32 / 124
31話 先輩を罵った結果
しおりを挟む
部室に足を踏み入れた瞬間、既視感のある光景が視界に飛び込んだ。
「悠理、お願い! あたしを罵倒してちょうだい!」
流れるような動きで、真里亜先輩が模範的な土下座を披露する。
以前、お尻を叩いたときのことが脳内に浮かぶ。
「このままだと我慢できなくなって、力づくで痛め付けさせてしまうかもしれないわ!」
おそらく――いや間違いなく、『力づくで痛め付けさせる』なんて言葉を用いるのは、この世で真里亜先輩だけだ。
彼女は気の強さに反して真性のドМなので、たまに日常生活ではまず聞かないような言い回しが用いられる。
「と、とにかく顔を上げてください。まずは落ち着いて話し合いましょう」
私の要求は受け入れられ、着席して一息ついたところで話を再開する。
「とりあえず、真里亜先輩がしてほしいことを教えてください」
先輩を罵倒なんてしたくないけど、真里亜先輩がそれを渇望しているのは明確な事実。
あまりにも過激な行為はともかく、お尻を叩くのと同程度なら不可能ではない。
私の意思を感じ取ったのか、真里亜先輩はパァッと笑顔を咲かせ、嬉々として語り始めた。
「ありがとう! やっぱり、最初は定番の腹パンがいいわね。よろめいたところをすかさず蹴り飛ばしてもらって、堪え切れず倒れたところに唾を吐き捨ててほしいわ。仕上げに思い切り踏みにじられながら、罵詈雑言を浴びせてもらえると嬉しいわ」
内容の凄まじさとは裏腹に、瞳がキラキラと輝いている。
「はぁ、嫌ですよ」
申し訳ないけど、さすがに却下だ。
本気で望んでくれているのは分かる、欲求が満たされないもどかしさも理解できる。
ただ、無理なものは無理。
「あぁんっ、バッサリ切り捨てられるのも気持ちいいわ! 冷たい視線と呆れ果てたような溜息も最高よ!」
予期せぬところで喜んでもらえた。
「そうだわ❤ 言葉責めというのはどうかしらぁ❤」
ポンッと手を合わせ、姫歌先輩が提案を述べる。
「なるほど~っ、名案だね!」
「さ、さすが、姫歌」
「言葉責め、いいじゃない! さぁ悠理、あたしの心が壊れるぐらい徹底的に罵りなさい!」
トントン拍子で話が進み、決定事項となってしまった。
悪口を言うのは気が引けるけど、先ほど真里亜先輩が口にした行為と比べればマシかもしれない。
「分かりました、任せてください」
「ふふっ、頼もしいわね。それじゃあ、こういうセリフを――」
言いもってメモにセリフを書き出し、文字で埋まったそれを手渡される。
さらにはアリス先輩による演技指導も受け、セリフの暗記を終えたところで若干の移動を行う。
真里亜先輩は床に正座し、こちらを見上げる。説教される子どものように身を縮こまらせているけど、期待と高揚感が全身から滲み出ていた。
私は偉そうに腕を組み、わずかに目を細めて嘲るように彼女を見下す。演技とはいえ、心が苦しい。
ちなみに、この時点ですでに何度かリテイクを受けている。
大きく深呼吸をして、いよいよ本番に入る。
「真里亜先輩、あなたって本当に卑しい雌豚ですね。罵られて喜ぶなんて、気持ち悪いにもほどがありますよ。まったく、腐った生ゴミにも劣る汚物です。便器扱いされるのがお似合いですから、今度気が向いたら使ってあげてもいいですよ。ぺっ」
最後の部分は、実際に唾を吐くのは罪悪感に耐え切れないので、声だけで我慢してもらう。
というか、もう限界だ。
「うぅっ、ごめんなさい! 大好きな先輩に、こんなこと……」
いたたまれなくなって謝罪する途中、真里亜先輩の様子に気付く。
表情はトロンと蕩け切っていて、頬は紅潮し、口元はこの上なく嬉しそうに緩んでいる。
よく見ると体はビクンビクンッと小刻みに震えているし、明らかに普通じゃない。
「せ、先輩、大丈夫ですか?」
「さ、最高だったわ。ただ、思ってたより刺激が強くて……今日はもう帰るわ」
そう言いもって立ち上がろうとするも、足に力が入らないらしく、ぺたんっと尻餅をつく。
「あらあら❤ すぐには帰れそうにないわねぇ❤」
スッと立ち上がった姫歌先輩が、真里亜先輩に肩を貸してイスに座らせる。
真里亜先輩がさっきまで腰を下ろしていた場所は、なぜか少し湿っていた。
まさかこんな結末になるとは……。
なにはともあれ、満足してもらえてよかった。
「悠理、お願い! あたしを罵倒してちょうだい!」
流れるような動きで、真里亜先輩が模範的な土下座を披露する。
以前、お尻を叩いたときのことが脳内に浮かぶ。
「このままだと我慢できなくなって、力づくで痛め付けさせてしまうかもしれないわ!」
おそらく――いや間違いなく、『力づくで痛め付けさせる』なんて言葉を用いるのは、この世で真里亜先輩だけだ。
彼女は気の強さに反して真性のドМなので、たまに日常生活ではまず聞かないような言い回しが用いられる。
「と、とにかく顔を上げてください。まずは落ち着いて話し合いましょう」
私の要求は受け入れられ、着席して一息ついたところで話を再開する。
「とりあえず、真里亜先輩がしてほしいことを教えてください」
先輩を罵倒なんてしたくないけど、真里亜先輩がそれを渇望しているのは明確な事実。
あまりにも過激な行為はともかく、お尻を叩くのと同程度なら不可能ではない。
私の意思を感じ取ったのか、真里亜先輩はパァッと笑顔を咲かせ、嬉々として語り始めた。
「ありがとう! やっぱり、最初は定番の腹パンがいいわね。よろめいたところをすかさず蹴り飛ばしてもらって、堪え切れず倒れたところに唾を吐き捨ててほしいわ。仕上げに思い切り踏みにじられながら、罵詈雑言を浴びせてもらえると嬉しいわ」
内容の凄まじさとは裏腹に、瞳がキラキラと輝いている。
「はぁ、嫌ですよ」
申し訳ないけど、さすがに却下だ。
本気で望んでくれているのは分かる、欲求が満たされないもどかしさも理解できる。
ただ、無理なものは無理。
「あぁんっ、バッサリ切り捨てられるのも気持ちいいわ! 冷たい視線と呆れ果てたような溜息も最高よ!」
予期せぬところで喜んでもらえた。
「そうだわ❤ 言葉責めというのはどうかしらぁ❤」
ポンッと手を合わせ、姫歌先輩が提案を述べる。
「なるほど~っ、名案だね!」
「さ、さすが、姫歌」
「言葉責め、いいじゃない! さぁ悠理、あたしの心が壊れるぐらい徹底的に罵りなさい!」
トントン拍子で話が進み、決定事項となってしまった。
悪口を言うのは気が引けるけど、先ほど真里亜先輩が口にした行為と比べればマシかもしれない。
「分かりました、任せてください」
「ふふっ、頼もしいわね。それじゃあ、こういうセリフを――」
言いもってメモにセリフを書き出し、文字で埋まったそれを手渡される。
さらにはアリス先輩による演技指導も受け、セリフの暗記を終えたところで若干の移動を行う。
真里亜先輩は床に正座し、こちらを見上げる。説教される子どものように身を縮こまらせているけど、期待と高揚感が全身から滲み出ていた。
私は偉そうに腕を組み、わずかに目を細めて嘲るように彼女を見下す。演技とはいえ、心が苦しい。
ちなみに、この時点ですでに何度かリテイクを受けている。
大きく深呼吸をして、いよいよ本番に入る。
「真里亜先輩、あなたって本当に卑しい雌豚ですね。罵られて喜ぶなんて、気持ち悪いにもほどがありますよ。まったく、腐った生ゴミにも劣る汚物です。便器扱いされるのがお似合いですから、今度気が向いたら使ってあげてもいいですよ。ぺっ」
最後の部分は、実際に唾を吐くのは罪悪感に耐え切れないので、声だけで我慢してもらう。
というか、もう限界だ。
「うぅっ、ごめんなさい! 大好きな先輩に、こんなこと……」
いたたまれなくなって謝罪する途中、真里亜先輩の様子に気付く。
表情はトロンと蕩け切っていて、頬は紅潮し、口元はこの上なく嬉しそうに緩んでいる。
よく見ると体はビクンビクンッと小刻みに震えているし、明らかに普通じゃない。
「せ、先輩、大丈夫ですか?」
「さ、最高だったわ。ただ、思ってたより刺激が強くて……今日はもう帰るわ」
そう言いもって立ち上がろうとするも、足に力が入らないらしく、ぺたんっと尻餅をつく。
「あらあら❤ すぐには帰れそうにないわねぇ❤」
スッと立ち上がった姫歌先輩が、真里亜先輩に肩を貸してイスに座らせる。
真里亜先輩がさっきまで腰を下ろしていた場所は、なぜか少し湿っていた。
まさかこんな結末になるとは……。
なにはともあれ、満足してもらえてよかった。
0
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる