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ありきた

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7話 何気ない会話の裏側

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「ホラー映画って、夜に見るものじゃないよね。頭から離れなくて、なかなか寝付けな――」

 いつもより少し眠そうな声で話すつぐみさんが、途中で言葉を途切れさせた。
 口元を手のひらで隠しつつ、「ふわぁ~」と大きなあくびをしている。

「呼んでくれれば、添い寝のために寮まで駆け付けますよ」

「あはは、ありがとっ。美夢ちゃんがいてくれれば、安心して眠れそう」

 わたしの提案に、つぐみさんはクスッと笑いながら乗ってくれる。
 と、傍目から見ればただ仲睦まじい二人の会話なんだけど。
 実のところ、わたしの胸中は穏やかじゃない。
 率直に言うと、無性にムラムラしている。
 年頃なんだからエッチな気分になるのは普通だなんて、そういうレベルを軽く逸脱していると断言できるほどの劣情を催している。
 一日経てば多少は穏やかに――とはいえ人並み以上ではあるけれど――落ち着くだろうから、今日のところはどうにか堪えなければ。

「いつか美夢ちゃんとお泊まりしたいな~」

「わたしもです。冬休みまでそう遠くないですし、計画を立てておくのもいいかもしれませんね」

 なんて平然と返しながらも、頭の中ではつぐみさんとのお泊まりという素敵イベントに興奮を禁じ得ない。
 一つ屋根の下で時間を気にせず話したり、お菓子を食べたり、遊んだり、ご飯やお風呂、寝るときも一緒で、二人の体温によって布団の中は冬の寒さをものともしないほど温かくなって、そして体を密着させながら言葉を交わすうちに気持ちも高まって、やがて二人はどちらからともなく唇を重ね、そのまま肌を――

「美夢ちゃん、どうしたの? もしかして美夢ちゃんも眠い?」

 つぐみさんに声をかけられ、妄想から帰還する。
 どうやら妄想に耽るあまり、ボーっとしていたらしい。つぐみさんとの貴重な時間だというのに、信じられない失態だ。

「ご、ごめんなさい、お泊まりについて考えてました」

 そこからエッチな妄想に発展しました、という正直すぎる言葉をどうにか飲み込む。
 危険な部分は省いたけど、決して嘘は言っていない。お泊まりについて思案していたのは事実だ。

「想像するだけで楽しみだよね。あ、でも、美夢ちゃんと一緒に寝ることになったら、ドキドキして眠れないかも」

 屈託のない笑顔を浮かべながらも、ほんのりと頬を染めるつぐみさん。
 うぅ、相変わらずかわいすぎる。
 思いっきり抱きしめたい。酸欠になるまでキスをしたい。体の隅々まで愛し尽くしたい。

「そうなったら、寝落ちするまでずっと話しましょう」

「いいね! だけど、楽しすぎて気付いたら朝になってたりして」

「あー、それは確かに有り得ますね」

 つぐみさんが冗談めかして発した言葉を真に受け、わたしは重々しくうなずく。
 同調するかのようなタイミングでチャイムが鳴り、名残惜しくも一旦解散となる。
 お泊まりともなれば休み時間と比べて遥かに長い時間を共にできるわけだけど、普段あんまり一緒にいられない分、際限なく会話が弾みそうだ。
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