浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

飴雨あめ

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第1章

第31話《鷲田タクトのファンサと思わぬ再会》

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『え?今こっち見た??』
『私、今タクト様にウインクされちゃった!!』
『やばいやばい!タクト様こっち見て笑ってた!尊すぎる!!』

鷲田タクトの突然のファンサービスに、彼に見惚れて静かになっていた俺の周りの観客達が再び黄色い声をあげはじめた。



「きゃあぁ!タクト様がファンサしてくれたぁーー!」

推しのウインクと微笑みに妹も大はしゃぎだ。
それに比例して何故か兄ががっくりと肩を落としている。

「はぁ、自信なくすぜ…。俺、あんなにつばめを喜ばせられたことねぇよ…。」
「あはは…まぁあれが推しってやつだから仕方ないよ。」

多分兄の頭の中には今まで妹に誕生日プレゼントをあげた時や、遊びに連れて行った時のことなどが浮かんでいるんだろう。

(しかしすごいよな。たかがウインク一つでこんなにも沢山の人を喜ばせるなんて…。)
少なくとも俺は今までウインクをして誰かに喜ばれたことなど一度もない。
数年前に意地悪なクラスメート達からウインクしろと命令されて、思わず両目を瞑ってしまって馬鹿笑いされた苦い思い出があるくらいだ。

彼の人気っぷりに人間としてのちょっとした格の違いを感じてしまった兄と俺は、彼に感心しつつもほんの少しテンションが落ちたのだった。



◇◇◇



彼はこちら側にファンサした後再び歩き出し、歓声に包まれながらもまっすぐステージの壇上に上がる。

『〇×大学の皆さんこんにちは。今日は〇〇大学の文化祭にお招きいただきありがとう。今日は先週地上波で初披露したドラマの主題歌をはじめに、ちょっとしたメドレーを弾き語りさせてもらおうかなと思っています。』

そう言うと彼は曲のタイトルや意味などを軽く説明して、ステージ上に置いてあるピアノの前に腰掛ける。
彼がピアノに指を置くと、会場全体に美しい歌声とピアノの旋律が響き渡り、
ドラマの主題歌だという一曲目の弾き語りが終わると、大学中に轟くほどの拍手が巻き起こった。


「驚いたな…彼、ピアノまでできるんだ。」

鷲田タクトの事はアイドル時代の頃から知っているので、歌とダンスが上手い事は知っていたが、こんなに多才だとは思わなかった。

「すごいよねぇタクト様!あ。見てみてすずめちゃん!ほら、あそこテレビ局が撮影してる!」
「え、あぁほんとだ。」

ステージ下を見てみると明らかに個人の持ち物ではない大きいカメラが5台も設置してある。
(記者会見かと思う位いろんなテレビ局が来てるな…。)

「まさか文化祭にあんなにテレビ局が来るなんて…。ちょっと異例じゃない?」
「もう、何他人事みたいに言ってるの、すずめちゃん!午後のミスターコンではうちらの彼ピもテレビに映るんだよ?」

初めて近くで見るテレビカメラに目を瞠っていると、妹が俺の腕を引っ張って更に衝撃的な事を口走ってきた。

「え、嘘?ミスターコンに!?」

初耳だ。テレビが来るって事は俺のくそ似合ってない白無垢も放送されてしまうのか…?
まぁ復讐のためなら仕方ないけど、相当心の準備がいるな…。

「うう…なんか緊張してきた。」
「え?あぁ、大丈夫だよww放送されるの地元だけだし、撮影は優勝者の結果発表だけらしいから!すずめちゃんは絶対映らないって!」

(あっそうなんだ。良かった…。)
正直、テレビに自分の女装姿が映るのはちょっときついなと思ってたから、ほっと胸をなでおろした。

でもそうなると逆にラッキーかもしれない。
要するに、もし相田君が優勝したら、トロフィーを手にする相田君を悔しそうに眺める総一郎の姿をテレビで見られるという事だ。
それに、ミスターコンに撮影が入るという事はもちろんオメコンにも入るだろうし、ひなのプライドが砕け散る姿もテレビで放送されるわけだ。

(これは、コンテストがちょっと楽しみになってきた…!!)

俺を散々傷つけてきた彼らの敗北顔を想像すると、思わずうっとりとしてしまう。
頬に両手を当てて熱を冷ましていると、いつの間にかまた近くに歩いてきていた鷲田タクトとバチっと目が合ってしまった。

どうやら俺が色々考え事をしている間にいつの間にかライブが終わっていたらしく、彼は別れを惜しむ観客に手を振りながら、こちらの方に向かって退場していた最中だったらしい。

(うわ、気持ち悪い顔を見られた。っていやいや、別に観客なんだからうっとりしてても間違いではないよな?)
気を取り直し、拍手をして見送ろうと彼の方を再度見ると、何故かふいっと口に手を当てて顔を逸らされた。
それから彼は一瞬動きが止まり、早歩きで会場を去っていってしまった。

(あれ、今回はファンサされなかった。)
まぁ最初にウインクまでされたから、二回目は流石にないか。

妹がちょっとがっかりしてるかなと思って隣を見ると、
『今タクト様にぷいってされた!ライブ後で赤ら顔になってるのかわいい!最高~~!!!』
とこれまた何故か大喜びしていた。

(ここまでくると、もう何されてもファンサになるんだな…。)
まぁ妹が幸せそうでよかった。




ライブも終わり、野外ステージの出口あたりで次にどこに行くか考えていると、ライブの余韻に浸る妹をよそに、げっそりしきった兄が『せめて何かおいしいものを食べたい』と、拗ねだした。

丁度昼前なので、どこかで昼食を摂ることにした俺達は出店のあるエリアに向かおうとすると、見覚えのあるやたら距離感の近いカップル?の後ろ姿がそこにあった。


(あれは…総一郎とひなだ。)

二人の方も俺達の存在に気が付いたらしく、無視する訳にも行かないのか、スッとお互い距離を置いて俺に声をかけてくる。



「あー…すずめちゃんも文化祭来てたんだぁ?」


(お祭りデートを邪魔されたのがムカつくのか、いつになく声にとげがあるな…。)

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