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第1章

第44話《ミスターコン第一次審査終了》

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ひなに至っては、先ほど味わった屈辱をどうにか発散したかったのか、ドレスに隠れてかつ、偶然を装って俺の足を思いっきり踏んづけてこようとする。
幸い、ひなが俺の前を通り過ぎる前にちらちら下を見て俺の足の位置を確認していたので、事前に回避することができたけども、一瞬ヒヤッとした。

(危な!こいつ…ヒールで足袋を踏もうとするなんて、どれだけ殺傷力あると思ってんの?)

下手をすれば軽い怪我では済まないし、最悪骨折もありえる。
おそらくとんでもない大恥をかいた事で、やっていい事と悪い事の判別がつかないほど錯乱しているんだろうが、それにしても悪質だ。

ひなは俺への嫌がらせが不発に終わったことで、いっそう不貞腐れた顔になりながら持ち場へついた。



「さぁ素敵な新郎新婦達が全員ランウェイを歩き終えましたが、皆様点数の方はつけ終わりましたでしょうか!まだの方は、モニターにて各出場者の全身やアップが映し出されますので参考にしていただければと思います!」

司会の回しとともに、ステージ下の脇から撮影スタッフが現れて俺達を一人ひとりアップしてモニターに流した。
カメラがエントリーナンバー1番の人からゆっくり横にスライドしていって、俺達の前を通る。

相田君の前にカメラが行くと、観客からは女性も混じった大きな歓声が聞こえてきた。


『相田くーん!応援してるよーーー!!!』
『かっこよかったー!霧下さんとお幸せに!!』
『だちょうーーーー!!オレ、お前に10点入れといたぜ―――!!!!』
『行ったれ!!αの優男どもを蹴散らしちまえ―――!!!』


(お、さっそく10点入れてくれた人がいる!ありがたいな。)
相田君の第一審査、どうなる事かとドキドキだったけど、結構うまく行ってるようで安心だ。
中には誤解して霧下さんとお幸せになんて言ってくる人がいるけど、つばめも霧下だしまぁ問題ないだろう。


それから相田君の前をカメラが通り過ぎた後、俺の目の前にカメラが近づいてくる。

流石に顔面どアップは俺がそこまで美人じゃ無い事がバレるだろうな、と覚悟していたら、会場から謎のおたけびが聞こえてきた。


『うおおおおおぉぉかわいいいい!!!』
『だちょう君!すずめちゃんを俺にくれええええぇぇぇ!!!』
『カメラさ~ん、もっとゆっくり花嫁を映してくれよ~!!』
『エントリーナンバー2番の花嫁のブロマイド売ってくれー!万出すから!』


(すごいな…。自他ともに認める平凡な俺が、毛穴まで見えるかというぐらいアップされたのにこんなに褒められるなんて、さっきぶつかったあの人、どれだけ腕の立つメイクさんだったんだ…。)

流石は一流俳優のメイク担当だと自称するだけあって実力は本物だったという事か。


観客が花嫁をゆっくり映せと注文したせいで、一旦通り過ぎて行ったはずのカメラマンがまた俺の方に戻ってきて、あろうことかそこで止まってしまった。

(え、なんでそこで止まるんだ。ちょっと待って、カメラが異常に近い!これ本当に毛穴まで見られるんじゃないの?!)

これには流石に動揺してしまって、つい俯きながらそわそわしまう。 


『『『カメラさんあざーーーーーーす!!!!』』』
『すずめたーん!その反応は流石に反則すぎるだろうがよぉぉ!!』
『はいはい清楚清楚。かわいいの権化かよ…。』


パシャッパシャッ


(なんか観客の方からのカメラの音まで聞こえはじめた…。どうかコンテストが終わったら消してくれますように…。)

これは後々すっぴんがバレたら俺の方がブーイングを食らうハメになるかもしれない。
まぁ、コンテストにさえ勝てれば俺に対する周りの声なんて些細なことだけど。


(このカメラマン、さっきから俺の前に止まってるけど、お題が『タキシード』なんだからいい加減他の新郎を映してくれないかな。)

俺の無言の訴えが通じたのか、カメラマンはハッとした様子で、ようやく次の出場者を映し始めてくれた。


それから変に時間を取ってしまった分巻きで行こうと思ったのか、カメラが次々と効率よく俺達より後の順番の新郎新婦を映し終わり、最後の総一郎&ひなのカップルに近づく。


『総一郎様―――!!タキシード素敵でしたーーー!!』
『二次審査はホストかー似合うんだろうなーー!』
『お疲れ様でしたぁ!!!やっぱイケメンは白が似合うなあ!』
『もはや王子様通り越して王様って感じだよね!』


総一郎の方はハイスペックなおかげで根強いファンがいる分、女性の歓声が段違いで大きい。ただ、俺の希望的観測じゃなければ自己紹介の時と比べたら若干歓声のボリュームが落ちたような気がする。

ひなに至ってはカメラマンが気を回したのか、数秒で前を通り過ぎて行ったので、笑い声もなければ拍手や歓声すらあがる暇が無かった。

ひなの事だからこれにも烈火の如く怒り狂っているだろうけど、むしろ救われたと思うべきだ。
これ以上悪目立ちすると、流石にオメコンに響きそうだからな。
観客の男女比や客層は違うだろうけど、多少なりとも影響はするだろう。


カメラマンが一通り出場者を映し終わった後、俺達はコンテストスタッフのカンペ指示に従ってステージ横へと退場した。


「以上を持ちましてミスターコン第一次審査を終了したいと思います。皆様お疲れさまでした!10分休憩の後、第二次審査を開始いたしますので今のうちにお手洗いに行かれる方はお済ませください。」


出場者達が全員はけると司会が一次審査の終了を宣言したので、俺はようやく肩の荷が降りて、ほっとした気持ちで綿帽子を脱いだ。


「義兄さん!花嫁役、お疲れ様っした!!最高だったっす!!!」
「お疲れ様!相田君こそ最高だったよ。お客さんの歓声凄かったもん。」

俺と相田君が体育館奥の控室で、普段着に着替えながら労いの言葉をかけあっていると、一足先に着替えが終わったらしい総一郎がこちらに勢いよく駆け寄ってくる。


「すずめ!!」
「あ。総一郎君?お疲れ様!」


丁度白無垢を脱いで肌着一枚の俺に、タキシードのジャケットをさっと被せてくる総一郎。


(なんだこいつ。この緊張と白無垢で体中に熱がこもってクソ暑い時に…嫌がらせのつもりか??)

「ん?どうしたの総一郎君。俺今寒くないよ?」
「すずめの白くて綺麗な肌がその辺の男に見られるのは耐えられないからね。」

オブラートに包んでジャケットが邪魔だと訴えるも総一郎は聞く耳を持たず、前のボタンまで閉めてきた。

(こんなに暑いのに浮気男のぬくもり付きジャケット着せられるなんて…地獄かな?)
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