甘美な百合には裏がある

ありきた

文字の大きさ
上 下
101 / 124

100話 ホラー要素皆無の百物語

しおりを挟む
 和室で座布団を円状に並べ、私から右に姫歌先輩、葵先輩、アリス先輩、真里亜先輩という順に座る。
 いまから行われるのは、まったく怖くない百物語だ。
 怪談を百話語り終えて物の怪が出てきたら怖いので、創作部らしくアレンジを加えることになった。

「みんな、ルールは把握できているかしら❤」

「うんっ、大丈夫だよ~! 怖い話じゃなくてエッチな話をするんだよね!」

「さ、最初は、座ってる順番に進めて、い、一巡したら、挙手制になる」

「実体験だけじゃなく妄想も可だから、百話ぐらいなら余裕でこなせそうね」

 ルール内容は先輩たちが言った通り。
 思い付きによる遊びだから、それほど厳格な取り決めはない。
 不安があるとすれば、百話目を終えるまで羞恥心に耐えられるかどうか。
 ホラー要素はないけど、それに勝るとも劣らない緊張感がある。
 さて、まずは順番決めだ。
 毎晩寝る場所を決めるときに使っているサイコロを取り出し、順番に振っていく。
 出た目が一番大きい人がトップバッターで、時計回りに続けていき、一巡したら順不同で進める。

「あ、私からですね」

 姫歌先輩が2、葵先輩が1、アリス先輩が2、真里亜先輩が3と、軒並み小さな目ばかりが出る中、最後に振った私が出したのは6だった。

「うふふ❤ 悠理のエッチな話、期待しているわよ❤」

「ほどほどに頑張ります」

 とは言ったものの、なにを話そ――あ、そうだ。
 話題は決まった。まだ記憶に新しい、黒歴史と呼ぶに値する出来事。

「これは先輩たちも知っていることなんですけど、実は私、尋常じゃなく恥ずかしい体験をしたんです」

 雰囲気作りのため、一拍置く。
 先輩たちの視線を一身に受けつつ、すぅっと息を吸い込んで続きを話す。

「その日は私が最初に目を覚まして、こっそり先輩たちの寝顔を堪能していました。かわいいなぁ、かわいいなぁって、ドキドキさせられた矢先に……姫歌先輩が、エッチな吐息を漏らしたんです」

 ここで再び深呼吸。
 羞恥心に苛まれる覚悟を決め、口を開く。

「興奮を抑えられなくなった私は、みんなが寝ている部屋の中で、自慰行為を始めてしまったんです。我ながら正気の沙汰とは思えません。その結果、うっかり声が漏れてみんなを起こしてしまい、経緯を説明するという恥辱を味わうことになりました。以上で、この話は終わりです」

 うわぁぁああああっ、やっぱり別の話にすればよかった!
 当時の恥ずかしさがよみがえる!
 恥の上塗りって、こういうことを言うのかな。
 表面上は平静を装っているけど、顔が燃えるように熱い。まず間違いなく、耳まで真っ赤になってる。

「さすが悠理❤ トップバッターにふさわしい話だったわぁ❤」

「うぅ、ありがとうございます」

 喜んでいいのか分からないけど、褒められて嬉しいと感じてしまう。

「時計回りだから、次は姫歌だね! いまの話の後だと、かなりハードル高いよ~」

「あらあら❤ とっておきを出す必要がありそうね❤ 悠理が実体験だったから、わたしは妄想で続かせてもらうわ❤」

 姫歌先輩は頬にそっと手を添え、ニコニコと微笑みながら話し始める。

「ある日、トイレで――」

 そこからの内容は、あらゆる意味でヤバかった。
 断片を思い出しただけでもすさまじい興奮を誘う、エッチすぎるにもほどがある猥談。
 仮にこの卑猥さを恐ろしさに変換した怪談があるとするなら、恐怖のあまり精神が壊れても不思議じゃない。
 素直な感想としては、控えめに言って最高だった。

「姫歌~っ、いくらなんでもハードル上げすぎだよ! 棒高跳びのバーより高く設定されてるじゃん!」

 と、何気に上手いことを言った葵先輩。
 しばらく悩んだ末に選んだのは、イラストに関係する実体験とのこと。

「中二の頃にね、イラストの参考にしようと思って、部屋の中で裸になって姿見の前でいろんなポーズを取ってたんだ~。それで、M字開脚してアソコがどうなってるのか見てたときに……洗濯物を取りに来たお母さんが、扉を開けちゃってさ……あはは」

 いつも陽気でハイテンションな葵先輩が、珍しく乾いた笑いを漏らす。

「確か、その日からだったかな~。あーしは別にノックとか気にしないんだけど、お母さんがめちゃくちゃ気にするようになったんだよね。ってことで、あーしの番は終わり!」

 葵先輩が両手をパンッと叩いて話を締めくくり、手番がアリス先輩に移る。

「あ、アリスは、えっと……き、昨日、お風呂に入るとき、ゆ、悠理の後、だったから、せ、洗濯機の中にある下着を、こっそり借りて、か、嗅いだり、舐めたり、したの。す、すごく、興奮した。お、終わり」

 サラッととんでもないことを暴露されてしまった。
 汚いからやめた方がいいと思う反面、アリス先輩に興奮してもらえて嬉しくもある。

「次はあたしね。せっかくの機会だから、悠理に断られそうなプレイの妄想を語らせてもらうわ」

 内容によっては、もしかしたら断らずに済むかもしれない。真里亜先輩が望んでくれるなら、少しだけでも応えたい。
 そう考えていたのも束の間。
 嬉々として語られた妄想は、思わず青ざめてしまうほどに残酷で、参考にすることすら不可能な内容だった。
 これでようやく一巡、五話目が終わったに過ぎない。
 私たちの百物語は、まだまだ序盤だ。

***

 数時間後。永遠に続くかのように思えた百物語も、いよいよ最後の一話が語られた。
 怪談じゃなくて猥談だから、百話目を終えても物の怪は出ない。
 とはいえ、奇しくも――いや、必然と言うべきだろうか。
 その日の夜、私たちは全員そろってエッチな夢を見た。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...