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第1章

第92話《鷲と鷹の対決》

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驚きと混乱で思わず叫び声を上げた俺に、突然現れた中年のおじさんは「ふふふ…」と、不気味に笑いながら答えた。


「将来の旦那様に向かって誰だなんて、酷いなぁすずめは。いやね?ついさっき、とある方に霧下すずめというΩを番にしたらお金を融資してくれるってお達しがあって、君の顔写真も見せて貰ったんだけどあまりにもタイプでさ?ついつい仕事もほっぽって飛んできちゃったよねぇ。」

おじさんは、つらつらと経緯を語りながら特殊な形をしたハサミを握って、こちらに近づいてくる。

(俺を番にしたら賞金が出る…?!…そんな事頼む奴なんて一人しかいないだろ…。)

先程、父親に電話していたひなの顔がちらちらと頭をよぎる。

そういえばさっき、父親に不細工なαの手配をしていたようだったけど、こういう事だったのか…。


(まぁでもこっちだってお高いものではないにせよ、一応Ω用のチョーカーをしているのでうなじを噛まれる事は無いはずだ。)__等と、慢心していたら、おじさんが懐から特殊な形のハサミを取り出した。


「!なにそれ…ハサミ…?」
「ああ、このハサミね、なんと金属から革製品までなんでも切れる優れものらしいんだ。大人しくしてたら怪我しないからね?」

おじさんがハサミをチョキチョキする動作をしながら、こちらへジリジリと近寄ってくる。
辺りを見渡すも誰もおらず、逃げるしかなくなった俺はダッシュでそこから逃げ出した。


「ははは、待て待てぇ~!」

当然おじさんもニタニタしながらのっそのっそと走って追っかけてきたので、俺も今までに無い位全速力で走る。


(~!気持ち悪っ!!こんなやつに捕まってたまるかー!!…………ってあれ…?)


俺も人一倍体力は無いし、足も遅い方だが、追っかけてくるおじさんはその俺よりももっと遅く、数秒走った程度でゼエゼエひぃひぃ言っていたので、思っていたより数十倍簡単に撒けた。


(嘘だろ…。まさかこの俺より体力が無い男がいるなんて…。)

初めて追いかけっこで勝った事に呑気にもちょっとだけ優越感を感じた。

それから駆け足で走る事数分、なんとか人通りの多いところに紛れ込む事に成功した俺はほっと一息をつく。

あのおじさんも、わざわざ俺が一人でいる所見計らって話しかけてきた所を見るに、どうやら人通りが多い所では迂闊に手を出せないようなので、ちょっとここらで休ませてもらおう。

校門近くのベンチに座った俺は息を整えるために一旦そこに座る。






(しかし、まさかチョーカーを切られるという可能性があったとは…Ωっていうのも結構大変なんだな…。)

物思いにふけること数十秒後、ついいつもの癖でスマホで時間を見ようとして、カバンを開いたその時、ベンチの後ろからぎゅっと何者かに抱き締められた。


(~~!!?だからもういいって!誰だよ今度は!)

さっきのおじさんは足の速さからしてここにいるはずがないので、必然的に今度は別の人物が俺の背後にいるということになる。

幾度となく繰り返してきた場面に流石にイライラしてギッとしながら後ろを振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた総一郎が佇んでいた。



「やっと見つけたよ、すずめ。さぁ、早くおうちに帰って沢山Hしようね…?」



「いやそれ、さっきおじさんが言ってたやつ!!」

厳密にいうとちょっと違うけど、ほぼおじさんと同じ言葉で背後から話しかけてきた総一郎に、つい猫を被るのも忘れてさっきのノリでつっこんでしまう。


「おじさん…?一体何のことを言ってるのか分からないけど、えらく機嫌が悪いみたいだね?もしかして今日の事で拗ねてるの?」

俺の項のあたりをそろそろと撫でながら、Hをする時のような声色で耳元に話しかけてくる総一郎に背筋がぞくっとする。

なんということだ…。危険なαおじさんから逃げられたと思ったら、もっと危険なαに捕まってしまった。


通りすがりの人達も、『あ、あの二人って…。』等と、こそこそしながらも、『仲直りしたんだー。お幸せに』とだけ言って、生暖かい視線を送りながら続々と帰っていくので、助けを求めるのも無意味そうだ。

まぁどっちみち、総一郎にはまだまだこれからも沢山復讐を重ねていくつもりでいるので、ここで荒波を立てるつもりも毛頭ない。


「別に拗ねてなんかないけど…ショックだった。総一郎君がひなちゃんと一緒に新郎新婦役でコンテストに出たの…。」

こうなっては仕方がないので、鷲ノ宮さんとの待ち合わせの時間までここでだらだら話す事で、時間を稼ぐ事にしよう。

「え、そうなの?ヤキモチ焼いてるのかわいいね。もし次があったら、その時はすずめと出てあげるから許して?ほら、もう寒いし、早く帰ろう。」


俺のほんの少しちくりと刺すような咎めに、総一郎は一切悪びれもせずさらりと流し、帰りの催促を続ける。

(こいつ…もう、何が何でも絶対におうちに帰るマンになっているな…。)

大方頭の中はHの事でいっぱいなのだろう。


「今日は僕たちの関係を一歩先に進めるサプライズがあるんだ。きっとすずめも喜ぶよ。」

中々ベンチから立とうとしない俺に焦れたのか、腕を掴んで立たせられて無理やり連行されそうになる。

「!!」
(まずいっ!全然振りほどけない…!)

αの力の前では俺の筋力など何の役にも立たず、振りほどこうにもびくともしないし、そもそも俺が振りほどこうと力を入れている事にも気づいていないだろう。


(詰んだ…今日はもう、こいつと一緒に帰って大人しくHするしかないのか…。)


__と、半ば諦めかけていたところ、総一郎が握っていた手を何者かが素早く手刀ではたき落として、俺の身が自由になり、その瞬間誰かの胸にぽすんと収まった。



「…!!!誰だ!!!!!」



俺を誰かに取られた形になる総一郎が、初めて見るような怒りの形相でこちらの方をぐわっと睨んでくる。
誰かと思い上を見上げると鷲ノ宮さんが、俺の肩を抱きながら総一郎に負けず劣らずの鋭い目で前方を見据えていた。
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