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36話 新たな境地
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今日はやけに、真里亜先輩が上機嫌だ。
私が席に着くや否や、彼女はイスをずらして隣に座り、ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべている。
美少女はなにをしていても魅力的だけど、やはり笑顔に勝るものはない。
チラッと視界に映しただけでも心を奪われ、理性の崩壊を促すように鼓動が速まっていく。
ただ、なぜこうも嬉しそうなのだろうか。
「ど、どうしたんですか?」
純粋な興味に加えて胸の高鳴りが危険域にまで達したことから、隣を向いて視線を合わせ、素朴な疑問をぶつける。
すると真里亜先輩は、待ってましたと言わんばかりに体を前に倒し、鼻が触れてしまいそうな位置にまで顔を近付けてきた。
急接近した紺碧の瞳はあまりにも美しく、思わず見入ってしまう。
「よくぞ聞いてくれたわ! ふふっ、実はすっごくいいことを閃いたのよ! 論より証拠、善は急げよ! とりあえず悠理、目を閉じて前を向きなさい!」
内容については想像もつかないけど、なにやら嫌な予感がする。
指示に従い、正面に向き直ってまぶたを下ろす。
視界が閉ざされる寸前に、姫歌先輩たちが興味津々な様子でこちらを伺っているのが確認できた。
これからなにが起きるのか分からない。
一抹の不安と緊張感、そして視覚情報を失ったことから、他の感覚が鋭敏になる。
「それじゃあ、始めるわね」
「んひぃっ!」
恥ずかしいほどの嬌声を発してしまい、いまさらながらに口を手で塞ぐ。
ただの開始宣言と称するには、あまりにも扇情的すぎた。
熱い吐息が耳全体を責め立て、声がもたらした刺激は脳を介して全身に広がる。
「あたしね、昨日の夜、悠理のことを思いながら――」
ゆっくりと、子どもに絵本を読み聞かせるように丁寧な口調で、真里亜先輩は言葉を紡ぐ。
私は変な声を漏らさないように唇をキュッと結び、黙って耳を傾ける。
肝心の内容はと言うと、昨晩の自慰行為についての説明だった。
状況、場所、手順、感想。想像に必要な情報が余さず開示され、脳内で鮮明に再生される。
実体験だからこそ、計り知れないほどに生々しい。
以前に同様の話題を繰り広げたことはあったけど、ここまで事細かには話さなかった。
しかも、話はそれだけじゃ終わらない。
本人以外は決して知り得ない、絶対に知られたくないようなことを、真里亜先輩はハッキリと声に出す。
私が彼女の立場だったら、今頃は羞恥心に耐え切れず逃げ出していたことだろう。
って、まさか……?
いや、間違いない。
そうか、そういうことだったんだ。
「もう、目を開けていいわよ」
常人なら正気を保てないほどの恥ずかしい暴露を終えて、真里亜先輩が静かに告げた。
何度か瞬きをして照明の眩さに目を慣らし、体ごと右側を向く。
そこには、固く閉ざした太ももの間に両手を挟み、顔を真っ赤にしてぷるぷると小刻みに震える真里亜先輩の姿があった。
元の位置に戻る余裕すらないように見える。
あんなことやこんなこと、なにからなにまで。包み隠さず己の恥部を語り聞かせたのだから、正気を維持できているだけ称賛に値する。
そして、私の予想が正しければ、これは彼女が望んだ結果に他ならない。
本人からの説明がないので断言はできないけど、今回ばかりは自分の考えを信じてよさそうだ。
恍惚とした笑顔はどんな言葉よりも雄弁に、真里亜先輩がいかに満足したかを物語っている。
「ふっ、ふふっ、あたしの目論見は成功したわ。これからは能動的に、恥辱を味わうことができるわよ!」
誰にも言えない恥ずかしい秘密を私に耳打ちすることで、羞恥による責め苦を受ける。
なるほど、ドМを極めた真里亜先輩だからこそ可能な発想だ。
「すごいじゃん真里亜! でも、かなり負担かかってそうだけど、平気なの?」
「平気とは言えないわね。羞恥と快感が頂点に達して、頭がどうにかなりそうよ。こんな状態で悠理に殴られでもしたら、盛大に果てて失神してしまうわ」
葵先輩に答えつつ、真里亜先輩がチラチラと私の腕へ目をやる。
声のトーンを落とし、「殴りませんよ」と断っておく。
「うふふ❤ わたしたちも負けてられないわねぇ❤」
「そ、そう、だね。も、もっと、悠理へのアプローチ方法、ふ、増やさないと」
姫歌先輩とアリス先輩が妙な対抗意識を燃やしている。
私がヘタレだから、先輩たちに物足りなさを感じさせてしまっているのだろうか。
「も、もしかしなくても、私って先輩たちを恋人として満足させられてない、ですか?」
おそるおそる、みんなに問う。
「あらあら❤ そんなことはないわよぉ❤ ただちょっと、悠理からのスキンシップが少ないとは思うけれど❤」
「一緒にいてくれるだけで充分に嬉しいんだけど、もっとグイグイ来てほしいとは思うかな~」
「あ、アリスたちが、照れちゃうぐらい、せ、積極的になってくれると、嬉しい」
「たまにはボコボコにしてほしいわね」
薄々感じていたけど、やっぱり……。
素直な意見が私の心に刺さり、己の不甲斐なさを痛感する。
先輩たちを幸せにするという強固な決意は揺るがないし、イチャイチャしたいという率直な願望も日に日に強まる一方だ。
にもかかわらず、さして行動に移せていない。
「安心してください。すぐには無理かもしれませんけど、ヘタレを脱却してみせますよ!」
自分に言い聞かせる意味も込めて、声を大にして宣言する。
一拍も置かないうちに、拍手喝采が沸き起こった。
***
家に帰ってから自分の発言を思い返し、『すぐには無理かもしれませんけど』ってところは余計だったと反省する。
『いずれ』とか『近いうちに』などと先延ばしにせず、さっそく明日から一歩踏み出すことにしよう。
私が席に着くや否や、彼女はイスをずらして隣に座り、ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべている。
美少女はなにをしていても魅力的だけど、やはり笑顔に勝るものはない。
チラッと視界に映しただけでも心を奪われ、理性の崩壊を促すように鼓動が速まっていく。
ただ、なぜこうも嬉しそうなのだろうか。
「ど、どうしたんですか?」
純粋な興味に加えて胸の高鳴りが危険域にまで達したことから、隣を向いて視線を合わせ、素朴な疑問をぶつける。
すると真里亜先輩は、待ってましたと言わんばかりに体を前に倒し、鼻が触れてしまいそうな位置にまで顔を近付けてきた。
急接近した紺碧の瞳はあまりにも美しく、思わず見入ってしまう。
「よくぞ聞いてくれたわ! ふふっ、実はすっごくいいことを閃いたのよ! 論より証拠、善は急げよ! とりあえず悠理、目を閉じて前を向きなさい!」
内容については想像もつかないけど、なにやら嫌な予感がする。
指示に従い、正面に向き直ってまぶたを下ろす。
視界が閉ざされる寸前に、姫歌先輩たちが興味津々な様子でこちらを伺っているのが確認できた。
これからなにが起きるのか分からない。
一抹の不安と緊張感、そして視覚情報を失ったことから、他の感覚が鋭敏になる。
「それじゃあ、始めるわね」
「んひぃっ!」
恥ずかしいほどの嬌声を発してしまい、いまさらながらに口を手で塞ぐ。
ただの開始宣言と称するには、あまりにも扇情的すぎた。
熱い吐息が耳全体を責め立て、声がもたらした刺激は脳を介して全身に広がる。
「あたしね、昨日の夜、悠理のことを思いながら――」
ゆっくりと、子どもに絵本を読み聞かせるように丁寧な口調で、真里亜先輩は言葉を紡ぐ。
私は変な声を漏らさないように唇をキュッと結び、黙って耳を傾ける。
肝心の内容はと言うと、昨晩の自慰行為についての説明だった。
状況、場所、手順、感想。想像に必要な情報が余さず開示され、脳内で鮮明に再生される。
実体験だからこそ、計り知れないほどに生々しい。
以前に同様の話題を繰り広げたことはあったけど、ここまで事細かには話さなかった。
しかも、話はそれだけじゃ終わらない。
本人以外は決して知り得ない、絶対に知られたくないようなことを、真里亜先輩はハッキリと声に出す。
私が彼女の立場だったら、今頃は羞恥心に耐え切れず逃げ出していたことだろう。
って、まさか……?
いや、間違いない。
そうか、そういうことだったんだ。
「もう、目を開けていいわよ」
常人なら正気を保てないほどの恥ずかしい暴露を終えて、真里亜先輩が静かに告げた。
何度か瞬きをして照明の眩さに目を慣らし、体ごと右側を向く。
そこには、固く閉ざした太ももの間に両手を挟み、顔を真っ赤にしてぷるぷると小刻みに震える真里亜先輩の姿があった。
元の位置に戻る余裕すらないように見える。
あんなことやこんなこと、なにからなにまで。包み隠さず己の恥部を語り聞かせたのだから、正気を維持できているだけ称賛に値する。
そして、私の予想が正しければ、これは彼女が望んだ結果に他ならない。
本人からの説明がないので断言はできないけど、今回ばかりは自分の考えを信じてよさそうだ。
恍惚とした笑顔はどんな言葉よりも雄弁に、真里亜先輩がいかに満足したかを物語っている。
「ふっ、ふふっ、あたしの目論見は成功したわ。これからは能動的に、恥辱を味わうことができるわよ!」
誰にも言えない恥ずかしい秘密を私に耳打ちすることで、羞恥による責め苦を受ける。
なるほど、ドМを極めた真里亜先輩だからこそ可能な発想だ。
「すごいじゃん真里亜! でも、かなり負担かかってそうだけど、平気なの?」
「平気とは言えないわね。羞恥と快感が頂点に達して、頭がどうにかなりそうよ。こんな状態で悠理に殴られでもしたら、盛大に果てて失神してしまうわ」
葵先輩に答えつつ、真里亜先輩がチラチラと私の腕へ目をやる。
声のトーンを落とし、「殴りませんよ」と断っておく。
「うふふ❤ わたしたちも負けてられないわねぇ❤」
「そ、そう、だね。も、もっと、悠理へのアプローチ方法、ふ、増やさないと」
姫歌先輩とアリス先輩が妙な対抗意識を燃やしている。
私がヘタレだから、先輩たちに物足りなさを感じさせてしまっているのだろうか。
「も、もしかしなくても、私って先輩たちを恋人として満足させられてない、ですか?」
おそるおそる、みんなに問う。
「あらあら❤ そんなことはないわよぉ❤ ただちょっと、悠理からのスキンシップが少ないとは思うけれど❤」
「一緒にいてくれるだけで充分に嬉しいんだけど、もっとグイグイ来てほしいとは思うかな~」
「あ、アリスたちが、照れちゃうぐらい、せ、積極的になってくれると、嬉しい」
「たまにはボコボコにしてほしいわね」
薄々感じていたけど、やっぱり……。
素直な意見が私の心に刺さり、己の不甲斐なさを痛感する。
先輩たちを幸せにするという強固な決意は揺るがないし、イチャイチャしたいという率直な願望も日に日に強まる一方だ。
にもかかわらず、さして行動に移せていない。
「安心してください。すぐには無理かもしれませんけど、ヘタレを脱却してみせますよ!」
自分に言い聞かせる意味も込めて、声を大にして宣言する。
一拍も置かないうちに、拍手喝采が沸き起こった。
***
家に帰ってから自分の発言を思い返し、『すぐには無理かもしれませんけど』ってところは余計だったと反省する。
『いずれ』とか『近いうちに』などと先延ばしにせず、さっそく明日から一歩踏み出すことにしよう。
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