甘美な百合には裏がある

ありきた

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94話 今日から夏休み

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「……ぁえ?」

 目を覚ますと同時に、間の抜けた声が漏れる。
 意識がハッキリしてくると、わずかに開いた口からよだれが垂れていることに気付いた。
 反射的にパジャマの袖で拭った直後、枕元にあるティッシュの存在を思い出す。

「ふわぁ~~」

 寝ぼけ眼をこすりながら上体を起こし、大きなあくびと共にうーんと伸びをする。
 今日は押入れの隣が私の寝場所。そこから左に、姫歌先輩、真里亜先輩、葵先輩、アリス先輩と並んでいる。
 就寝前にサイコロで寝る場所を決めるのは、ちょっとしたゲーム性があって楽しい。
 時計を見ると、学校がある日ならそろそろ家を出ようかという時間だった。
 せっかくの夏休みだし、もう少しゴロゴロしてても罰は当たらないよね。
 二度寝する前に、先輩たちの寝顔を堪能しておこう。

「はぁ、かわいい……」

 あまりにも可憐で美しく、感嘆の溜息に混じってシンプルな感想が口からこぼれた。
 いつまでも見ていたいけど、あんまり凝視していると魅力に当てられて理性が爆発しそうだ。
 速まる鼓動を深呼吸で整えてから、押入れに背中を向けて寝転び、布団を被る。

「ぅ、んっ❤」

 姫歌先輩が艶めかしい吐息を漏らしつつ寝返りを打ち、私と向き合う体勢になる。
 就寝中でも起きているときと同様、かわいい声なのに息遣いが色っぽい。
 困った。二度寝するつもりだったけど、興奮のあまり眠気が完全に消えた。
 うーん…………。
 誰も見てないし、布団の中で少し動くぐらいの物音なら、気付かれないはず。
 私は布団を深めに被り、寝ているとはいえ先輩たちが同じ部屋にいる中でオナ――もとい、昂りすぎた気持ちを静めるための行為を始めた。

***

 その後、うっかり大きめの声を漏らして先輩たちを起こしてしまい、何事かと心配されて事情を話すことになる。
 とんだ羞恥プレイを体験したことで真里亜先輩には羨まれたけど、私としては庭に穴を掘って埋まりたい気分だ。
 今年の夏休みは、いろんな意味で昨年までと一線を画す形で幕を開けた。
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