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第1章

第43話《総一郎とひなのランウェイ》

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想定以上の歓声と拍手を貰った俺と相田君は晴れやかな気持ちでステージ上にあがる。

「さてさて、お次は~…」

俺達が一番目のペアの隣に並ぶと、すぐさま司会が次の出場者の入場を促し、また後方扉が開く。
彼らが全員ランウェイを歩き終わってステージに上がってくるまでは時間があるので、一旦ほっと一息ついた。

(入場前は正直心臓がバクバクだったけど、とりあえず無事ここまで来れてよかった。)

予想外に俺まで注目を浴びてしまって冷や冷やしていたけど、結果的に相田君がファンを獲得出来ていたので僥倖だ。


「さぁさぁ最後は皆様お待ちかね!エントリーナンバー7番!鷹崎総一郎様とその花嫁、愛野ひな様がご入場されます!!皆様盛大な拍手にてお迎えください!!」

3番4番5番6番と入場が終わると、相変わらず何故かαびいき?というより総一郎びいきの司会が最後の出場者の総一郎とひなを紹介した。


愛野ひなの名前が出た瞬間、普通の観客の歓声の中にざわっとしたひそひそ声が聞こえる。
ステージ上からだと最前列の席の声しか聞こえないけど、それでもはっきりとひなについての悪評が少なからず出回っているのが分かった。


『愛野ひな…?ってシマ様の言ってたΩの…?』
『あー鷹崎先輩の恋人と無理やり別れさせようとしたっていう…』
『なんで鷹崎君と新郎新婦やってんの?』
『さぁ…見事鷹崎先輩と引き離すことに成功したんじゃない?』
『うっわぁ…。』


(シマ様…江永シマちゃんの事か。様付けといい、この伝搬力といい、思ったより影響力のある人っぽいな。)
最前列だけでこの調子だと、オメコンの方の結果は中々期待できそうだ。



ギイィと扉が開いて、煌びやかなタキシード姿の総一郎と絢爛豪華な花嫁とは思えないド派手なドレスを着たひなが入場する。


その瞬間……

会場からは総一郎のファンの黄色い声と、それに相対して何故か観客の笑い声がどっと聞こえてきた。



(…??一体何があったんだ?あの二人がここまで会場を笑わせる事が出来るなんて…。どんな手を使ったんだ?!)

総一郎とひなとは付き合いも長いが、どちらも人を笑う事はあっても人に笑われるタイプではなかったはずだ。

(想定していたブーイングも思ったより少ないし、当てが外れたか…?)
俺は急遽不安になって思わず胸をぎゅっと押さえて、どうした事かと観客の声に耳を研ぎ澄ました。


『ねぇ、あの花嫁の衣装……ww』
『あのひなって子、エキストラの自覚ないだろwwww』
『ドレスも顔も雰囲気も透明感なさすぎじゃね?』
『純白の花嫁達の中に一人だけアクセサリーと装飾みっちみちのお姫様混じってるのわろけるwwwwww』
『あのドレス止めた方が良いよって誰か教えてあげなかったのかなー…』


どうやら観客はひなの衣装に注目して笑っているようだ(中には本気で心配してる人もいるけど)。

あれはあれで単体で見ると超絶美人で映えるし、総一郎と並べると女性客達の嫉妬を煽れるかと思ってひなにあのドレスを着るように誘導したのだが、まさかそのせいで笑いを誘ってしまうとは…。

これは思わぬ誤算だ。この笑い声の大きさ…相田君と同じ位ウケているかもしれない。

これでひなが相田君みたいにギャグに振り切って逆に堂々とした対応をすれば、好感度も上がり笑いも取られてこちらも危なかったのだが、無論そんなことがあるはずはなかった。


『何あの子…さっきからぶすくれた顔して感じ悪くない?』
『ネタ枠ならネタ枠らしくしてくれないと笑っていいのかどうかも分からねえな…』


ひなは最初は自信に満ち溢れた笑顔をしていたのだが、それも段々引きつってきて、いつの間にか顔を真っ赤にしながら自分を笑う人を睨んで威嚇しはじめた。
最初はネタだと思って純粋に笑っていた人もいたのだが、そのせいで途中から会場のムードが変にしらけてしまっている。

総一郎は総一郎で花嫁がコンテストの結果に響くと思ったのか、顔には出さないながらも途中から若干早歩きでひなとのスペースを開けているように見える。


『ひゃああぁぁ総一郎様タキシード姿素敵――!』
『きゃあーーこっちむいてぇ!!』
『相変わらずビジュよすぎ…!』
『いつになくクールな表情がかっこいい…!!』


総一郎の方は早くに花嫁と距離を置いたことでギリギリノーダメージで済んでいるらしく、純粋に彼を褒め称える声が最前列から聞こえてくる。



『でも正直、パートナーを見る目はないよね。』
『ていうか、鷹崎先輩の本当の恋人って相田君と組んでる霧下さんなんでしょ?』
『え、それマ?』
『いやお似合いだけど、何で別々に組んでるの?』
『もしかして総一郎様が捨てられちゃった…とか!?』
『確かに、霧下さん捨てて愛野さんはちょっと考えられないかー。』
『鷹崎君可哀そう。』
『じゃあ霧下さんからすると、あの鷹崎先輩より相田君の方が魅力的に見えたってこと?』
『え、そう考えると相田君が急にかっこよく見えてきたかも…!』



色々情報を取り入れるために目を閉じて引き続き耳をすませていたら、さっきひなの悪評を噂していた観客とはまた別の方向から勝手な憶測が飛び交っているのが聞こえてきた。

普段は俺よりひなの方が美人だし、総一郎も俺が捨てたのではなく、あいつらが俺を裏切って浮気してたんだと言ってやりたいが、結果的に何故か相田君が褒められる方向に行ったのでよしとする。


そうこうしている内に、一足先に総一郎がステージに上がり、その2m程後からひながこちらに到着した。

総一郎は壇上で俺の前を通り過ぎる際に『白無垢の綿帽子がずれているよ』等と言って、俺の頬をサラッと触ってきたので、綿帽子を自分で直すふりをして深く被り、総一郎の手をガードした。


本来の恋人の俺に優しくする事で観客の好感度を上げるためだかなんだか知らないけれど、敵に塩をくれてやるつもりはない。
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