甘美な百合には裏がある

ありきた

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82話 創作部の新生活

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  夏休みの開始を待たずして、引っ越しが行われることとなった。
 引っ越しと言っても、それほど大がかりではない。
 タンスや冷蔵庫などの主要な家具は、家の持ち主――姫歌先輩の親戚が使っていた物をそのまま使わせてもらえる。
 学校から道路を挟んだ住宅街の中にある、二階建ての一軒家。一階にはリビング、ダイニング、キッチン、和室、洗面所と浴室があり、二階には八畳の部屋が一つと六畳の部屋が二つ。
 それと、各階にトイレがある。最近では珍しくないらしいけど、実際に見るのは初めてなので驚いてしまった。
 お母さんに車を出してもらったり荷物を運ぶのを手伝ってもらったりして、作業は順調に進んでいる。
 全員分の荷物は二階の部屋に分散して置かれ、荷解きはまた後ほど。ひとまず食器類だけ先んじて出しておいた。
 お母さんが帰った後に一抹の寂しさを感じたものの、実家が近いので会いたければいつでも会いに行ける。

「一息ついて落ち着くと、急にドキドキしてきました」

 いまはリビングに五人で集まり、テーブルを囲んでくつろいでいる。
 手元のグラスに注がれているのは、真里亜先輩特性のデトックスウォーター。ほのかな甘みと酸味の爽やかな味わいが乾いたのどを潤し、疲れた体に優しく染み渡っていく。
 作業中に押し込めていた感情が解き放たれ、先輩たちとの共同生活が始まったことを実感して心が浮き立つ。

「うふふ❤ エッチなイベントを期待しているのかしら❤」

「ち、違いますよ」

 期待していないと言えば嘘になるけど、それを意識して発したわけではない。

「記念にパーティーしようよ~! 家からホットプレート持って来たから、鉄板焼きやりたい!」

「いいですね! さっそくみんなで買い出しに行きましょう!」

「下ごしらえはあたしに任せなさい!」

「あらあら❤ デザートはもちろん、悠理よねぇ❤」

「しゃ、写真とか動画、い、いっぱい撮らないとっ」

 引っ越しで疲れているはずなのに、みんなのテンションはいつも以上に高い。
 これから始まる同棲生活への期待感が、無尽蔵の活力を生み出している。
 そもそも先輩たちと一緒に食事できるだけでも嬉しいのに、鉄板焼きパーティーという魅力的な提案、盛り上がらないわけがない。
 私たちはすぐさま身支度を整え、食材を求めて住宅街の外れにあるショッピングモールへと向かうのだった。
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