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第1章

第45話《ミスターコン第二次審査前》

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「お、熱々っすね!それじゃ俺はお二人の邪魔にならない様に退散するっす!!第二次審査、頑張ってくるっすねー!!」


(いやどこがだよ。熱々なのは体温だけだよ…。)

相田君はイチャついている(ように見える)俺達に変に気を使って俺達を残して控え室を去っていった。



俺も何とか話を切り上げて、一刻も早くこの場を去ろうと総一郎に話しかける。

「そういえば総一郎君、今から第二次審査始まるんだよね。総一郎君のホスト姿楽しみにしてる!絶対優勝してね!」
「勿論だよ。僕の晴れ姿、今度はちゃんと観客席で見届けてほしいな。」
「うん!」


(まぁ、総一郎が第二次審査を頑張っている頃、俺はたこ焼きを焼いて売りさばいているだろうけどな。)

相田君の晴れ姿が見れないのは残念だが、例のキャプテンさんと相田君に全てを委ねるしかない。
まぁ、第一審査でも俺達のランウェイの時に雅楽をかけたりと、相田君は相田君なりに機転を利かせて全力で挑んでいるのが分かったのであまり心配はしてない。



「総くーん!もうすぐ次の審査始まるよ?はいこれ二次審査で着るalphantのスーツ!総君用にオーダーメイドしといたよ♡」
「ありがとうひな。助かるよ。」
「えへへ♡頑張ってね!一番前の席で応援してるからね?」

やっと着替えをすませたらしいひなが総一郎に急ぐように促し、その流れでちゃっかり次の総一郎の衣装を当然のように渡した。

(さすがはマネージャーやってるだけあって甲斐甲斐しいな。こういう所にサークルの男たちは惹かれてるのか…。)

にしてもあの超有名ファッションブランドの《alphant》のオーダーメイドって。
あれ、少なくとも数十万はしそうなスーツだけど、お金はどこから来ているんだか…。
ひなの経済状況は知らないが、学生だしそんなに自由に使える金なんて普通はあまりないはずだ。



(あ__もしかして…フクロー君?)

ひなの資金源を疑問に思った瞬間、フクロー君の顔が一瞬頭の中にフラッシュバックした。

多分今頃、100%の確率でフクロー君がフラれる前にプレゼントしたブレスレットは転売されてるか、競売にかけられているだろう。

まさかあの150万円の行き先が他の本命のαの男の高級スーツ代だなんて、なんとも報われない話だ…。


総一郎は総一郎でスーツを当然のように貰ってるし…。

(大企業の御曹司なだけあって、金銭感覚がおかしいな。こいつがひなに送ったチョーカーも目玉が飛び出る位高かったし。…俺にはケチってたけど。)



「じゃあ、僕はこれから二次審査の準備があるからまた後で。すずめ、いい子で待っててね。」

総一郎はひなからスーツを受けとると、俺の首筋に行ってきますのキスをして控室の奥へ行って着替え始めた。
(!びっくりした。首になんて普段キスしないのに。ああ、今口紅が付いてるからかな。)


俺もキャプテンさんが待ってるだろうから、早くたこ焼き屋に向かわないと。
ひとまずジャケットを脱いで、化粧を落とそうと控室に備え付けてあったメイク落としを手に取ったその時、ひなが総一郎には聞こえない位の音量でぼそっと一言怖い事を言い放った。


「すずめちゃんさぁ、このまま幸せでいられると思わないでね…?」


恨みがましい声に一瞬背筋がゾッとしてひなの方を振り返ると、目が微塵も笑っていない薄ら笑いを浮かべてこちらを見据えていた。



(ひな……それは俺のセリフな??)

何故自分だけが優位に立っていると勘違いしているのかは分からないが、そもそも俺がお前らに復讐する側だ。
まぁ、ひなはまだ俺が二人の裏切りに気付いていないと思ってるだろうから、すっとぼけておくか。

「もう、ひなちゃん、それオメコンの練習か何か?いきなり言われると怖いよーw」
「…………。」


一応冗談めかして返事をしてみると、見事に無視されて『総くーん!準備手伝うよぉ♪』と甲高い猫撫で声を発しながら総一郎のいる控室の奥まで去っていった。

(あれは相当キレてるな。もう浮気も裏切りも俺にバレてもいい位に思ってそうだ。)




その後俺は気を取り直して化粧を落とした後、たこ焼き屋に向かうとキャプテンが極道も真っ青の貫禄のあるド派手スーツを着こなして待ち構えていた。

「キャプテンさーん!お待たせしましたー!今からたこ焼き屋の手伝いに入らせていただきます。」
「お!助かるばい!たこ焼きの作り方は分かると?」
「はい!作れます!」

今まで総一郎のために料理教室にまで通っていたので、基本はなんでも作れる。
たこ焼きやお好み焼きだって総一郎が食べたいと言えばちゃんと材料を買ってきて自分で作っていた。
思い返したら非常にムカつくけど。
今言われようものなら猫を被るのも忘れて「自分で作るか買ってこい!」と怒ってしまいそうだ。


「それは頼もしか!じゃあ今から二次審査が終わるまで任せるけん、よろしく頼むばい!っと…そうだ!聞きたかったっちゃけど、めじろは第二次審査も会場におるとね?」

「え、兄ですか?いると思いますよ。そもそもつばめの付きそいで来てるので。」
「よっしゃあ!じゃあ気合い入れていかんとな!!男らしか所ば見せて俺の嫁にして見せるったい。」

めじろというのはうちの兄の名前だ。
この人、コンテスト前も熱心に兄の事を口説いていたけど、まだ狙っていたのか。
いつの間にか兄の名前もおさえてるし、その場限りのナンパだと思っていたけど結構本気なのかもしれない。


「あ、あはは…もしそうなったら、兄の事をよろしくお願いしますね。」
「おうよ!任せとけ。一生幸せにして見せるけんな!」

(やばい、なんか勢いに押されて公認してしまった…。)

兄には申し訳ないけどキャプテンさんにやる気を出してもらわなきゃだし、仕方ないよな?
あと、口答えするとなんか怖いし…。


「それでは義弟よ!オレはいっちょ戦いに行ってくるけん後は頼むばい。」
「は、はい…!」

義弟…。そうか、もし兄がこの人とくっついたら俺の義弟と義兄、両方ともラグビー部の筋肉巨大男になるのか…。
絶対強盗とか実家に近寄らなそうだ。

キャプテンさんは鼻歌を歌いながらどかどかとゆったり風を切って会場の方に向かっていく。



(さて、相田君達に負けず、俺もたこ焼きをじゃんじゃん売るぞ!)

相田君とキャプテンさんがコンテストを頑張っている間に、俺も少しでも多くのたこ焼きを売り捌いて売り上げに貢献しなければ。
屋台裏に入って、たこ焼きの仕込みをしようと材料の位置を確認する。
すると何かが入った袋が俺の足にあたり、ガサっと音がした。

「ん?なんだこの袋…《義兄さんの制服っす!!》って書いてある。」

相田君が用意したであろう袋を開くと、中からはたこ焼き屋の時に相田君も着ていた黒いTシャツが出てきた。

(ああ、これに着替えろって事ね。)

俺は屋台のカウンターに隠れて普段着から用意された制服に素早く着替えた。


(いや分かったけどめっちゃデカい…。)
もう服を持った時点で自分のサイズでは無い事が分かったが、実際に来てみると彼シャツ状態も良い所だ。
そりゃ190越えのマッチョが着るシャツを俺みたいな華奢なチビが着たらこうなるよな…。
ひなみたいな可愛いΩがやるならまだしも平凡顔の俺が彼シャツはきついものがある。


まぁ我儘も言ってられないので俺はそのままたこ焼きを作り始めると、突然通りすがりのβの男達がニタニタ嫌な笑いを浮かべながら話しかけてきた。


「あれー?さっきまでごつい兄ちゃんがたこ焼き焼いてるかと思ったら可愛いΩちゃんが焼いてるじゃーんww」
「君めっちゃマブいね。何それ彼シャツ?需要分かってるー!てかメッセージアプリやってる?」
「あ、俺達全然怖い人じゃないよー?wwただ健気ちまちまたこ焼き作ってる君があまりにいじらしくてさー。」


(てっきり客かと思ったのになんなんだこの男たちは。)
たこ焼きを買いもせずに俺をからかってくる。
ナンパにも見えるが俺は今化粧を落としている状態なので、十中八九何かの勧誘だろう。

「ね、メッセージアプリのID教えてよ。お兄さん達というか俺ちょっとした俳優?でさ。《運命の番は記憶喪失》ってドラマ知ってる?鷲田タクト主演のさー、あれのエキストラやってんだけどー」
「あ?てめえ何抜け駆けしようとしてやがんだ。」
「お前そういうとこだぞ。はーマジきっしょ。」


「あのー。たこ焼き買ってくれないんですか?他のお客様の迷惑になるんですけど…。」

(って全然聞こえてない…。)

勝手に冷やかしに来て、勝手に屋台の前で俺の注意も聞かずに喧嘩しはじめた男達に迷惑していると、男たちの後ろにキラキラ輝きを放っているサングラス姿の美丈夫が並んだ。


「すみません。そこのお兄さん達、後ろが混んでるのでどいて頂けますか?」

「あ?他のたこ焼き屋いけや!」
「俺らのこと知らねえの?あの超人気恋愛ドラマに出てた超有名俳優よ?俳・優。テレビ見てねえの??」

喧嘩を邪魔された事でイライラした男達は突然割り込んできた美丈夫に対して威嚇するが、彼は全く動じていない。
(ってあれ、この人…もしかして…。)


「さて存じ上げませんね、どちら様で?」
「これだから情弱は…。《運命の番は記憶喪失》っていう視聴率30%越えのドラマの俳…ゆ…う…ってファッ!?」

余裕の笑みで返す美丈夫に男たちは苛立ちを隠そうともしないが、彼はそんな男達をものともせず、サングラスを外した。


「アンタもしかして鷲田タク…ト??」
「え、本物っすか………?」


やっぱり…。まさか妹の推しをこんなに近くで拝見することになろうとは…。
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