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第1章

第76話《ぶちゅ、ぐじゅるる…ジョリ…、ペロッ》

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(!つばめ…もしかして俺の心でも読んだのか…?)

俺の目線から何かを察したのか、なんと妹が兄をこの会場から遠ざける方向で返信をしてくれている。痒いところに手が届くとはまさにこの事だ。


『おい、条件がやたら増えてるぞ!?なんだその無理難題!お前はかぐや姫か…!』
『…もしお土産を見つけてきてくれたら、うちもすずめちゃんもお兄ちゃんの事大好きから大大大好き♡ になるのにな~。あ、でも、無理強いは駄目だもんね🥺』
『いや…そーでもねぇよ?つか難易度高すぎて逆になんか燃えてきた感あるな。待ってろ、映えて可愛くて美味しそうなりんご飴より大きい飴を《お兄ちゃんが》見つけてきてやるからな…!』
『え~!ありがと!🥰それじゃぁ《お兄ちゃん》のお土産楽しみにしてるね!👍』
『おうよ!』


メッセージのやり取りが終わった妹がスマホをカバンに戻してこちらにウインクよこしてきた。

「ふぅ、これでいい?」

「う、うん。ありがとう…!でもなんで俺が言いたい事が分かったの?」
「ふふん♪まぁ、すずめちゃんの顔と行動を見てたらなんとなくね。でも話はちゃんと後で聞かせてくれるよねすずめちゃん?」


スマホをバッグにしまいながら、笑顔でしっかり釘を刺してくる妹に、ギクっとしつつも流石に俺は「ハイ……」と頷くしかなかった。


(あぁ、流石につばめに隠し事は出来そうにないな…。)



◇◇◇




妹が兄(&総一郎)の足止めしてくれたことに、とりあえずはほっと胸をなでおろしながら再度ステージに目を向けると、ひなは相変わらずスマホをいじって遅延行為を繰り返していた。



『あ―、こりゃもうこのまま終わらないっぽいわ。帰るかぁ。』
『え!俺、結果発表までみてぇよ。』
『どうせもう時間ねえし、繰り上げで明日になるだろ。あの司会も7番の審査を止める気配もねーし。』
『まぁそれもそうかぁ…。次どこ行く?』
『たこ焼き屋いくべ。さっき美人なΩがすげぇ手さばきでたこ焼き量産してたらしいぜ。』
『なにそれwwそっちのが面白そうじゃんwww』


近くの席から二組の男性が帰る支度をしている声が聞こえてくる。



(どうする…?このまま客が減ってしまったら、シマちゃんの二次審査の点数が低くなってしまうぞ…。)


どこかの観客席からはついに椅子を引く音も聞こえて、手に汗を握りながらステージを眺めていると、スマホをいじり続けているひなと、中々告白をしてこないひなに焦れているテニサー男を尻目に、舞台袖から司会とシマちゃんが一緒に連れ添って登壇してきた。


いや、二人の表情をよく見てみると、蛇に睨まれた帰る状態なので、正しくはシマちゃんが司会を連行しているといった表現が正しいのかもしれないけど。



(あれ、シマちゃん!?なんでひなの審査にシマちゃんが…?)




「え~…尺の都合上、以上を持ちまして愛野ひな様の審査を終了とさせていただきたいと思います…。」


今の今までひなの言いなりだった司会が、一体どういう風の吹き回しなのか恐る恐るひなの審査を中断させる。


「なっ…!ちょっと待ってよ!今はまだ僕が審査中のはずでしょ?」

「も、申し訳ありません!しかし、これ以上コンテストを遅延させてしまうと、文化祭1日目が閉幕してしまうからと、シマ様が…。」


観客の手前、表立ってブちぎれる訳にはいかないのか、ひなが怒りを抑えたような唸り声で司会をけん制するも、司会が珍しく口答えをする。



(というか待て。今あの司会者…シマ【様】って言ったか?)


今までは様づけはひなに対してだけで、他には苗字にさん付けだったはずだ。


(シマちゃん…これはまた裏で激しく司会者を締めたな…。)

シマちゃんはついさっき、司会者に対しては次変なことをしたら容赦しないと言っていたので、よほど恐ろしい事があったのだろう。
司会は借りてきた猫のように萎縮してしまっている。


「ごめんねっ、そういうことだから…あ、でもひなちゃん達はそのまま通行人A・Bのエキストラとしてそこに立っててもいいからね!それじゃ、司会さん、お願いしまーす♪」

「は、はい…、では続きまして、エントリナンバー1番、江永シマ様の審査を開始しt…」





「~~~~っ!分かった!プロポーズしてキスすればいいんでしょ!」

有無を言わせない強硬突破で、シマちゃんと司会が審査を始めようとすると、流石に観念したのか、その場でようやくテニサー男に向き直り、嫌そうな顔で口を開く。




「……好キカモシレナイデス、イツカ機会ガアレバ付キ合ッテクダサイ。」


ほぼ片言で早口な上に、先延ばしの曖昧な告白を済ませると、空気を読まないテニサー男がそれを真に受けたのか、感極まってひなに抱きついた。

「本当か…!いつかとは言わずに今すぐにでも付き合おうな!愛してるぜ、ひな…!」


テニサー男が囁き声とともにひなの顎を優しく掴み、ゆっくりと顔を接近させる。



「っ。や、やっぱり嫌っ!気持ち悪…総君っ!……んちゅっ!?!?」

もうすぐキスするかという所で、ひなが往生際悪く総一郎を呼びながら、迫りくるテニサー男を突き離そうとするも、あまりの体格差からかびくともしない。



そして無常にもテニサー男はあろうことかひなの口に舌を入れ、ディープキスとやらをしかける。




ぶちゅ、ぐじゅるる…ジョリ…、ペロッ。




「ん~~~~~~~っっ!?!?オエッ」


口づけの音とテニサー男の髭がひなの顎に擦れる音がマイク越しに会場中に響き渡った。

(うわぁ…随分と音がリアルで、まるでASMRみたいだ…。というか最後のペロッは一体何の音だ…?)


拾わなくてもいいはずの音も拾っているあたり、おそらくこのコンテストでは、無駄にいいマイクを使っているのだろう。
文化祭にはとあるスポンサーが多額の出資をしていると言っていたから、予算は潤沢にあるだろうしな…。

口づけを受けたひなの顔が渋柿や梅干しを食べた時のようななんともいえない表情を浮かべていて、あまりにも顎を引きすぎて二重顎になっていた。


「へへっキス…しちまったな///…これからもずっと一緒だぜ!絶対に逃がさないからな!ひな…!」
「……。」

ひなはキスの後、吐くのをこらえるように口を抑えながら一目散にトイレの方に駆け込んでいった。
取り残されたテニサー男はまだ夢見心地なのかほくほくした顔で機嫌よさげにひなの後をゆっくりとついていく。


(怖…。…あのテニサー男、おそらくこれからもずっとひなに付き合えって迫るんだろうな。)


最初はひなに助け舟を出しに駆け付けただけなのかと思ったが、あの様子だと下心のみで相手役の代理になったというのが妥当だろう。

ああいうのは、今まではほぼ教祖と信者という関係だったから手を出されなかっただけで、少しでも自分にもチャンスがあるかもしれないという隙を見せたら終わりなのだ。
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