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第1章
第29話《3台目の車の持ち主と遭遇》
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「えー!??意外と流行ってるんだ?ま、あのタクト様が広告塔になってるんだから当然か~」
妹もビカビカの蛍光ピンク車があと2台も駐車されている事に驚いた様子だったが、鷲田タクトの事を思い出し、一人で納得していた。
(まぁあの3台のうち2人は俺の身内だけどな。)
バンッ
二人と会話しながら遠目でもう2台の車を眺めていたら、突然片方の車の運転席のドアが開いた。
(あ、エンジン止まってるから空車だと思ってたけど、まだ人がいたんだ。)
中から出てきたのは帽子にサングラスにマスクをした高身長の男性で、モデルが着るようなおしゃれな服を着ている。
なにやら誰かと電話で揉めているようだ。
『絶対この大学にいる××なん××。俺の××の番が…ライブが終わっ××少しだけでも探す時間××××××××。』
『お頼××××マネー×××。そもそも俺はそれが目的でこの仕事を××××××です。以前この大学の前を×××た時、×××××××。』
遠くてちょっとしか聞き取れないな。
まぁ他人の通話の話を聞くのも悪いし早いとこ会場に向かうか。
妹も早く文化祭に行きたいらしく、
「早く行こ~!!」と、俺と兄の腕を引っ張ってくる。
妹に引きずられるようにして会場の方向に向かうと、電話している人の車の前を通りかかり、その人とバチッと目が合ってしまった。
(あれ、なんかいい匂いがする。)
嗅いだことのないようないい匂いがして、どくん、と心臓が高鳴る。
体がぞわぞわして頭がぼーっとし始めたタイミングで、さっきの男性が電話を切ってこちらに急ぎ足で近づいてきた。
彼が距離を詰めてくると、まるでそれに比例するかのように、体の力が抜けてしまい、とうとうその場にへたりこんでしまう。
(この人もしかして…。)
この症状は覚えがある。二か月おきに訪れる発情期のなりかけだ。
まだその時期ではないはずなのだが、さっきの男性の存在が関係しているのだろう。
「すずめ!」
「すずめちゃん!?どーした!?」
兄と妹が心配そうにしゃがんで、俺の顔を覗き込む。
遅れてこちらに到達したらしい彼も腰を落としてこちらに声をかけてくる。
「っ大丈夫ですか!?」
「あぁすみません、実は弟が体調が悪いみたいで…。」
兄と彼が会話しているのを、俺はぼんやりとした頭で聞いていた。
「っはぁ……、」
息が上がってきて、体が熱い。
「よろしければ、弟さんを休める所まで運びますよ。」
「ありがとうございます!とても助かります!じゃあつばめ、兄ちゃんちょっとスポーツドリンク買ってくるからこの方を俺の車まで案内してくれ!」
「りょーかい!」
兄は俺が熱中症だと思ったのか妹に車の鍵を渡し、俺に塩分をとらせようと近くの自販機まで走っていった。
「では、すずめさん?でいいのかな。俺の首に手を回してしっかり捕まっていてくださいね。」
「わ!」
去っていく兄の背中をぼーっと見ていると突然俺の体が浮かび上がる。
どうやらさっきの男性に横抱きにされているようだ。
「あっちの車です~!あのビカビカ無駄に発光してる蛍光ピンクの変なやつ!」
(つばめ、その車多分この人も乗ってるからどうか言葉を選んでくれ…)
ナチュラルに車をボコボコに貶しながら、妹が彼を案内する。
マスクにサングラスで表情は見えないが、どうか気分を害していない事を祈りたい。
車まで到着した男性が座席を手慣れた手つきで倒して俺をそこにうやうやしく寝かせてくれた。
「気分はいかがですか?」
「あ、大丈夫です。運んでいただいてありがとうございました…。」
正直、この男性が離れてくれれば一旦落ち着きそうなのだが、彼も同じことを思ったのか俺から少し距離をおいて連絡先を書いた紙を渡してくる。
「とりあえず、俺は一旦この場を離れた方がよさそうですね。すずめさん。これ、俺の電話番号です。できればもう一度あなたと話す機会が欲しい。」
「え…。」
「今日は不躾に近づいてしまって申し訳ない。次はもっと強めの抑制剤を飲んでおきますから、どうか怖がらないで。」
そう言って彼は俺の手を取りキスをするような仕草をした後、颯爽とその場を去っていった。
(なんかこの人、見た目不審者なのに絵本に出てくる王子様みたいな事するな…。)
まぁいつかお礼をした方がいいだろうし、彼の電話番号は一応登録しておこう。
「すずめちゃん、大丈夫…?」
数分間落ち着きなくそわそわしてた妹が、俺の隣で不安そうに声をかけてくる。
彼の姿ももう見えなくなり、発情しかけていた体がスッと正常に戻ってきた。
「うん。もう全然平気!」
「ほんと?よかった~!」
(なんとか発情せずに済んでよかった。つばめにもせっかくの文化祭なのに変に心配かけちゃったな。)
あっという間にいつも通り体を動かせるようになり、俺は何事も無かったかのように車から降りると、丁度兄も自販機から帰ってきていた。
「はぁっはぁっ…すずめ!ジュース買ってきたぞ!」
「あ!お兄ちゃん!おっそーい!すずめちゃんもうとっくに回復したんだからね!!」
「は?!早!俺が自販機行ってから3分たってなくね?!」
スポーツドリンクを10本以上小脇に抱えた兄が理不尽に妹に怒られている。
