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第1章

第42話《ミスターコン第一次審査開幕》

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『さて、出場者の方々の準備が出来たとの事ですので、一次審査の方を開始させていただきます!テーマは『タキシード』!これから新郎新婦の方々が一組ずつ入場していきますので、観客の皆様は後方の扉をご注目ください。』

とうとう一次審査の時間になり、司会がコンテストの開始を宣言すると、準備時間の間に一旦閉じられたらしい後方扉がギイイと音を立て、再度開く。

一組目以降の出場者はまだ観客から姿を見られない様に、扉の真ん中から避けて並ぶようにスタッフに指示されたので、俺達はそれに従って順番をじっと待つ。


「それではエントリーナンバー1番、鶴橋彰さんと、花嫁役の駒戸リツキさんのご入場です!皆様盛大な拍手でお出迎えください!」

司会者の声と共に始まったウェディングソングに合わせて、一組目の新郎新婦が入場する。
ネタバレ防止のため、彼らが会場に入った後はスタッフの人がまた扉を閉めた。

『鶴橋くん新郎姿かっこいー!』
『花嫁さんも中々だなー。』

彼らがランウェイを歩いていくと、拍手とともにそこそこの歓声があがっているのが扉越しに聞こえる。


「義兄さん、俺らも負けずに頑張るっすよ!」
「うん!」

こちらを見てニカッと笑いながら意気込む相田君に俺も大きくうなずく。


「続きまして、エントリーナンバー2番、相田長介さんと、その花嫁役、霧下すずめさんのご入場です!どうぞ!」

俺達の出番が来て、スタッフの人が再度扉をゆっくりと開けた。

(来た……!…おお、会場が思ったより本格的だ!)

開いた扉から見える体育館の中にはいつのまにか真っ赤なバージンロードが敷かれており、壁には真っ白な装飾の垂れ幕がかかってまるで本物の結婚式みたいだ。

手のかかっている内装に感動していると、突然先ほどまでかかっていた洋楽のウェディングソングが止まり、急に《ふぁーーーー》という雅楽の篳篥(ひちりき)という笛の音に変わる。
多分リハーサルで相田君がスタッフの人に神前式風に曲を変えるようお願いしたのだろう。


突然の曲の方向性の変わりように会場からどっと笑い声が聞こえる。

(いい感じに盛り上がってる…!ナイス相田君!)

扉が開くとともに、190越えの巨体の紋付き袴の相田君がのっそのっそと無駄に姿勢の良い堂々とした歩き方でランウェイを歩くので、俺も少し下がって彼に続く。

良い感じに盛り上がっていた会場はさらに笑い声に包まれる。


『おおお!かっけーーーー!!!なんだあれ!』
『だちょう君袴じゃねーかww』
『タキシードどこいったよwwwww』
『あの堂々とした立ち振る舞い、日本史の偉人みてえだ…!!』


大喜びなのはほぼ男性客だが、予想よりも歓声が大きい。

このまま相田君に注目してもらうために、俺は目立たない様に控えめで貞淑な妻っぽく後ろを歩こう。
確か神前式の花嫁は伏し目がちで内股で歩くんだよな。


『おい、なんかあのΩの花嫁どちゃシコじゃね?』
『か、かわいい…!!』
『透明感えぐいってマジで…!!』
『いや透明感どころかむしろ透けてるわ。』
『すずめちゃんって言うんだって。名前までかわいいよな。』


ドラマ等で見る結婚式を思い浮かべながらしずしずと歩いていると、俺が通りかかったそばの観客席からふと、俺の名前を口にする男たちの声が聞こえてきた。

(かわいいってまさか俺の事か?そんなの総一郎以外に言われた事ないのに…メイクってやっぱりすごいんだな。)
今この場で化粧を外したら皆どんな反応をするか見てみたいところだ。

というか俺は目立ってはいけないのにメイクの影響で変に目立ってる気がする。
俺はとにかく相田君を見てほしくて、目立たない様にますます目を伏せながら、さっと相田君の背中に近づいて陰に隠れた。

『え、なにあれ、かわよ…!!』
『おいお前らがシコいとかHな事言うからだぞ!』
『すずちゃん照れちゃった?初心でかわちいねぇ。』
『はい推し確定!』
『俺βだけどあの子絶対いい匂いする!っていうかもうしてる…!』


(やっぱり、オカメ系日本人形メイクで行った方が正解だったのか?)

何をやってもあちらこちらから俺の名前が聞こえてくる。
さっき司会に俺の名前をばらされたから観客に完全に覚えられてしまった。

(これで文化祭開けてすっぴん姿を見られようものなら皆に笑いものにされそうだ…。)


とはいえ相変わらず会場は盛り上がっているし、相田君への反応もいいし、笑いも取れている。


『ダチョウ君花嫁と比べて縦にも横にもデカすぎだろ…何センチあるんだよw』
『ラグビー部だってよ!俺も筋トレしたらああなれるかな。』
『てか服も曲も和風なのにサングラスでワロタwwww』

『でもさー相田君ってよく見ると結構イケてない?』
『わかるー!ゴリラっぽいけど男らしくていいよね!』
『そもそもαじゃないのにあの美人なΩに相手にされる時点でその辺の男とはオーラが違うっていうか。』
『それなー。』
『中身が一流なんだよきっと。』
『いざという時に一番頼りがいありそう!!』


バージンロードをゆっくり歩いていると、途中から男性だけではなく女性が相田君を褒める声もちらほら聞こえる。これはちょっと予想外だった。
一日目は男性客からの点数だけで乗り切ろうと思ってたけど女性にも相田君を支持してくれる人がいるのは心強い。


『だちょくーーん!素敵ぃぃぃぃ!!世界一男前だぞーーー!!すずめちゃんも世界一かわいいよーーー!!』

どこかから聞き覚えのある女子の歓声も聞こえる。声がした方を見ると、相田君の紋付き袴に大興奮のつばめと、その隣で何故か号泣している兄の姿があった。

(つばめが楽しんでくれててよかった。お兄ちゃんの方は、俺と妹を重ねて感極まってそうだな…。)

相田君も周囲の歓声やつばめの心のこもった応援に幸せそうに笑っている。
なんとも微笑ましいカップルだ。


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