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第1章

第39話《総一郎の自己紹介タイム》

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「やあ、皆さんこんにちは。鷹崎総一郎です。テニスサークル所属、趣味は映画観賞とスケート、趣味はピアノとヴァイオリンかな。どちらも一応全国のコンクールで優勝した事もあります。幼少期から父の方針で稽古事が多かったから、自然と弾けるようになったんだよね。」

すらすらと綺麗な活舌で自己紹介を始める総一郎。
相変わらず完璧すぎる男だ。特技を自慢した上で嫌味を持たせないようにさりげなく家が金持ちアピール。
当然の如く、女性の観客からは黄色い歓声が鳴り響いている。

『きゃーーー!!素敵すぎる!!』『総一郎様ー!!』『こっち向いてー!!』

そして、総一郎もこの歓声を当然のものとして受け入れて、笑顔で手を振っている。
その態度がまた、様になっていて、優勝候補と言われても頷ける風格だ。


とはいっても、総一郎も他のα出場者の例にもれず、β男性の太い歓声がほぼ聞こえない。

『へぇーやっぱすげぇな。α様は…』
『チッ。スカしてんな…。』

変わりに最後尾にいるβの男性客達の愚痴っぽい小さな呟きが点々と聞こえる。

俺のいる位置的に後ろあたりの客の少しの声しか聞こえないが、あの相田君に対する熱烈な応援ムードの後だと、完璧なαの代表格である総一郎に対して、なんとなく嫌な感情を持ってしまった男性客は少なくないだろう。


(ってあれ、なんか最後尾の観客に見覚えのある帽子とサングラスとマスクの人がいる。)

おれは確か、今朝出会った不審者っぽい俺の運命の番だ。
彼もミスターコン見に来てたのか。

さっきからステージの方を見ずにキョロキョロとさりげなく周りを見回している。
不審者っぽい見た目だと思ってたけど、やっぱり本当に不審者なんだろうか。

なんにせよ、こんなに近くにいても発情しないなんて、例の抑制剤が効いてるみたいで良かった。


「~そんなわけで、テニスサークルの仲間たちにもトロフィーと優勝賞品を持ち帰ってあげたいなと思ってます。では皆さん応援よろしくお願いします。以上です。」

(あ、考え事してて最初と最後しか聞いてなかった…。もう自己紹介終わりか。)

なんか最後にトロフィーと優勝賞品をテニスサークルの皆にって言ってたけど、どうせひな限定なんだろうな。
というかどうでもよすぎてコンテストの優勝賞品が何か見てなかったけど、一体なんなんだろう。



「鷹崎様ありがとうございました~!いやー流石は優勝候補!自己紹介しかり歓声も佇まいも全てが一流ですね!!先程ちらっと鷹崎様がおっしゃられましたが、実はこのミスターコンでは豪華な優勝賞品がございます!カメラさん、商品に寄ってください。」


俺が優勝商品について疑問に思ったところで、丁度いいタイミングで司会の人が商品紹介をし始めた。
パッとモニターに映し出されたのは、きらきらとした透明感のあるトロフィーに、海鮮の詰め合わせが3パックと、チケットらしきものが2枚だ。

「皆さん見えましたでしょうか!!こちらなんと、この地方の特産水晶で作られたクリスタルトロフィーに地元特産のイカが入った海鮮3人前セット、極めつけはラスベガス旅行ペアチケットとなります!!これらは〇×大学の文化祭に高額な寄付をしてくださっているスポンサー様からの贈り物となります!」

(地元特産系はあるあるだとして、ラスベガス旅行って…一体いくら分くらいなんだろう。)
大学の文化祭にしては随分と規模も大きいし、商品もやたら豪華だと思ったけど、スポンサーがいたのか。


しかし、総一郎も流石にこの商品をテニスサークル仲間達に持ち帰りたいって無理あるだろ。
俺にちょっかいをかけてきたひなの下っ端だけでも3人いたのに、どうやってペアチケットを分けるつもりだよ。海鮮にしても3人前だし、確実に人数合わないと思うけどな。

もしも、ひなと総一郎が一緒に海外旅行に行くとして、俺にはなんと言って行くつもりなのか気になるけど、どうせ勝つのは俺達だからな。
ここは気持ちよく相田君とつばめにラスベガス旅行を満喫してもらおう。

「それでは、自己紹介タイムも終了したところで、審査方法についての説明に入らせていただきたいと思います!皆さん、お手元に事前に入場前にお配りした投票アンケート用紙がございますね?」

司会者が審査方法について説明を始めると一斉に会場から紙を翻す音が聞こえる。

(そういえば俺、アンケート用紙貰っていなかったな。というかそもそもエキストラの票は無効か。)
皆揃って自分の組んだ相手に高得点を入れるだろうから当然といえば当然だ。


「用紙には、出場者の名前と得点を書くマスが2つあると思うのですが、そこには審査ごとに10点満点で点数をつけていただきます。一日目と二日目それぞれで紙を回収し、スポンサー様の企業が開発していらっしゃるAIのスキャナーで即時、集計&結果発表を行いたいと思います!集計は第二次審査が終了した時点と、明日の最終審査が終了した時点で係のスタッフ達が回収に回りますので、ご協力の程よろしくお願いいたします!」

(会場がほぼ満席状態で、集計に時間がそうだとは思ってたけど今の時代、そんなことまでAIがやってくれるんだ。)

俺は技術の進歩に感心するのと同時に、その最先端の機械をポンと提供できるスポンサーがちょっと気になったのだった。




「それではひと段落ついたところで、さっそく第一次審査の方に入らせていただきたいと思います!まず最初のお題はこちら!『タキシード』です!!という訳で出場者の皆さん、リハーサル通り今から数分間時間を取りますので、お着替えの方が終わりましたら後ろの方から花嫁役の方とランウェイを歩いて入場していただけたらと思います!」


(うわ、とうとう俺の出番も来てしまった…。この姿で人前に出るのは流石に緊張するな。)

さっき相田君に紋付き袴を試着してもらったけど、サングラスはつけるわ、お題からは若干それてるわ、花嫁は酷い化粧にちんちくりんだわで、皆にウケたらこっちのものだけど、万が一にもしらけたらと思うと正直怖い。

でもさっきの自己紹介ではそんな中で相田君は勇気を出してくれたわけだから、俺も勇気を出さなきゃな。

俺は気合いを入れるために思いっきり両頬をパンっ!!と叩くと、袴に再度着替えてきた相田君に「なんと!!頬っぺたが赤くなって日本人形からオカメさんになっちゃってるっす!」と爆笑しながらツッコまれた。

(しまった、ちょっと気合い入れ過ぎたか。)


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