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第1章

第34話《相田君と合流するすずめ》

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まぁ、とりあえずはこれで誤魔化せたかな?
先ほどまでいきり立っていた二人は、落ち着いた様子で腕時計を見ている。

「じゃぁもう昼だし、鷹崎君の事は一旦信じるとして、何か食い物買いに行こうぜ。すずめは午後からつばめの彼氏のミスターコンに付き添いで出るんだろ?時間大丈夫か?」
「うーん。ちょっと急ぎたいかも。この後はできるだけ早く相田君と合流したいなって思ってるんだけど…今からメッセージを送っとこうかな?」

なんだかんだもう12時だ。そろそろ相田君と合流して打ち合わせやら衣装の着替えやらをやっておかなければ間に合わないかもしれない。

「それなら、今から直接彼ピがやってる出店までいこーよ!たこ焼き屋さんだから丁度お腹も満たせるし、名案じゃない?」
「あ、それいいね!それなら俺、昨日相田君から貰った引換券が3つあるから3人で分けて食べよう。」

俺はカバンからしわくちゃのたこ焼き引換券を3枚取り出し、妹と兄に一枚ずつ渡した。

「お!貰っていいのか?俺たこ焼き大好物なんだよな!サンキュ、すずめ。」
「ありがと!さっすがうちの彼ピ気が利くなー!よーしそれじゃぁ早速行こう!うち場所知ってるし案内するよー♪」



妹に案内され、数分もしないうちに屋台エリアに入り、たこ焼き屋に到着すると、皆目一番に相田君が「らっしゃいませ!!」と気合を入れて挨拶してきた。

190以上はありそうなガタイのいい男性が黒のタンクトップにねじり鉢巻きを巻いてたこ焼きを焼いている姿は大迫力だ。

「だちょくん!やっほー♪会いに来たよ♡」
「おう、らっしゃいつばめ!!嬉しいぜ!!!」

(…だちょくん??)
ああ、相田長介だから、苗字と名前の境目をあだ名にしてるのか。独特なネーミングセンスだ…。

「お義兄さん方も!今日は俺!!妹さんの彼氏として頑張りますのでよろしくお願いするっす!!うーっす!!!」
「あ、ああ、こ、こちらこそどうぞよろしく…?」

カウンター越しに90度で大音声のお辞儀をする相田君に、思った通り兄は面食らっている。
(まぁ誰でも最初はそんな反応になるよな…。ってなんだあれ?巨人がこっちに近づいてきてる…?)



「おーい!長介――!!」

兄達がお互いに自己紹介をしていると、たこ焼き屋の後ろの方から巨大な人影がどかっどかっと歩み寄ってきた。手にはジュースの入ったビニール袋を引っ提げて、相田君の名前を大声で呼んでいる。

「あ!キャプテン!!うーっす!!!」
「よ!!お疲れさん!!これお前の好いとうジュースば買ってきとうけん飲まんね!」 
「うす!!差し入れありがとうございます!!」

(で、でかい…。)
キャプテンってことはこの人が第二次審査でお世話になる人か…。身長200cm近くまであるんじゃないか?相田君も190くらいあるのに一回り体積が大きい。
それに加えて目つきが鋭く、ばりっばりの方言(多分九州地方?)で、ハーフっぽい顔に髪型はマンバンという大学生が出してはいけない謎の貫禄が出ている。
これは…コンテストが楽しみだ。

「おぉ?長介の彼女さんが来とっとね!!」
「あ!初めまして!だちょくんの彼女の霧下つばめです。いつも彼がお世話になってます!」
「なんのなんの!オレは根田ドルドラ!こちらこそよろしく!それで、そちらの方は誰ね?」

出会い頭に妹の存在に気付き自己紹介を終えたキャプテンさんがこちらに目を向ける。

「こっちはうちの兄達でーす!どう?似てるでしょ??」
「よー似とるし、どえらい別嬪さんたい!一目惚れしたかもしれん!あんた恋人はおると?」

妹が俺と兄に手を差しだして紹介すると、キャプテンさんは興奮した様子でどかどかとこちらに歩み寄ってきた。

「あ!ちょ、ちょっと!すずめちゃんは彼氏いるからナンパはダメーー!ってあれ?」

あまりの勢いにつばめが俺の前に立ちはだかって止めに入ろうとすると、キャプテンさんは俺とつばめを綺麗に素通りして兄の手をとった。

「え。まさか…俺…?!」
「そうたい!近くで見れば余計愛らしか!どげん?オレと付き合わんね?」
「いや俺、αだから普通に無r…」
「オレからしてみればαもβもΩも関係なか!みーんな平等に庇護対象ったい!!」

ものすごい勢いで大男に口説かれ兄は俺の隣でフリーズしている。
兄も身長が180以上あるはずなのだが、キャプテンさんを前にすると小さく見えるな…。


「なーんだナンパされたのお兄ちゃんの方だったかぁ。じゃ、いっか。だちょくーん!たこ焼きちょーだい♡うちネギマヨ紅ショウガ多めね!」
「はいよ!!」

兄は『つばめ!この薄情者!早く助けろよぉぉx!』と嘆きながら、近くにあったベンチに腰掛けたキャプテンの膝の上に乗せられ、たこ焼きをあーんされている。
(お兄ちゃんの事助けたほうがいいかな。でも丁度恋人もいないし、たこ焼きも大好物って言ってたし別に大丈夫か。)

そんなことより今はコンテストの事を考えないとな。
俺はパッと気持ちを切り替えて相田君に話しかけた。


「ところで、相田君。午後からコンテストあるでしょ?ちょっと事前準備と打ち合わせをしておきたいんだけど今から時間あるかな?」

一応昨日、審査内容については方向性が決まったが、自己紹介の内容はまだ決めていない。それについても話し合いながら衣装保管室に向かって、俺は白無垢に着替えさせてもらって、その間、相田君には持参してきたであろう紋付き袴を念の為に試着してもらおう。


「もちろんす!!…キャプテーーン!!俺もうそろそろコンテストの準備があるっすーー!!!店お任せしてもいいすかーー!!?」
「おう!!よかよーーー!!行ってこんねーー!!!きばってこいよーーーーーーーー!!!」

キャプテンが座ってるベンチとここからは結構離れているのに、お互いの声が人混みの声に一切かき消されず綺麗に通っている。流石体育会系だ。声量からして違う。
(でも、よかった。相田君が今から時間が取れるとなると充分間に合うな。)

「そんじゃ義兄さん、行きましょうぜ!!…つばめ!俺絶対優勝して義兄さん方に俺達の仲を認めてもらうから良い子で待ってろよ!」
「うん…!!待ってる!!今のだちょくん最高にかっこいいよっ♡」

別れ際にひし、と抱き合うつばめと相田君。
(体格差はすごいけど、こうしてみるとすごくいいカップルじゃないか。)

そうしてつばめとキャプテン(と兄)に別れをつげた俺と相田君はコンテストへと挑むべく、衣装保管室へと向かったのだった。


妹の背後で同じ構図でキャプテンさんに抱き締められてしおしおになってた兄の事は忙しいので見なかったことにしておこう。
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