甘美な百合には裏がある

ありきた

文字の大きさ
上 下
31 / 124

30話 キスマークの場所について

しおりを挟む
 昨日はいろいろと刺激的だった。
 さすがに痕は消えているけど、あの興奮と感触はハッキリと覚えている。
 ところで、ふと気になって調べたところ、面白い情報を手に入れた。
 部活が始まってから先輩たちの様子を伺い、一息つくタイミングを見計らって話を切り出す。

「キスする場所って、意味があるらしいですよ」

 私がそう言うと、四人は一様に興味を示してくれた。
 自分と同じように関心を持ってくれたのが嬉しくて、自然と気分が高まる。
 スマホを取り出し、ブックマークに登録しておいたページを開く。
 そのサイトによると、姫歌先輩と葵先輩は首筋へのキスだから『執着』、アリス先輩は太ももだから『支配』、真里亜先輩は腕だから『恋慕』ということになる。
 キスマークを残すこと自体が目的だったことを考えると、痕が残らないような場所は選択肢から外されていたはず。心理テスト的な意味ではあまり期待できないけど、それに類する面白さがある。花言葉を知ったときの感覚に似ているかもしれない。
 テーブルの真ん中に置いたスマホの画面を、先輩たちは興味深げに凝視していた。

「うふふ❤ 悠理がいないと生きていけない体にされちゃったから、確かに執着してると言えるわねぇ❤」

「あーしもだよ~っ。悠理なしの生活なんて絶対に考えられない!」

 思い当たる節があるようで、二人ともうんうんと頷く。
 ただ、言い方がなんとなくエッチだと感じてしまうのは、私の心が汚れているのだろうか。

「あ、アリス、支配なんて、か、考えてないよ? お股に近かったから、ふ、太ももにした、だけだもん」

 やや毛色の違う単語だったこともあり、アリス先輩は焦って弁解する。
 私としても、アリス先輩と支配という言葉はどうにも結び付かない。

「あたしは文句の付けどころがないわね。恋慕なんて、まさにその通りよ」

 これ見よがしに髪をかき上げ、満足気に胸を張る真里亜先輩。
 とてつもなく嬉しいけど、直球すぎて少し照れてしまう。

「ところでさ~、額へのキスって祝福とか友情って意味らしいよ~?」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべ、葵先輩がからかうような声音でつぶやいた。

「祝福はともかく友情だなんて、さすがに悲しい❤」

 創作部で過ごすうちに、危機感知能力が飛躍的に強化されたかもしれない。
 姫歌先輩が便乗したことにより、嫌な予感を覚える。

「あ、アリスたちは、悠理のこと、愛してるのに」

「この結果にこだわるつもりはないけど、ちょっと気になるわよね」

 さすがいとこ同士だと褒めたくなるコンビネーションで、アリス先輩と真里亜先輩が続け様に言い放った。
 包囲網はすでに九割方完成している。
 私にできるのは、覚悟を決めることだけだ。

「というわけで! 唇じゃなくていいから、またみんなにキスしてよ!」

 心のどこかで期待していたこと――もとい、恐れていたことが現実となる。

「悠理さえよければ、顔のどこかにしてもらいたいわぁ❤」

 額以外で、顔のどこか。
 唇にしたいのは山々だけど、刺激が強すぎて先輩たちとまともに顔を合わせられそうにない。
 ほっぺたは照れるし、鼻やあごはなにか違う気がする。
 ――そうだ、あそこなら!

「分かりました、任せてください!」

 私は意を決して立ち上がり、耳たぶへのキスを決行した。

***

 顔を真っ赤にしてぷるぷる震える私を横目に、先輩たちは慈しむように自らの耳たぶに触れる。
 言うまでもなく、私が愛を込めて唇を重ねた場所だ。
 大事なのは自身が抱く気持ちであり、場所に秘められた意味がすべてではない。口に出さずとも、それは全員の共通認識に相違ない。
 だけど、あまりに浅はかだった。
 我ながら軽率だと言わざるを得ない。
 頬などと比べれば難易度が低いと判断した、耳たぶへのキス。
 しつこいようだけど、キスにおいて重要なのは本人の想いだ。
 耳たぶへのキスが『誘惑』を意味するのだとしても、私は決してそんな意図を持っていたわけではない。

「あらあら❤ 悠理の方から誘ってもらえるなんて、嬉しい限りね❤」

「部活中に先輩を誘惑するんだから、悠理って相当エッチだよね~」

「こ、心の準備、しておかないと」

「ふふっ、今後はお赤飯を炊く用意も必要かしら」

 そんなつもりじゃなかったんです、と言い返すこともできない。
 なにをどう取り繕ったところで、この流れでは言い訳にしかならないのだから。

「お、覚えておいてくださいよ! いつか必ず、先輩たちが驚くほど濃厚なキスをしますからね! 人には見せられないような、とってもエッチなキスを!」

 羞恥心で冷静さを失った状態で、先輩たちに一矢報いようと声を大にして宣言する。
 過激な内容に、四人の頬が瞬く間に紅潮していく。
 普段の先輩たちも異常なまでにかわいいけど、こういう不意に見せる表情もまた実に魅力的だ。

「って、あれ……? 私、いま……」

 ふふんっと誇らしげに不敵な笑みを浮かべたのも束の間、勢い任せに言い放った言葉を反芻して先輩たち以上に赤面し、両手で顔を覆って現実逃避のため机に突っ伏した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...