんということだ…。危険なαおじさんから逃げられたと思ったら、もっと危険なαに捕まってしまった。
通りすがりの人達も、『あ、あの二人って…。』等と、こそこそしながらも、『仲直りしたんだー。お幸せに』とだけ言って、生暖かい視線を送りながら続々と帰っていくので、助けを求めるのも無意味そうだ。
まぁどっちみち、総一郎にはまだまだこれからも沢山復讐を重ねていくつもりでいるので、ここで荒波を立てるつもりも毛頭ない。
「別に拗ねてなんかないけど…ショックだった。総一郎君がひなちゃんと一緒に新郎新婦役でコンテストに出たの…。」
こうなっては仕方がないので、鷲ノ宮さんとの待ち合わせの時間までここでだらだら話す事で、時間を稼ぐ事にしよう。
「え、そうなの?ヤキモチ焼いてるのかわいいね。もし次があったら、その時はすずめと出てあげるから許して?ほら、もう寒いし、早く帰ろう。」
俺のほんの少しちくりと刺すような咎めに、総一郎は一切悪びれもせずさらりと流し、帰りの催促を続ける。
(こいつ…もう、何が何でも絶対におうちに帰るマンになっているな…。)
大方頭の中はHの事でいっぱいなのだろう。
「今日は僕たちの関係を一歩先に進めるサプライズがあるんだ。きっとすずめも喜ぶよ。」
中々ベンチから立とうとしない俺に焦れたのか、腕を掴んで立たせられて無理やり連行されそうになる。
「!!」
(まずいっ!全然振りほどけない…!)
αの力の前では俺の筋力など何の役にも立たず、振りほどこうにもびくともしないし、そもそも俺が振りほどこうと力を入れている事にも気づいていないだろう。
(詰んだ…今日はもう、こいつと一緒に帰って大人しくHするしかないのか…。)
__と、半ば諦めかけていたところ、総一郎が握っていた手を何者かが素早く手刀ではたき落として、俺の身が自由になり、その瞬間誰かの胸にぽすんと収まった。
「…!!!誰だ!!!!!」
俺を誰かに取られた形になる総一郎が、初めて見るような怒りの形相でこちらの方をぐわっと睨んでくる。
誰かと思い上を見上げると鷲ノ宮さんが、俺の肩を抱きながら総一郎に負けず劣らずの鋭い目で前方を見据えていた。
2,380
お気に入りに追加
3,660
あなたにおすすめの小説
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる