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第1章
第78話《シマちゃんの指名》
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(だとしたら、シマちゃんの審査順が一番最後になったのも中々に好都合だったんだな。)
なんせ、他の出場者が一様にスパダリαを指名して会場を盛り下げた事で、彼らを自分を盛り上げるための優秀な引き立て役として利用できる。
まぁ、シマちゃんが一体どこまで計算していたのかは分からないけれど。
「それで今回の審査を通して、彼とはそろそろ次のステップに行きたいなと思ってて…」
「おお、もしかして番になりたいと…?」
「いいえ、僕はそれよりもずっと確かで強い絆を彼と結びたいんです♪」
「な、な、な、なんと…!それはもしや…?」
シマちゃんがひなの審査の時のセリフをそれとなくオマージュしつつ、どういう関係の人に告白するのかについては明確にしないまま話を続ける。
『え、何?まさか結婚するの…!?』
『番より強い絆だなんてもうそれしかねぇよな?』
『嗚呼、シマたん…既に彼氏持ちでござったか…。無念……。』
『ほら、やっぱ出来レースなんじゃん。すでに番の彼氏にプロポーズなんて失敗する訳ないしー。』
『ガチプロポーズにボーナスとかいうクソ仕様止めてくれマジで。』
『幸せ自慢うざ…。早く結果発表が見たいからとっとと審査終わらせてくれないかな。』
《番よりも強い絆》と口にした事によって、観客達はもう完全に結婚の方を連想したようだ。
シマちゃん…さっきから、意図的に観客達を焦らして振り回しているように感じられるんだけど、多分気のせいではないんだろうな。
「その…ええっと…えへへ、なんだか気恥ずかしいなぁ。今になってなんだか照れてきちゃった…。」
『何照れてんの?どうせ成功率100%の出来レースの癖に。』
『いいからもったいぶらずにご自慢のαを紹介しなよ。』
『王子様が迎えに来てくれるって最初から分かってる癖にかまととぶってて嫌な感じ…。』
そうして、未だ口元を抑えながらもじもじとして、中々運命の相手とやらの存在を明らかにしようとしないシマちゃんに、マウントを取られたと勘違いしている観客達が苛立ちの声とブーイングをあげはじめたその時___。
とうとうシマちゃんが相手役を指名した。
「よし、言うぞ…!……僕の大好きなΩ友達の霧下すずめちゃん!もし会場にいたらステージまで上がってきて欲しいな。告白したい事があります♡」
シマちゃんが俺の名前を口にすることで、観客達はすぐさまざわざわと騒ぎ出す。
『え、Ω友達…??』
『霧下すずめって確かミスターコンの花嫁のΩの子だよね…?』
『なーんだ…αの彼氏じゃなかったんだ…。』
『なんかあたし、江永さんの事誤解してたわ。てっきりα自慢してマウント取ってくるかと思ったのに。』
『ね。なんかすっごいいい子そう。さっきは悪く言っちゃって悪かったなぁ。』
『シマさんってよく見たら優しそうな顔してる。やっぱ恋愛より友情だよねー。分かってる~。』
『シ、シ、シマたん~~~!!信じていたでござるよぉぉお!』
『嘘つけ!俺は信じてたけどな!』
『つか、もしかするとこれって上質な百合が見れるんじゃね?』
『なっ!?最高かよ…!!神イベきたーーーー!!!』
今まで焦らされてドキドキさせられていた分、相手が彼氏では無かったことにシマちゃんのファンは過剰なまでに歓喜の声をあげ、先程までヘイトをシマちゃんにぶつけていた観客達も、急に好印象を抱き始めている様子だ。
なんなら、ちょっと前まではシマちゃんに興味を持っていなかった人達からもいい意味で注目を集め始めている。
まさしく最初の印象が悪い人が良い事をすると、その落差で普通にいい事をした人より良い人に見えるという…《雨の日に猫を拾う不良現象》ってやつだ。
散々ハイスペα彼氏の自慢っぽい匂わせをして、嫌味なΩを演出して好感度をどん底まで下げてからの、ほっこり友情エンド。
(やっぱりさっきまでの焦らし行為は計画的だったか。流石はシマちゃんだ。)
「おお!その方は確かミスターコンの相田さんの花嫁役を務めた方ですね?それでは霧下すずめさん!もし会場にいらっしゃいましたら、登壇していただければと思います!」
司会が俺の情報について勝手に補足して、周りの男性客が声を上げ始める。
『え、またあの美人さんに会えるのか!?』
『うおおぉ!俺、あの子がオメコン出ないって知って一旦帰ろうとしてたんだけど、残っててよかったわ!!』
『でもΩ同士だぜ。どんな告白をするつもりなんだろうな。』
『なんでもいいよ!またあの子に会えるんなら♪♬』
『ありがとう、シマ様、ありがとう…!!!』
(うぅ、なんだか過剰に期待されてる気がするな…。)
皆がミスターコン第一審査の時のようなメイクばっちり状態の俺を期待している中、素顔を公衆の面前に晒すのはちょっと怖いけど、これもシマちゃんの勝利&ひなの敗北のためだ。
指名された後、意を決してスッと席を立つと、妹が小声で『ガンバっ!』とガッツポーズを送ってくれたので、その応援を糧に力強く一歩を踏み出したのだった。
ステージに向かって会場の脇を通っている間にも、案の定観客達が俺の方に目を向けてひそひそと小声で話しているのが聞こえる。
司会が俺の事をミスターコンの花嫁役だとか余計な事をバラしたせいで、今頃あの花嫁もメイクなしだとこんなものなのか…とがっかりされている最中なのかもしれない。
『お、おい、あの子近くで見るとガチやべえぞ!』
『うわ、えぐっ。』
『え、あれがすっぴんってマジ?信じらんない…。』
『はえ~…この顔が化粧無しの状態ねぇ…すげぇな。』
『ああいう子見ると思うんだけど、神さまってつくづく不公平だよねぇ。』
『分かる。あの顔だと人生結構苦労しそう。絶対面倒ごとが多いでしょ。』
『あそこまで行くと、もうメイクなんていらないよね…。』
予想通り、容姿について散々叩かれているような気がするけど、実はこういうのは小さい頃から言われ慣れているのであまり気にしない事にしている。
まぁ、花嫁役の時は称賛の嵐だったような気がするのに、メイクを外した途端に梯子を外したようなこの反応はあんまりではないかとは思わないでもないけど。
これでも実は小さいころ、自分は結構かわいらしい顔だちをしているんじゃないかと自惚れていた時期があったのだが、今となっては完全に黒歴史だったな…。
なんせ、他の出場者が一様にスパダリαを指名して会場を盛り下げた事で、彼らを自分を盛り上げるための優秀な引き立て役として利用できる。
まぁ、シマちゃんが一体どこまで計算していたのかは分からないけれど。
「それで今回の審査を通して、彼とはそろそろ次のステップに行きたいなと思ってて…」
「おお、もしかして番になりたいと…?」
「いいえ、僕はそれよりもずっと確かで強い絆を彼と結びたいんです♪」
「な、な、な、なんと…!それはもしや…?」
シマちゃんがひなの審査の時のセリフをそれとなくオマージュしつつ、どういう関係の人に告白するのかについては明確にしないまま話を続ける。
『え、何?まさか結婚するの…!?』
『番より強い絆だなんてもうそれしかねぇよな?』
『嗚呼、シマたん…既に彼氏持ちでござったか…。無念……。』
『ほら、やっぱ出来レースなんじゃん。すでに番の彼氏にプロポーズなんて失敗する訳ないしー。』
『ガチプロポーズにボーナスとかいうクソ仕様止めてくれマジで。』
『幸せ自慢うざ…。早く結果発表が見たいからとっとと審査終わらせてくれないかな。』
《番よりも強い絆》と口にした事によって、観客達はもう完全に結婚の方を連想したようだ。
シマちゃん…さっきから、意図的に観客達を焦らして振り回しているように感じられるんだけど、多分気のせいではないんだろうな。
「その…ええっと…えへへ、なんだか気恥ずかしいなぁ。今になってなんだか照れてきちゃった…。」
『何照れてんの?どうせ成功率100%の出来レースの癖に。』
『いいからもったいぶらずにご自慢のαを紹介しなよ。』
『王子様が迎えに来てくれるって最初から分かってる癖にかまととぶってて嫌な感じ…。』
そうして、未だ口元を抑えながらもじもじとして、中々運命の相手とやらの存在を明らかにしようとしないシマちゃんに、マウントを取られたと勘違いしている観客達が苛立ちの声とブーイングをあげはじめたその時___。
とうとうシマちゃんが相手役を指名した。
「よし、言うぞ…!……僕の大好きなΩ友達の霧下すずめちゃん!もし会場にいたらステージまで上がってきて欲しいな。告白したい事があります♡」
シマちゃんが俺の名前を口にすることで、観客達はすぐさまざわざわと騒ぎ出す。
『え、Ω友達…??』
『霧下すずめって確かミスターコンの花嫁のΩの子だよね…?』
『なーんだ…αの彼氏じゃなかったんだ…。』
『なんかあたし、江永さんの事誤解してたわ。てっきりα自慢してマウント取ってくるかと思ったのに。』
『ね。なんかすっごいいい子そう。さっきは悪く言っちゃって悪かったなぁ。』
『シマさんってよく見たら優しそうな顔してる。やっぱ恋愛より友情だよねー。分かってる~。』
『シ、シ、シマたん~~~!!信じていたでござるよぉぉお!』
『嘘つけ!俺は信じてたけどな!』
『つか、もしかするとこれって上質な百合が見れるんじゃね?』
『なっ!?最高かよ…!!神イベきたーーーー!!!』
今まで焦らされてドキドキさせられていた分、相手が彼氏では無かったことにシマちゃんのファンは過剰なまでに歓喜の声をあげ、先程までヘイトをシマちゃんにぶつけていた観客達も、急に好印象を抱き始めている様子だ。
なんなら、ちょっと前まではシマちゃんに興味を持っていなかった人達からもいい意味で注目を集め始めている。
まさしく最初の印象が悪い人が良い事をすると、その落差で普通にいい事をした人より良い人に見えるという…《雨の日に猫を拾う不良現象》ってやつだ。
散々ハイスペα彼氏の自慢っぽい匂わせをして、嫌味なΩを演出して好感度をどん底まで下げてからの、ほっこり友情エンド。
(やっぱりさっきまでの焦らし行為は計画的だったか。流石はシマちゃんだ。)
「おお!その方は確かミスターコンの相田さんの花嫁役を務めた方ですね?それでは霧下すずめさん!もし会場にいらっしゃいましたら、登壇していただければと思います!」
司会が俺の情報について勝手に補足して、周りの男性客が声を上げ始める。
『え、またあの美人さんに会えるのか!?』
『うおおぉ!俺、あの子がオメコン出ないって知って一旦帰ろうとしてたんだけど、残っててよかったわ!!』
『でもΩ同士だぜ。どんな告白をするつもりなんだろうな。』
『なんでもいいよ!またあの子に会えるんなら♪♬』
『ありがとう、シマ様、ありがとう…!!!』
(うぅ、なんだか過剰に期待されてる気がするな…。)
皆がミスターコン第一審査の時のようなメイクばっちり状態の俺を期待している中、素顔を公衆の面前に晒すのはちょっと怖いけど、これもシマちゃんの勝利&ひなの敗北のためだ。
指名された後、意を決してスッと席を立つと、妹が小声で『ガンバっ!』とガッツポーズを送ってくれたので、その応援を糧に力強く一歩を踏み出したのだった。
ステージに向かって会場の脇を通っている間にも、案の定観客達が俺の方に目を向けてひそひそと小声で話しているのが聞こえる。
司会が俺の事をミスターコンの花嫁役だとか余計な事をバラしたせいで、今頃あの花嫁もメイクなしだとこんなものなのか…とがっかりされている最中なのかもしれない。
『お、おい、あの子近くで見るとガチやべえぞ!』
『うわ、えぐっ。』
『え、あれがすっぴんってマジ?信じらんない…。』
『はえ~…この顔が化粧無しの状態ねぇ…すげぇな。』
『ああいう子見ると思うんだけど、神さまってつくづく不公平だよねぇ。』
『分かる。あの顔だと人生結構苦労しそう。絶対面倒ごとが多いでしょ。』
『あそこまで行くと、もうメイクなんていらないよね…。』
予想通り、容姿について散々叩かれているような気がするけど、実はこういうのは小さい頃から言われ慣れているのであまり気にしない事にしている。
まぁ、花嫁役の時は称賛の嵐だったような気がするのに、メイクを外した途端に梯子を外したようなこの反応はあんまりではないかとは思わないでもないけど。
これでも実は小さいころ、自分は結構かわいらしい顔だちをしているんじゃないかと自惚れていた時期があったのだが、今となっては完全に黒歴史だったな…。
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