上 下
25 / 169
第1章

第25話《自分の白無垢姿に衝撃を受けるすずめ》

しおりを挟む
まぁ、人にはそれぞれ事情があるか…。

あのα以外は人間だと認識しているかどうかも怪しいひなの事だ。
フクロー君の事を鑑みても俺よりひどい目にあっている被害者も思ったよりいるのかもしれない。


そんなことよりもだ。
もしシマちゃんがコンテストに優勝するのなら、それは俺にとってもかなり都合が良い。

手助けしてあげたいところだけど、こっちはミスターコンの事で手一杯だし、シマちゃんはシマちゃんで既に優勝する自信があるということは、余程ひなの悪評の拡散がうまくいっているのだろう。

《総一郎に思いを寄せているひなが取り巻きを使って総一郎の恋人を攻撃していた。
他人の恋人を暴力と圧力で寝取ろうとするなんて最低だ。》
と、まぁ噂を流すとしたらこんなところだろうか。

そういった目撃者も少なからず存在する真実味のある噂の渦中で、明日のミスターコンで総一郎とひなが新郎新婦役で仲睦まじくランウェイを歩こうものなら、余計にヘイトが溜まって一部からはブーイングも起こるだろう。

そうなれば他の観客たちも何があったのか怪訝に思って、勝手に自ら噂を探りに行く側にまわってくれる。
皆有名人の炎上系ネタが大好きだからな。

こうやってあいつらがコンテストの準備も碌にせずに自分の美しさに胡坐をかいて浮気デートしている裏ではこんなに大きな波風が立っているのだ。


◇◇◇


「それで、すずめちゃんはどんな衣装を探してるの?」

いつのまにかウエディングドレスを脱いで私服に着替えたらしいシマちゃんが俺の隣で首を傾げる。

「ああ。白無垢だよ。ミスターコン第一審査のエキストラで着るんだ。」
「ミスターコン!やっぱりすずめちゃんもランウェイ歩くんだ!…ってあれ?ミスターコンのお題って確かタキシードじゃなかったっけ?タキシードに白無垢??」

シマちゃんは明らかに不可解といった表情を浮かべている。無理もない。
まさか、お題がタキシードなのに紋付き袴で挑もうとする出場者がいるなんて思いもしないよな。

「いや…俺、出場者の相田長介君っていう人と組むことになってるんだけど…彼、紋付き袴が着たいらしいんだ。だから俺も必然的に白無垢になるんだよね。」
「ん?相田君…?え…相手鷹崎君じゃないの!?恋人同士なのに…?」
「あはは、総一郎君にはどうしてか誘われなかったんだ。」 

俺が苦笑いしながらそう呟くと、シマちゃんは色々察したのか同情した顔をして肩をポンポンと叩いてきた。

「大丈夫だよ!明日サプライズで誘われるかもしれないし。もしそうじゃなかったらランウェイを相田君って人と歩いていっぱいヤキモチ焼かせたらいいよ!」
「ありがとう…うん、そうする!」


シマちゃんは共通の敵を持つ味方ではあるけど、俺があいつらに復讐しようとしている事は家族にすら言うつもりはない。

誰も俺の復讐心を知らないまま、勝手にひなと総一郎が自滅していくように仕向けるのが理想なのだ。


◇◇◇


「あ!あった!白無垢!」

シマちゃんと雑談を交わしながらも衣装を探していると、お目当ての白無垢は割とすぐに見つかった。
(半ば見つからないって諦めてたのに…。〇×大学の文化祭ってすごいんだな…。)

「え。見つかった?ってわあ!綺麗な衣装!」
「……うん、すごいね。俺、こんなの似合うかな…」
「絶対似合うよ!試着してみよ!」

白い着物には、細かな模様が施されており、美しいオフホワイトで大人っぽい色合いだ。
(着るのちょっとわくわくするかも。)


シマちゃんに言われるがまま、軽く白無垢に袖を通して近くにあったスタンドミラーで自分の姿を見てみると、これまた見事に似合ってなかった。


「…………あれ?なんか俺、絶望的に似合ってないよね?なんで??」
「いやいや!そんな、七五三みたいでかわいいよ?」

うーん…男にしては華奢なはずなんだけど…いかり肩だからかな…。
衣装は完璧なのに全然大人っぽさも色っぽさもない。

(ショックだ。俺ってシンプルに女装似合わないんだな…。他のΩの人達はメイド服とか似合ってたのに。)

この様子じゃウエディングドレスなんかもっと悲惨だっただろう。
もしかしたら総一郎が俺を誘わなかったのはこれを見抜いていて、恥を掻きたくなかったからなのか…?

何はともあれ、白無垢で良かった。ありがとう相田君。



観客からはくすくす笑われそうだが、復讐のためなら手段を選ばないと決めたんだ。
そういう笑われ役も相田君だけに背負わせるのは未来の義兄としてダメだよな、うん。

実際ほんの少しがっかりしたけど、相田君のポジティブさを俺も見習わなければ。
しおりを挟む
感想 499

あなたにおすすめの小説

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...