(お兄ちゃん…気持ちは嬉しけど俺そんなに飲めないよ…)
どうやら兄もちょっとパニックになっていたらしい。二人にはお詫びに後でなんか奢ろう。
妹もビカビカの蛍光ピンク車があと2台も駐車されている事に驚いた様子だったが、鷲田タクトの事を思い出し、一人で納得していた。
(まぁあの3台のうち2人は俺の身内だけどな。)
バンッ
二人と会話しながら遠目でもう2台の車を眺めていたら、突然片方の車の運転席のドアが開いた。
(あ、エンジン止まってるから空車だと思ってたけど、まだ人がいたんだ。)
中から出てきたのは帽子にサングラスにマスクをした高身長の男性で、モデルが着るようなおしゃれな服を着ている。
なにやら誰かと電話で揉めているようだ。
『絶対この大学にいる××なん××。俺の××の番が…ライブが終わっ××少しだけでも探す時間××××××××。』
『お頼××××マネー×××。そもそも俺はそれが目的でこの仕事を××××××です。以前この大学の前を×××た時、×××××××。』
遠くてちょっとしか聞き取れないな。
まぁ他人の通話の話を聞くのも悪いし早いとこ会場に向かうか。
妹も早く文化祭に行きたいらしく、
「早く行こ~!!」と、俺と兄の腕を引っ張ってくる。
妹に引きずられるようにして会場の方向に向かうと、電話している人の車の前を通りかかり、その人とバチッと目が合ってしまった。
(あれ、なんかいい匂いがする。)
嗅いだことのないようないい匂いがして、どくん、と心臓が高鳴る。
体がぞわぞわして頭がぼーっとし始めたタイミングで、さっきの男性が電話を切ってこちらに急ぎ足で近づいてきた。
彼が距離を詰めてくると、まるでそれに比例するかのように、体の力が抜けてしまい、とうとうその場にへたりこんでしまう。
(この人もしかして…。)
この症状は覚えがある。二か月おきに訪れる発情期のなりかけだ。
まだその時期ではないはずなのだが、さっきの男性の存在が関係しているのだろう。
「すずめ!」
「すずめちゃん!?どーした!?」
兄と妹が心配そうにしゃがんで、俺の顔を覗き込む。
遅れてこちらに到達したらしい彼も腰を落としてこちらに声をかけてくる。
「っ大丈夫ですか!?」
「あぁすみません、実は弟が体調が悪いみたいで…。」
兄と彼が会話しているのを、俺はぼんやりとした頭で聞いていた。
「っはぁ……、」
息が上がってきて、体が熱い。
「よろしければ、弟さんを休める所まで運びますよ。」
「ありがとうございます!とても助かります!じゃあつばめ、兄ちゃんちょっとスポーツドリンク買ってくるからこの方を俺の車まで案内してくれ!」
「りょーかい!」
兄は俺が熱中症だと思ったのか妹に車の鍵を渡し、俺に塩分をとらせようと近くの自販機まで走っていった。
「では、すずめさん?でいいのかな。俺の首に手を回してしっかり捕まっていてくださいね。」
「わ!」
去っていく兄の背中をぼーっと見ていると突然俺の体が浮かび上がる。
どうやらさっきの男性に横抱きにされているようだ。
「あっちの車です~!あのビカビカ無駄に発光してる蛍光ピンクの変なやつ!」
(つばめ、その車多分この人も乗ってるからどうか言葉を選んでくれ…)
ナチュラルに車をボコボコに貶しながら、妹が彼を案内する。
マスクにサングラスで表情は見えないが、どうか気分を害していない事を祈りたい。
車まで到着した男性が座席を手慣れた手つきで倒して俺をそこにうやうやしく寝かせてくれた。
「気分はいかがですか?」
「あ、大丈夫です。運んでいただいてありがとうございました…。」
正直、この男性が離れてくれれば一旦落ち着きそうなのだが、彼も同じことを思ったのか俺から少し距離をおいて連絡先を書いた紙を渡してくる。
「とりあえず、俺は一旦この場を離れた方がよさそうですね。すずめさん。これ、俺の電話番号です。できればもう一度あなたと話す機会が欲しい。」
「え…。」
「今日は不躾に近づいてしまって申し訳ない。次はもっと強めの抑制剤を飲んでおきますから、どうか怖がらないで。」
そう言って彼は俺の手を取りキスをするような仕草をした後、颯爽とその場を去っていった。
(なんかこの人、見た目不審者なのに絵本に出てくる王子様みたいな事するな…。)
まぁいつかお礼をした方がいいだろうし、彼の電話番号は一応登録しておこう。
「すずめちゃん、大丈夫…?」
数分間落ち着きなくそわそわしてた妹が、俺の隣で不安そうに声をかけてくる。
彼の姿ももう見えなくなり、発情しかけていた体がスッと正常に戻ってきた。
「うん。もう全然平気!」
「ほんと?よかった~!」
(なんとか発情せずに済んでよかった。つばめにもせっかくの文化祭なのに変に心配かけちゃったな。)
あっという間にいつも通り体を動かせるようになり、俺は何事も無かったかのように車から降りると、丁度兄も自販機から帰ってきていた。
「はぁっはぁっ…すずめ!ジュース買ってきたぞ!」
「あ!お兄ちゃん!おっそーい!すずめちゃんもうとっくに回復したんだからね!!」
「は?!早!俺が自販機行ってから3分たってなくね?!」
スポーツドリンクを10本以上小脇に抱えた兄が理不尽に妹に怒られている。
(お兄ちゃん…気持ちは嬉しけど俺そんなに飲めないよ…)
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